11月5日開催された茨城県北芸術祭の「バイオミーティング」。茨城大学で地質学の研究に長年取り組み、現在は茨城県北ジオパーク推進協議会顧問の天野一男氏が基調講演講演を行いました。
 天野氏は、日本最古となる約5億年前の地層が発見されるなど、魅力にあふれる県北の地形について解説。巨大な海底火山を起源とする大子・袋田周辺や、美術思想家・岡倉天心を魅了した北茨城・五浦海岸の奇岩群などに触れ、地質など地球の歴史や遺産を主な見どころとする大地の公園「ジオパーク」に言及しました。
 県北の特徴的な地形を体系化した「茨城県北ジオパーク」は、2011年に日本ジオパーク委員会より認定を受けました。「ジオパークは日本列島誕生から5億年の旅を実感できる場所。人間がどこから来て、どこに行くのかをぜひ探ってほしい」と熱く語りました。
 そもそも、県北芸術祭開催の趣旨は「茨城県北の豊かな自然を舞台に、アートと科学・技術の実験を通して、新たな創造の息吹を吹き込む」ことでした。これは、県北ジオパークが目指すものと全く同じです。
 北茨城市の五浦海岸ジオパークは、茨城県北ジオパークの代表的なジオサイトです。地質・地形的には、波の浸食によって形成された崖と奇岩の露出する海食台が特徴。海食台上の奇岩はこの地域が海底にあった過去に地中からのメタンガスの噴出により形成された炭酸塩団塊(炭酸カルシウムコンクリーション)です。現在、日本列島周辺の大陸棚にある未来の燃料として注目されているメタンガスハイドレイトの化石です。
 文化的には、この地は岡倉天心が1905(明治38)年、日本美術院を移転し、多くの画家たちの研さんの場となりました。天心は、五浦海岸の地質・地形から中国庭園に思いをはせ、この地に読書と思索にふける場所として六角堂を建てたといわれています。まさにジオと芸術とがコラボレートする地域がこのジオサイトです。


 人間の寿命は長くて百年。これに対して、文明の歴史は数千年単位です。一方、宇宙の歴史は138億年、地球の歴史は46億年といわれています。
 日本列島の歴史は地球の歴史の中の現在までの数億年分を占めています。日本のジオパークを巡ることにより、数億年の歴史をたどることが可能である。特に茨城県北ジオパークは、日本列島の形成史をたどることのできる稀有なジオパークです。
 県北地域の東部に連なる阿武隈山地南部(日立市周辺)には、日本最古の5億年の岩石が露出しています。日本でも最も古い地層が日立市周辺に存在しているのです。日立市のかみね公園に行けば、日本列島誕生時の石に直接触ることができます。
 一方、西部の八溝山地には、恐竜が走り回っていた時代(ジュラ紀)の岩石が広く分布しています。
 両山地の間の久慈山地には、今から1500万年前に日本列島が大陸から分離した事件の証人となる地層を見ることができます。袋田の滝を構成している岩石は、その時割れ目に噴出した火山のものです。千波湖周辺では、縄文時代から現在までの歴史に思いをはせることができます。
 東京からわずか1時間〜2時間程度の小旅行で、日本列島の誕生から現在までの姿を一覧できるジオパークが県北ジオパークなのです。

 そもそも「ジオパーク」とは何か?ジオとは地球、パークは公園の意味です。「大地の公園」と翻訳されることもあります。貴重で美しい地質・地形などの自然遺産を主な見どころとし、それらを保全するとともに、歴史的・文化的なものを含めて、それらを観光資源として地域の活性化や科学教育に活用することを目的としています。ヨーロッパから始まったもので、2016年からは、正式にユネスコの事業となりました。
 私たちの多くは日常の暮らしは、もっとも深いところで足下の大地によって支えられています。大地はさまざまな生命を育むとともに、美しい風景や温泉などの恵みをもたらしてくれる一方で、地震や気象による災害も及ぼす。私たちが地球という悠久の大自然の上で生かされていることを学び、精神的にも豊かになれる場を提供するのがジオパークです。
 日本全国に43のジオパークがあります。茨城県内では茨城県北ジオパークがあり、今年新たに筑波山地域がジオパークに認定されました。

 ユネスコの事業には世界遺産がある。世界遺産は、価値のある文化遺産、自然遺産などを「保護する」ことが究極の目的です。一方、ジオパークは、世界遺産の中の文化と自然の両方を兼ね備えた「複合遺産」ともいえます。これらを保存することに加えて、地域振興に活用することが目的です。この点が、保護・保存を目的とする世界遺産とは異なります。
 ジオパークによる地域振興は大きく二つの局面で展開されます。一つが教育活動で、もう一つが地域経済の活性化である。教育面では、野外観察ツアーによる初等・中等教育と市民向けの自然教育・自然災害教育が挙げられます。地域経済活性化のための具体的活動は、観光客を対象とした知的観光ツアーと関連商品の開発があります。
 野外観察ツアー・知的観光ツアー(これらをジオツアーと呼ぶ)の案内者(インタープリター:IPと呼ばれます)は、訓練を受けた地元住民が担うのが基本です。この案内者の養成もまたジオパークによる高度な生涯学習です。ジオパークでは、産・官・学・民の連携の下の草の根的な活動の展開が求められており、これが大きな特徴です。
 茨城県北ジオパークでは、産・官・学・民の四者連携の下に、15地域をジオサイトとして設定し、その中の主要サイトでジオツアーを展開したり、関連商品を開発したりしてきました。現在、関連商品の例として、「ジオどら」(どら焼き)と「ジオ丼」(弁当)が好評を博しています。
ジオ丼

 2011年3月11日の東日本大地震による大規模な災害は、日本のみならず全世界に衝撃を与えました。翌年5月に島原において、「ジオパーク国際ユネスコ大会」が開催された、その時に出された島原宣言で、災害の軽減を目指し、自然災害の教育の場としてジオパークを活用することが訴えられました。
 東日本大震災では、茨城県も大きな被害を被りました。その一つが水戸市の千波湖周辺の液状化です。液状化は、土地が形成された過程によるところが大きく原因します。水戸市の液状化の被害は、大正時代に干拓された昔の千波湖の地域で主に発生しました。
 干拓された地域の地盤は、軟弱で地震の揺れに対して容易に液状化します。干拓前の千波湖は、今から数千年前、縄文時代に現在より海面が高かった時の内湾の一部です。このことは、縄文時代に内湾であったような場所は、液状化を起こしやすいことを示しているのです。
 2011年6月26日に行われた液状化地域を巡るジオツアーでは、地質専攻の学生がガイドとなって、地域住民に千波湖の形成史と液状化の関係を説明しました。学校教育の中で地学に関する教育が十分になされていない現状では、ジオパークが自然災害の重要な教育の場になることが期待されています。

 茨城県北ジオパークは、茨城県民にとって貴重な宝物であったことが、今回の県北芸術祭でも明らかになりました。ジオパークを愛し、ジオパークを活用して県北地域を活性化しようと多くのボランティアの方が熱心に活動しています。県北ジオパークの大きな特徴は、地元茨城大学の大きな支援の下運営されていることです。茨城県をはじめとして、関連市町村の一層の連携、協力が不可欠です。産・官・学・民が連携するジオパークの理想形を茨城県の県北地域に作り上げていきたいと思います。
(このブログは、県北バイオミーティングでの天野一男茨大名誉教授の基調講演、茨城新聞に掲載された“今、ジオパークが面白い”をもとに記述しました)