防災科学技術研究所・社会防災システム研究部門研究員・増田和順 8月26日、井手よしひろ県議ら茨城県議会公明党議員会は、関東東北豪雨から1周年を前にして「防災講演会」を開催しました。これには、県内の市町村議員を中心に約100名近くの地域防災に関わる方々が参加しました。
 講師には、国立研究開発法人防災科学技術研究所・社会防災システム研究部門研究員・増田和順(ますだ・かずより)氏と認定NPO法人茨城NPOセンター・コモンズ代表理事・横田能洋(よこた・よしひろ)氏の2名を招聘しました。
 このブログでは、防災科研の増田研究員の講演をもとに、地方自治体の災害対応に対する課題や茨城県の取組についてまとめてみました。掲載内容は、増田研究員の講演内容そのものではなく、あくまでもブログ管理者の考えであることをご理解いただきたいと思います。

●「防災」という言葉は読んで字のごとく「災害を防ぐ」という意味がありますが、実際にはどのような事を指すのか整理します。災害対策基本法の第二条に、「防災」の定義があります。「災害」とは、暴風、竜巻、豪雨、豪雪、洪水、崖崩れ、土石流、高潮、地震、津波、噴火、地滑りその他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害をいいます。「防災」とは、災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ることをいいいます。つまり「防災」とは、あらゆる災害を防止するだけでなく、被害の拡大を防いだり、復旧につながるものが含まれるという事になります。「防災」には、予防・応急・対応・復旧という大きくわけて4つの時間フェーズがあることを理解する必要があります。今回の講演会では、おもに応急、対応という2つのフェーズを中心に、自治体の取組や課題を整理しました。
過去の予防情報が活用できなかった自治体の災害対応
●関東・東北豪雨被害や熊本地震への自治体の災害対応の状況を見てみると、その対応の難しさが浮かび上がってきます。
 例えば、常総市では事前に作成された予防情報がうまく活用されませんでした。鬼怒川・小貝川の水害マップは6年前に制作され、市内全世帯に配布されていました。今回の浸水域は、ほとんどその内容そのものでしたが、住民待避には繋がりませんでした。東日本大震災で庁舎が傷んだため、庁舎を建替えましたが、浸水想定地にそのまま建築してしまいました。せめて1〜2メートルでも盛り土していれば浸水は防げたかもしれません。非常用発電機を屋上などに設置していれば、行政機能がマヒすることはなかったかもしれません。そもそも江戸時代に水海道の行政の拠点が置かれていた水海道一高がある高台は、人工的につくられた盛り土です。過去の歴史に謙虚に学ぶべきです。

●混乱した応急期の熊本地震への対応。熊本では1889年(明治22年)以来、大きな地震がありませんでした。水害は頻繁に起こるため水害に対する備えは万全でしたが、地震災害を想定した学習・訓練やマニュアルが不足していました。普段行っていない事は災害時にも対応できません。例えば、り災証明書の発行業務。窓口で被災した方から状況をじっくり聴き取りすることは、一見重要なことなのですが相談が目的ではないので、本人確認と記載事項の間違いの確認、住所と地図との確認などが出来ればできるだけ短時間で受付を済ます方が大事なのです。受け付け開始時間に、窓口に長蛇の列が出来るなど言語道断です。

●災害広報でも混乱が見られました。コミュニティFM放送局を持たない自治体では、災害FM放送局免許を取得しても放送すべきコンテンツやメディアを活用した広報についての知識や経験が無く、必要な情報をタイムリーに市民に伝えることができませんでした。通常、自治体が災害FMを運営すると、民間のボランティアや民間事業者の支援情報を伝えるのに時間が掛かりすぎます。外食企業が炊き出しをする案内などがスムーズに発信されません。縦割りの弊害が災害広報にも垣間見られました。

公務員の特性と災害対応のスペシャリストの必要性
●熊本地震災害では、国や各県や自治体が選抜して送り込んだスペシャリストを、受け入れる側の基礎自治体が上手く使いこなすことが出来ませんでした。駐車場の警備や支援物資の集配など、ボランティアやアルバイトでも可能な作業を担わせました。結果的に、効率的な対応や支援が出来ないばかりか、応援職員の士気を下げることになりました。受け入れ自治体の受援力(知識)の無さが露呈しました。一部には「支援職員のブラックホール」との辛辣な声も聞かれました。

●自治体職員の現状を再確認すると、専門職を除き通常3年〜5年で職場を異動します。自治体職員の育成の原則は、ジェネラリスト養成を目的とし、比較的質的に異なる職場をできるだけ多く、それも短い周期で経験させます。マンネリ化によるモチベーション低下の防止、管理職として仕事を行うための広い見識の習得を目的に、職能を超えた異動(まったく未経験の異動)が一般的となります。頻繁で広範囲な人事異動は、「同一部門に継続して配属することにより得られる専門性の蓄積の阻害し、経験したことのない仕事を行う際の追加的な訓練費用を発生させる」という弊害以上に、「ルーティン」であり、かつ、外部に対しては「非標準的」であるという自治体業務を円滑に遂行する機能があるといわれています。
 反面、災害対応のようにいつ起こるか分からないような業務やまったく初めての業務には、往々にして対応が鈍くなります。さらに、折角経験を積んでも、数年で移動してしまうために、その蓄積や後輩への継承がうまくいきません。

茨城県と防災科研との連携で災害対応体制の強化
包括的防災協定●こうした現状を踏まえて「災害救援タスクフォース」の整備を急ぐべきです。タスク・フォースとは、緊急性の高い、特定の課題に取り組むために設置される特別チームのことです。もともとは軍事用語で「機動部隊」を意味し、通常は組織内の各部署から適任者を抜擢し、短期集中的に課題解決にあたります。
 自治体における防災のスペシャリストを、平時から訓練と演習により専門家として育成します。そして、異動等に関わらず首長の兼務発令により招集できる体制を整えます。
 応急対応期の指揮支援を行います。ポイントは3つ。1番目は、首長及び幹部職員の部分権限移譲による混乱の回避をはかります。具体的には、災害類型タイムライン(過去の経験に基づく資料)に沿った対応、省庁及び県庁との速やかな調整、職員の配置及び勤務スケジュールの策定などです。
 2番目に、情報の収集と災害広報を担当します。被災状況の確認及び把握、被災状況及び支援情報等のクロスメディアを使った広報展開、避難場所及び物資状況の把握及び必要物資の手配などを行います。
 3番目に、被災自治体の受援力を向上させます。支援組織との速やかな調整、他自治体からの支援職員の配置及び勤務スケジュールの策定、社会福祉協議会、NGO、NPO等民間組織(財団、社団、企業等)との連携の窓口となります。

●茨城県では、今年3月の県議会で井手県議の質問に答えて、橋本知事が被災自治体を支援する体制(総務,福祉医療のタスクフォース)の整備について言及しました。3月16日には、茨城県と防災科研とが「包括的な連携・協力に関する協定」を締結しました。この協定に基づき、防災科研は茨城県と県内市町村に研究成果及び災害対応の知見を提供します。
 今後、茨城県は防災科研との連携のもと、「災害救援タスクフォース」の整備を目指していきます。