東京電力福島第1原発
 12月9日、経済産業省は東京電力の経営再建などを検討する「東電改革・福島第1原発問題委員会」(東電委員会)の会合を開き、福島第1原発事故の廃炉や賠償など対応費用が総額で、これまでの想定の11兆円から21兆5000億円に倍増するとの試算を公表しました。賠償費用のうち2兆4000億円分は電気料金に上乗せされ、国民負担に直結します。東電再建のための提言案も示し、送配電と原発事業に関し、将来の再編や統合を見据えた「共同事業体」を他電力と設立するよう東電に求めました。
 賠償や除染費用の増加に伴い、支払いが滞らないよう東電に貸し付ける交付国債の発行枠を、現状の9兆円から13兆5000億円に拡大することも決めました。
 また、賠償費用の一部は送電線の利用料である「託送料」に上乗せすることで、大手電力だけでなく、電力自由化で新たに参入した事業者にも負担してもらう仕組みに見直すとしています。
 賠償費用は、今の仕組みでも東京電力だけでなく、原発を保有している大手電力会社が原発事業の規模に応じて費用を一部負担しています。例えば昨年度は東京電力は1200億円余り、関西電力は315億円、九州電力は169億円負担しています。中国電力、北陸電力、沖縄電力を除く大手電力各社と契約している人は、こうした費用がそれぞれ電気料金に上乗せされています。一方、ことし4月の電力小売りの自由化以降、新規の事業者と契約している人は賠償費用は負担していませんでした。この制度が大きく変わります。電気の利用者の間で不公平が生じるのは問題だとして、今回の制度見直しによって新規参入した電力事業者も新たに負担することになりました。
 経済産業省の試算では、新規事業者と契約している人は、4年後の平成32年から40年にわたって電気の使用量が平均的な家庭でひと月当たり18円上乗せされる見通しです。また、沖縄電力を除くほかの大手電力会社と契約している人も今後、同じくひと月当たり18円が電気料金に上乗せされることになり、ほとんどの電気の利用者が負担増となる形です。
 電力事業は“総額原価方式”という特殊な仕組みで成り立っています。電力に関わるすべてのコストは電気料金に上乗せされて消費者である国民に負担させるというやり方です。原発を稼動させて得た利益は電力事業者が享受して、経営上の判断の誤りによって生じたコストは消費者に転嫁するということで、果たして市民の支持を得られるのでしょうか。
 ただでも不透明な託送料への安易な上乗せを認めれば、今後に予想される賠償費用のさらなる増大などによって、電気料金が際限なく上昇するリスクも生まれます。 「原発と無縁なクリーンな電気を使いたい」との一部消費者の希望は、これで完全に無視されることになりました。
 やはり東電は一時国有化などで、その経営体質を根本から改め、原発事故の責任を自ら果たしていくべきではないでしょうか。

日本原電の存続問題も議論の俎上に
 それと、余り議論されていない問題があります。東海第2発電所などを運営する日本原子力発電(日本原電)の問題です。現在、保有する3基の原発の内、敦賀の2基は再稼働の目処が立ちません。東海第2原発も96万人といわれる30キロ圏内の住民の数や稼働後38年という高年齢化を加味すると、再稼働には慎重な意見があります。日本原電は電力9社の共同出資によって設立された原子力発電専業の企業です。原発の再稼働が困難であるならば、その抜本的な見直しを国主導で行うべきです。
(写真は、2011年3月20日に「エア・フォート・サービス」の無人飛行機によって撮影された福島第1原発。左端から4号機・3号機・2号機・1号機)