各国の子どもの貧困の割合
 現在、女性の非正規雇用の割合は56.7%と、依然過半数。非正規労働者は収入も低く、平均年収は168万円(国税庁調査)。しかも3人に1人は、家計の主たる稼ぎ手です。母子家庭などで、家計収入が低いため子どもが十分な教育を受けられず、また資格も取得できず、貧困が子どもに継承されてしまう「貧困の連鎖」が大きな社会問題になっています。
 子どもの貧困率は30年前の1985年に10.9%だったものが、最新の数値では16.3%と実に6人に1人の子どもが貧困な状況に置かれています。この数値はひとり親家庭では54.6%とバネ上がります。
 そして、この子どもの貧困は、子どもの将来に大きな影響を及ぼし、子ども本人だけでなく社会全体にとっても大きな損失をもたらします。
 公益財団法人の日本財団が三菱UFJリサーチ&コンサルティングの協力で、「子どもの貧困の社会的損失推計レポート」 を公表しました。現在15歳の子どものうち、生活保護世帯や児童養護施設、ひとり親家庭の子どもに教育支援などを行わなかった場合、社会が被る経済的損失は2.9兆円に上り、政府の財政負担は1.1兆円増えるとの試算を発表しました。
 厚生労働省の調査では、子どもの貧困率16.3%との数値は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で極めて高い水準にあります。
 貧困によって満足な教育が受けられず、進学や就職のチャンスを広げられなければ、生まれ育った家庭と同様に困窮に直面する「貧困の連鎖」が繰り返されることになります。
 今回の試算は1学年が対象です。全ての年齢やこれから貧困家庭に生まれてくる子どもたちを考慮すれば、社会への影響は甚大です。少子高齢化に伴って労働人口の減少が懸念される中、企業の人材や将来の社会保障の担い手不足に拍車が掛かるような事態は避けなければなりません。
 政府は、「1億総活躍社会」の実現に向け、ひとり親家庭に対する児童扶養手当の拡充や子どもの学習支援の強化などを盛り込んだ緊急対策を発表しました。子どもの貧困対策に欠かせない内容ばかりだが、その多くは、公明党の提案が反映されたものです。
 海外でも、子どもの貧困対策に力を入れている。イギリスでは「シュアスタート」と呼ばれる取り組みで、行政やNGOなどが協力して子育て相談や児童手当の支給手続き、親自身の就労支援などを総合的に行っています。支援内容は地域の実情に合わせて決定され、孤立しがちな貧困家庭の親や子どもの居場所としての役割も担っています。
 子どもの貧困は、個人の問題と捉えられがちですが、日本の未来を左右する重要な課題でもあります。国を上げて、地域の根ざした子どもの貧困対策を展開すべきです。

日本財団「子どもの貧困の社会的損失推計レポート」2015/12/3
http://www.nippon-foundation.or.jp/news/articles/2015/img/71/1.pdf

 このレポートでは以下のような『考察』を行っています。
 本推計から、子どもの貧困を放置することによって所得総額が2.9兆円減少し、税・社会保障の純負担額が1.1兆円減少することが明らかになった。 これらの数値はさまざまな仮定の下で算出されたものである事に留意する必要があるが、以下のような社会的・政策的なインプリケーションがあると考えられる。
 第一が子どもの貧困対策の金額としての大きさである。子ども・子育て関連の施策のなかで最も予算額の大きな児童手当についてみると、平成27年度の給付予算額は2.2兆円ほどである。児童手当は中学生までが給付対象であるため、これを単純に15で割って各歳当たりの平均給付額を算出すると約 1500億円となる。これは、子どもの貧困対策によって生まれる所得総額の5%程度、税・社会保障の純負担額の10数%程度であり、子どもの貧困対策は、経済的・投資的な観点から捉えて十分に大きな効果が期待される施策であると考えられる。本推計は所得および税・社会保障の純負担額にのみ着目したものであり、人口への影響や貧困の連鎖への影響、治安等への影響は推計の対象外としている。例えば、ペリー就学前教育計画に基づく費用便益分析結果(図表6)によれば、犯罪等の非金銭的な効果が非常に大きいとされる。こうした点からも、子どもの貧困対策の経済的な効果の大きさは本推計で得られた規模よりもさらに大きくなる可能性が示唆される。
 第二が子どもの貧困対策の就業形態への影響の大きさである。人口減少に直面している日本では、労働力の希少性がますます高まっていくと考えられ、加えて仕事の中身についても創意工夫がこれまで以上に求められる可能性が高い。そのため、質の高い労働力を可能な限り数多く確保していくことは重要な社会的・政策的な課題となる。本推計結果からは、現状シナリオに対して改善シナリオでは正社員数が1割程度増加し、無業者数は1割程度減少することが見込まれ子どもの貧困対策は労働力の確保の点からも大きな効果をもたらすと指摘することができる。