防災講演会 8月26日、井手よしひろ県議ら茨城県議会公明党議員会は、関東東北豪雨から1周年を前にして「防災講演会」を開催しました。これには、県内の市町村議員を中心に約100名近くの地域防災に関わる方々が参加しました。
 講師には、認定NPO法人茨城NPOセンター・コモンズ代表理事・横田能洋(よこた・よしひろ)氏、国立研究開発法人防災科学技術研究所・社会防災システム研究部門研究員・増田和順(ますだ・かずより)氏の2名を招聘しました。
 このブログでは、コモンズの横田代表の講演をもとに、大規模水害発生時の被災者支援のポイントについてまとめてみました。なお、あくまでもブログ管理者の考えです。

 横田氏が代表を務めるコモンズは、NPOの運営相談を行うほか、行政、企業、労働団体、大学とNPOのコーディネートに取り組んできました。引きこもっていた青年、福島からの避難者、生活困窮者の相談や就労支援に関する事業を立ち上げ、2009年からは自宅のある常総市を中心に外国とつながる児童生徒の学習支援も行っています。2015年の常総市の水害以後、被災者の生活再建を支援するため「助け合いセンターjuntos(ジュントス)」を立ち上げ支援活動を継続しています。
参考:茨城NPOセンター・コモンズのHPhttp://www.npocommons.org/
被災直後の課題
 被災直後、地域住民が困ったことは、●災害ゴミをどう出すか(災害ゴミをどこに、どう運ぶか)、●食料の確保、水の確保、トイレの問題、●寝るところの確保、●車のレッカーによる移動と廃車手続き、●消毒はどうするのか、●新聞も来ない中、どう情報を得るか、などでした。災害ゴミはその処分の方法が市から明示されるのが遅かっために、公園や空き地に、場合によっては市有地に一時的に不法投棄されることになりました。事前に分別して(特に石膏ボードと畳の分類は必須)、一時保管できるような場所を設定できれば、その後の処理が非常にスムーズに行ってと思われます。消毒については、カビに対する対応も重要です。床下に入り込んだ泥を取り除くこと、水を含んだ断熱材を剥がすこと、そして徹底的に乾燥させることなど、カビ対策のノウハウが地域にも行政にも全くありませんでした。多くの車が水没し使えなくなりましたが、その処分も当初混乱しました。全国から様々な業者が集まり、杜撰な対応、不正な対応が横行しました。信頼できる業者に委託できるようなシステム作りが必要です。

在宅被災者の支援充実が不可欠
 被災した人は避難所で生活するか、水に浸かった自宅で生活するかを選ばなければなりませんでした。

在宅のメリット・ディメリット
 在宅にいるメリットとデメリットを挙げてみると、メリットは、●気を使わなくて済む、●不便だが食べ物を選べる、●自宅の修復を進めやすい、●空き巣への不安が軽減、●出費はかさむが自立しやすい、●知人・親族の支援が得やすい、●行政手続も進めやすい。デメリットは、●風呂に入るのが大変、●手作りの料理が食べられない、●寒さ、匂いなど環境が悪い、●炊き出しや支援物資が得にくい、●愚痴を話せる相手が少ない、●片付けに追われ楽しみがない、などが挙げられ、結果的に心身の体調を崩しても気づいてもらいにくいという大きな欠点があります。

避難所のメリット/ディメリット
 一方、避難所で生活するメリットは、●風呂と食事がある、●お金を使わなくて済む、●炊き出しやイベントが多い、●支援物資を得やすい、●ボランティアとつながりやすい、●話し相手がいる、●新聞が置いてある(情報が入りやすい)などが挙げられます。デメリットは、●周りに気を使う、●プライバシーが守れない、●ペットが連れてこられない、●一時帰宅や買い物が不便、●自宅の修復が遅れがち、●通学、通勤に不便、●いつ閉鎖・統合されるか不安などが指摘されています。こうしたことから、避難所には家計が厳しい人や高齢者がより多く残ることになります。
 避難所にいる住民に対しては、避難所から出た後に孤立するのを防ぐ努力をする必要があります。避難所にいる時に支援物資(水、毛布、食料、自転車、調味料、衣類など)の配達や引越し支援を申し出て、自宅や引っ越し先を教えてもらう、近くでサロンを開いたり、ご近所をつないで孤立を防ぐ、移転先で新たなコミュニティが作れるよう支援すことなどが不可欠です。
 在宅の被災者の支援は、中々行政の手が及びません。そこで、ジュントスは、10月に在宅避難者の生活実態調査を行いました。このアンケート結果が、市が在宅避難者に目を向ける契機になり、在宅避難者向け食事提供も予算化されました。

ジュントスの活動
中間支援組織の重要性
 大規模災害においては、コモンズのような中間支援組織の存在が重要となります。中間支援組織ができることは、●外部支援団体、地元団体の情報共有会議、●災害に関して市民が学ぶ機会作り
、●検討会を開き復興計画に住民の声を反映、●被災者の生活課題を調べ、関係機関に改善提案を行う(支援金、食事、移動等)、●行政との定期協議で被災者の声を代弁、●行政と住民への長期・多面的な働きかけ、などです。具体的には、コモンズ(ジュントス)は、被災者支援でのNPO間の連携・協力、毎晩の例会での団体紹介(計70団体)、外部から炊き出しなどの活動先の調整
、避難所支援での組織間連携、人員・器材・ノウハウを互いに融通、外部団体から県内ボランティアに活動を継承するための合同説明会の開催、足湯講座・サロン講座・移動支援講座などを開始しました。
 また、災害発生時には玉石混淆のボランティアやNPOが多数被災地に入ります。被災住民や自治体に迷惑や問題を起こす団体もあり、信頼できる中間支援組織は、そのフィルター役を務めることも出来ます。

水害で直面する10の課題
 住民支援の中での対話やアンケートなどによって浮かび上がった内容をもとに「水害で直面する10の課題」を整理しました。
  1. 避難 どこに、いつ、逃げればいいかわからない
  2. 大量の災害ゴミをどこに持って行くか
  3. 避難所の受け入れ体勢が弱いと様々な問題が発生する
  4. 仮設住宅がないと、長期間不便な在宅避難を余儀なくされる
  5. 公的制度や義援金配分では改修費や家財購入費を賄えない
  6. 家の解体、空家化、人口流出、人のつながりが壊れる
  7. 商店など個人事業が廃業に追い込まれアパート改修も進まず
  8. 公園や公民館など公共施設が使えず、人が集まって話せない
  9. 孤独、引きこもり、生きがい喪失を放置すると心の問題が悪化
  10. 辛さが理解されない、忘れられた感覚が心を重くする


 ジュントスは、被災住民と寄り添いこの1年間、多彩な活動を展開してきました。その内容は、「水害から4ヶ月。厳しい現実の中で、参加と地域再生に挑む」とのレポートに詳しく述べられていますので、以下引用します。
水害から4ヶ月。厳しい現実の中で、参加と地域再生に挑む

水害発生から4ヶ月が経過した常総市の状況とコモンズの活動報告です。
●住宅修復の遅れ
毎日、家と事務所のある水海道森下町周辺を歩いていると、家による違いが目につきます。すっかり元に戻った家もあれば、1階に毎日修理業者が入り、床や壁を剥がしたものや断熱材が家の周りに置かれている家もあります。1階のものを出した後、人が戻ってきていない家もあります。高齢者の単身世帯では、修理を諦め、空き家になっているところが少なくありません。アパートも1階部分を修復し、住民が入ったところもありますが、多くは床や畳を上げたところで工事が止まったままになっています。これではアパートにいた人は帰って来られません。鬼怒川の土手を歩いても、散歩する人が減り、人が減っていると感じます。
●進む住宅の解体と人口流出
新八軒堀川に近く、浸水被害が特に大きかった橋本町などでは住宅の解体が続き、空き地が増えています。こうした土地に家を再建できるかどうか、また水が来るかもしれないと考え若い世代ほど市外に家を建てることを考える人が多いよう です。住宅解体が進む背景に、一つは修理コストが今回の支援金や義援金では賄えないことがあります。半壊世帯で25万円の支援金や同額の義援金が受けられるようにはなりましたが,これだけでは到底足りません。コモンズが学習支援の拠点として借りた空き家の修復費用を業者に見積もってもらったところ、壁を剥がさない工事でも500万円を超えました。実際には床下や壁の内側のカビがひどく、全て外してカビを取る作業を連日行っています。この状況だと再建を諦めたくなります。「家を残してまちで人が集える場として再生したい」との想いがあればこそ、ボランティアの方が取り組んでくれています。
●外国人の流出も進む 常総市は外国人人口が多いことが特徴ですが、アパート修復が進まないことから市外への人口流出が進んでいます。お店を再建できた人もいれば、北水海道駅前のブラジルのレストランには「16年間有難うございました」との貼紙。オーナーから、「日本に来て中学校を卒業後、工場で働いてお金をつくり、 最近駅前に新たな店を構えた。もっと日本人にも来て欲しい」と7月に話を聞いただけに、本当に残念です。ネットで被災した写真などを見て、「水海道はもう終わりだ」と思っている外国人に、ブラジルの店の復旧状況を1軒ずつ紹介している仲間もいます。人口流出を防ぐには、住まいと仕事を作ること、正しい状況の発信が必要です。
●地元の人の活動を増やすために車がない人の通院や通学などを支えるための「JUNTOS」の移動支援は、県外からのボランティアや福祉施設関係者の協力で運営してきましたが、地元のボランティアに移行していくため、12月23日にはボランティア送迎に関する講習会を無料で開催しました。二次避難所で暮らす人も含め、20名の参加がありました。サロンも、東京から来て行っていたサロンに地元のボランティアが関わるようになりました。ただ、 まだまだこうした活動を担う人は足りません。1月9日に、今後も常総市の復旧復興に関わる団体の情報交換会を開催したところ、23団体の参加があり、今後どのように連携していくか話し合うことができました。
●これから何ができるか、皆で考える11月から年末にかけて、これまで常総に長く入って活動してくださった市外の支援団体の多くが活動を終えて帰られました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。しかしこれからは地域の人たちでできることを考え、行動していく必要があります。そこでいくつかのテーマで集会を開いてきました。11月29日に開催した井戸端会議では、阪神大震災後に市民による多言語のラジオ放送を立ち上げた吉富さんを迎え、ラジオは住民が自分たちの想いを発し、住民がつながるための道具だと教わりました。常総市の災害FM放送は11月で終わってしまいましたが、これから市民リポーターを募り、各地の集まりの様子など、様々な人の暮らしの状況、想いが伝わる手作りの番組を作り、インターネット・ラジオなどで流すよう取り組みます。
●12月16日には、福祉に関して3つのテーマを取り上げました。一つ目は、避難所を出た後の高齢者などの見守りについて。11月末に多くの避難所が閉鎖され、約200名いた方の約半数は、二次避難所として市が借り上げた旅館やホテルに移りました。今までの避難所と異なり個室に移ると外から見えにくくなり会話の機会も減ります。つくば市の公務員住宅に移られた約100世帯も慣れない土地で情報が届きにくく孤立しがちです。こうした方々を福祉医療関係者が連携してどう見守り新たなコミュニティづくりを支援できるか話し合いました。2つ目は、コモンズが今年度立ち上げたグッジョブセンターの報告。これは引きこもっていた青年の就労支援をする事業で、実祭に常総市で青年が活動することで大きな進歩があり、被災地で若者が活動する機会を作ることの有効性が話されました。3つ目は、元の家やアパートに住めなくなった高齢者などが、住んでいた地域を離れることなく暮らせるようにするための福祉長屋の可能性についてです。阪神大震災の後、仮設住宅にいた高齢者の孤立を防ぐために作られたグループハウスに ついて、専門家を招いてその可能性について聞きました。水海道にある既存の空き家と国の支援制度も活用すれば、実現可能なことが見えてきました。現在、最初のモデルになるハウスづくりに取り組んでいます。
●温度差、心の壁を取り除くために 今回の水害では、人々の間で様々な差を生みました。被災の差は支援金額の差を生み、経済力があるかどうか、保険に入っていたかどうかで、家を再建できるかどうかも変わってきます。こうしたことから、被害の状況について市民同士でも話題にしにくい状況があります。その結果、まだ大変な状況にある人がいてもそのことが伝わりにくく、もう元の生活に戻ったと感じている人と、全く先が見えない人との温度差が広がっています。被災地にいる人が一番辛いのは「被災による心の傷」がわかってもらえないこと、「忘れられている」と感じことです。 少しでも気持ちが一緒になれる方法はないか。そこで考えたのが「ぬくもりのバトン」プロジェクトです。最初はとにかく風が入り、暖房器具が使えない家は寒いだろうからと、電気カーペットや電気毛布をカンパで買って届けることを企画 しました。これを配るだけなく、支援する人の気持ちが入った毛布を受け取った人からは、メッセージを寄せてもらうことにしました。参加が大事だと思ったからです。災害からどこで どのように過ごしてこられたか、生活の何が変わり、何に困っているか、今回気づいたことや今後のまちや暮らしの再建への想いを、世帯ごとに話し合って書いてもらい、そのメッセージを本にしたり、ラジオで紹介したりしていきます。既に80世帯近くから様々な声が寄せられています。
●復興計画に市民の声を反映させたい11月から常総市の復興ビジョンを話し合う会議が開かれ、1月からは復興計画の策定会議が開かれます。短期間でわずかな回数の会議で計画がつくられる見込みですが、そこにできるだけ市民の声を反映させ、具体的に何を取り組むかが明確になるように働きかけていくことが重要です。「これならば家を建てても大丈夫」と思えるような災害に強いまちづくり、まちから出ざるをえなかった人が戻って来られるような住宅づくり、孤立を防ぐコミュ二ティづくり、農業や商業の再生、文化的多様性を生かした新たな仕事づくりなど、市民がしっかり議論に参加し、官民協働で新たな事業を作り出していきたい。その議論と活動の積み重ねが地域の再生につながると信じて活動しています。様々な困難はありますが、人々が何に困っているか、何が できるかを見えるようにし、知恵、寄付、ボランティアを結集し、スタッフと共に粘り強く地域再生に取り組んでいきますので、引き続きご支援くださいますようお願いします。
2015年1月17日
認定NPO法人茨城NPOセンター・コモンズ代表理事横田能洋


クラウドファンディングで被災住民の声を出版
 現在、コモンズでは、昨年9月の関東・東北豪雨で、被災した人の数ヶ月間の避難生活を記録した本を発行するためにクラウドファンディングを募集しています。出版を通じ、常総市で被災した人と応援する人の想いをつなぎ、生活再建と復興に役立てるのが目標です。今年3月、コモンズは被災した110世帯の手紙をまとめた簡易な冊子を作成して、手紙を書いてくださった方や市役所に配布しました。これをさらに読みやすく編集し、災害状況の記録や写真を追加した本を作成する計画です。
 今回の常総市の災害について、市民の生活の視点で記録した本が殆どない中で、一度災害が起こるとどんなことに直面し、そのときどんなことを感じるのか記録に残し、伝えることをしなければ、風化してしまうと横田代表たちは考えました。
 自然災害が多発する中、多くの人が「自分が災害にあったらどうするか」、家庭や学校などで考え、災害に備えることが大切です。この本に込められた常総市の経験が今後の防災、減災の役に立てばと思います。そして、この本の発送を通じて、常総市の今と、今後の復興に向けて市民が何に取り組んでいるかを全国の方々にお伝えし、人のつながりを大事にしながら息の長い活動を続けていきます。皆さまのご協力もよろしくお願いいたします。

参考:常総市の被災経験と、人々の想いを伝える本の発行を応援してください(クラウドファンディングの呼びかけ
https://local.camp-fire.jp/projects/view/8361?token=2hgxf2q5