西塩子の回り舞台
 9月3日、井手よしひろ県議は、常陸大宮市塩子地区に伝わる日本最古の組み立て式農村歌舞伎舞台「西塩子の回り舞台」の組立て現場を調査。西塩子の回り舞台保存会の大貫会長より様々な話しを伺い、意見交換を行いました。
 江戸時代に誕生し、大きな発展を遂げた歌舞伎は、日本の世界に誇る伝統文化です。国の重要無形文化財に指定されていることもあり、一般庶民、特に若い世代には少し敷居の高いイメージがあります。しかし、当時の歌舞伎は、庶民の娯楽として、全国津々浦々で、さかんに演じられていました。山深いこの塩子地区でも、米の収穫を終えた豊作を村人全員で歓び合う場として、歌舞伎の舞台が作られたものです。
 西塩子の回り舞台が作られたのは江戸時代後期。西塩子と北塩子の2つの集落で、塩田という地域を構成していました。西塩子が歌舞伎の舞台を、北塩子が祭りの神輿を担当していたそうです。地域の村人全員が集まれる場所が西塩子にはなかったため、舞台は北塩子地内に設置されることになりました。
 この西塩子の回り舞台が作られたのは江戸時代後期。現存する大幕に、文政3年(1820年)の文字が確認されており、約200年前には実際に使用されているものと考えられます。
 平成3年に大宮町歴史民俗資料館によって調査が行われました。その調査によって現存する組み立式の回り舞台としては、日本最古のものであることが認められました。
 この舞台は、組み立て式で、ふすまなどの舞台背景や大幕、水引などの舞台道具のみを保持。柱や屋根に使う木材や竹などは、必要に応じて伐り出して使い、公演が終われば売り払って組み立て時の資金としていたようです。
 舞台の大きさは、会場となる敷地によって間口四間(一間=約180センチ)から最大七間までに拡大が可能です。花道は四間もしくは六間の長さに組み立てることができます。奥行きは一丈ほど(約3メートル)で、舞台の後方中央に、間口二間、奥行き八尺(一尺=約30センチ)の回り舞台が、一段高く設置されています。回り舞台は舞台下(奈落)に軸が伸びており、人力で回転するようになっています。
 屋根の骨組みには長さ五から七間もある真竹を格子状に組んで縄で縛り、最後は菰(こも)が掛けられます。扇状に開いた見物席の屋根は、跳ね上げるように設置した竹のしなりでドーム状に会場を覆い、人びとは最前面の曲線をカガミと呼んで、その美しさを舞台のできばえとして評価していました。ここに提灯が飾られ、夕闇の中見事に円弧を描く光の列は感動モノです。

 この回り舞台は、昭和20年(1945年)を最後に、組み立てられずに地元での本格的な組み立ては行われておらず、村の倉庫に仕舞われたままでした。歴史博物館の調査で、その価値がさい認識されると、祖先の遺した文化財を現代に活かそうと、平成6年(1994年)に「西塩子の回り舞台保存会」が設立されました。保存会の設立から3年後の平成9年、約50年ぶりに舞台の組み上げが行われました。
 当時の設計図などは残っておらず、組み立ては地元の古老たちから聞き取った模型をもとに、作業が進められました。完成まで約1カ月、地元住民が力を合わせ、間口20メートル。奥行き20メートル、高さ7メートルの壮麗な舞台が出来上がりました。
 復元された回り舞台では、「西塩子の回り舞台」復活記念公演を開催。わずか2時間あまりの公演に約3000人もの見物客が詰めかけました。
 翌年には完全復活と銘打って「第9回全国芝居サミット」を開催しました。全国から集まった芝居関係者からも高い評価をいただきました。
 その後、平成13年からは定期公演として3年に一度、舞台を組み立て地芝居公演を開催。舞台上では西塩子地区の若衆で結成された「西若座」の芝居や、地元の小学生たちが演じる子ども歌舞伎などが披露され、毎回、県内外から約4000人ほどの観衆を集める一大イベントに成長しています。

 西塩子の回り舞台はその姿の美しさも有名ですが、もう一つ誇るべきものがあります。それが、「平成の大幕」です。平成の大幕は、舞台には欠かすことのできない大幕を自らの手によって作成しようという壮大な試みでした。西塩子の回り舞台復活のきっかけともなった文政の大幕に倣い、地元で綿を栽培し、糸を紡ぎ、生地を織る工程に至るまで、すべて地域住民の手によって行おうというものです。このプロジェクトは平成14年にスタートし、平成15年夏には約100キロの綿を収穫。さらに糸紡ぎと織りに3年を費やしました。兵庫県の染織家浅井一甲氏に染めを依頼して平成18年の第3回定期公演で、めでたく披露されました。
 西塩子の回り舞台は、さまざまな分野で高い評価を受けています。平成18年には地域の文化向上と活性化に貢献した個人や団体に贈られる「サントリー地域文化賞」を、平成20年には第1回ティファニー財団「伝統文化振興賞」を受賞しています。

 東日本大震災の影響で一時延期されていた公演は、平成25年に5年ぶりに復活。福島県で活動する2つの地芝居団体も参加し、震災からの復興支援を大いにアピールしました。
 平成28年の公演は、10月15日に開催が決定しています。舞台の組み立ても8月下旬から始まりました。井手県議が視察した9月4日には骨組みの組み立てがほぼ完了し、屋根の竹の組み上げが始まっていました。
 
 3年に一度開催される西塩子の回り舞台。こうした地域の伝統行事と県北芸術祭がコラボレーションができないか、井手県議はその可能性を保存会の大貫会長に伺ってみました。大貫会長は、「この伝統ある回り舞台で、様々な公演の可能性が広がることはありがたいことです。多くの方に訪れていただき、多くの方に知っていただければ、長くこの回り舞台を継続することにもつながると思います」と語っていました。この回り舞台で、パフォーマンスを披露する和田永さんの姿などを空想してみました。
 地域芸術祭と地域の伝統文化の融合。県北芸術祭を継続して開催できれば、次の大きな課題になると思います。

参考:西塩子の回り舞台保存会(http://mawari-butai.jpn.org/


2006年度第28回サントリー地域文化賞を受賞した茨城県常陸大宮市「西塩子の回り舞台保存会」
現存する日本最古の組立式回り舞台の復興です。平成28年度ポスター