島根県邑南町
若者の定住促進策とキャリアアップを見事に両立
 2月12日、井手よしひろ県議は島根県邑南町訪れ、商工観光課口羽正彦課長補佐より「A級グルメ」の取り組みについてヒヤリングを行いました。また、「子育て日本一」についても資料を基に説明を受けました。
 さらに、邑南町議会辰田直久議長、三上直樹事務局長にもご挨拶させていただきました。
 島根県中央部に位置する邑南町は、人口は1万1394人(平成27年4月1日現在)で、高齢化率は42.3%に達しています。のどかな農村風景が広がる典型的な中山間地域、冬は西日本最大のスキー場も抱える過疎の街です。平成17年に1万2944人だった人口は、平成22年には1万1959人と5年間で千人近く減少し、少子高齢化と人口減少が町の大きな課題となってきました。邑南町の町役場前そして、町内にただ一つある県立矢上高校が廃校の危機にさらされ、産婦人科の医師がいなくなるなど、若い世代が邑南町から出て行ってしまうと、この地域が支えられなくなるという強い危機感が生まれました。
 こうした中、石橋良治町長の強いリーダシップや職員の創意工夫により、「A級グルメによる町づくり」と「子育て日本一の町づくり」を2本柱に、地方創生を先取りした施策の展開を行てきました。
 特に、邑南町を全国区にしたのは、2011年5月にオープンしたイタリアンレストラン「素材香房ajikura」です。石見和牛をはじめ、地元ならではの新鮮な食材を使った“逸品”を求め、客の6割以上が町外から訪れるという成功を収めました。さらに、総務省の地域おこし協力隊の制度を活用して「耕すシェフ」を募集。若い住民の確保と、人材の育成という独自の地域活性化モデルを確立しました。
あじくらの前で 昨年秋、このajikuraを牽引してきた有名料理長が退職しました。前料理長は「新たな場所で成長したい」と次のステージに進むことを決意。残された料理長に憧れ移住してきた若い料理人たちの味を守るための挑戦の日々が続いています。邑南町は新たな人材を確保し、広島や都内の調理専門学校との連携など、新たな取り組みを始めています。
 邑南町が2011年10月の事業開始から2015年1月までに、受け入れてきた地域おこし協力隊の隊員数は33人に上ります。その内、研修中で邑南町内に住む隊員は26名、研修終了後、定住した若者は6名です。なぜ、数ある自治体の中からこのかこの過疎のまち・邑南町に若者が集まってくるのか。それは、「明確なビジョンの下で町が求める隊員像が具体的なこと、自らのキャリアアップ、より高い資格・能力の習得につながることが、若者にとって最大の魅力」と口羽課長補佐は語っていました。
 2011年に邑南町が定めた「農林商工等連携ビジョン」は、産業振興や定住促進の基本理念に「A級グルメ立町」を掲げました。庶民的な食べ物を売りにする“B級グルメ”の流行にあえて逆らい、“A級グルメ”を打ち出したのです。 口羽課長補佐は「A級グルメは単に高級なグルメという意味ではありません。邑南町でしか味わえない食や体験があるとの思いを込めたものです」と説明します。
 イタリアンレストラン開設や起業家育成も「A級グルメ立町」の一環です。邑南町では、グルメの町おこしに携わる人材を「耕すシェフ」(現在9人)として育成するほか、有機農業の普及と6次産業化のための「アグリ女子」(1人)、産直市の運営に関わる「耕すあきんど」(2人)、就農に向けた技術や経営感覚を磨く「アグサポ隊」(7人)、町営公園でガーデニングに取り組む「ガーデンプロデューサー」(1人)など、合計20人の地域おこし協力隊が、活き活きと活動しています。
 協力隊の活躍は、確実に地域活性化の熱を高めています。また、この邑南町の取り組みは先進事例として全国の市町村から注目され、2015年度には100組み以上の視察が殺到しています。
 また、連携ビジョンでは、2011年度からの5年間で「食と農に関する5人の起業家の輩出」を目標に掲げましたが、15年末で既に28人と、目標を大きく上回る成果を挙げています。定住人口200名の確保の目標については219人との実績を残しました。「観光入込客100万人の実現との目標は、残念ながら91万に終わっていますが、さらに努力していきたい」と、口羽課長補佐は決意を語っていました。

●地域おこし協力隊:公明党が1000自治体への拡大を提言
 「地域おこし協力隊」は、総務省が2009年度に創設した地方への定住支援策。人口減少や高齢化に悩む自治体が、都市住民を協力隊員として受け入れ、最長3年の任期で地域おこしに従事してもらい、定住につなげる施策です。
 総務省地域自立応援課によると、13年6月末までに任務を終えた協力隊員366人の8割以上が20、30歳代の若者。また、およそ半数がそのまま任務地に定住し、1割弱がその近隣市町村に住むようになりました。こうした定住成果に加え、隊員の人件費など1人当たり年間最大400万円を国が負担するなどの財政支援があることから、協力隊事業に乗り出す自治体が全国に広がっています。
 「地方創生」をめざす観点から、公明党は実施自治体(2013年度、318自治体)を1000に拡大することを提言しています。