受動喫煙のイメージ
 受動喫煙による健康被害については、その長期的影響として、肺がんや心筋梗塞、子どもの呼吸器感染症や中耳炎、乳児突然死症候群等のリスクが確実に高まることが明らかになっています。また、妊婦の喫煙もしくは妊婦周囲の喫煙は新生児や胎児の発育遅延などのリスクを高めることも分かっています。妊婦とその周辺では、禁煙を撤底すべきです。
 日本では2003年に健康増進法が施行され、 受動喫煙対策が施設管理者の努力義務となりました。それによって官公庁や学校、公共交通機関、医療機関など、公共性が高い施設の禁止煙化が進みまいつた。しかし、この法律には罰則がないため、法規制の強化で客離れ絵を懸念する飲食店等のサービス産業では禁煙化が進んでいません。
 日本や韓国、インド、中国など東南アジアの国々での、サービス産業における受動喫煙の状況をPM2.5で比較した研究では、中国よりも日本の方が最悪の結果となっています。
 都道府県レベルでは神奈川県と兵庫県が罰則付きの受動喫煙防止条例を制定しています。特に兵庫県では公共性の高い官公庁、医療機関、学校において屋内全面禁煙を義務付けています。しかし、飲食店等でのサービス産業においては、関係団体からの反発が強く、屋内全面禁煙の義務化には至っていません。
 日本も批准している「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」では、「第8条本文に示されたたばこ煙からの保護という義務は、基本的人権と自由に基づいたものである」との認識に基づき、公共の場での受動喫煙防止を促進することになりました。WHOによる国別の対策評価において、日本の受動喫煙対策は、2008年度以降、常に最低ランクの評価が続いています。
室内全面禁煙を実施しても、飲食店の売上げは減らない
 屋内全面禁煙の法律や条例を制定すると、飲食店等の売り上げが落ちるのではないかといった反対の声が上がります。しかし、法律で全面禁煙化を実施した国々の調査では売上げは変化がないか、逆に増加する場合も多く報告されています。
 日本でも愛知県内の大手ファミリーレストランチェーンで全面禁煙化の影書を調べた研究においても、売り上げが減少しないことが報告されています。全面禁煙化しても、売上が減らない理由は、喫煙者の客離れがあまり起きないことや、 客単価が高い非喫煙者の利用が増えることなどが考えられています。
 今後、法規制を強化するにあたっては、経営者に対しては顧客を受動喫煙から守るという視点だけではなく、経営者自身、その従業員の健康を守る視点も重要です。また、ビジネスチャンスにもなることをしっかりと啓発する必要があります。

東京オリンピックを契機に受動喫煙対策を推進
 2020年東京オリンピック・パラリンピックを、 受動喫煙防止の大きなステップとして捉えるべきです。国ではより厳しい法制度の議論が進んでいます。その背景には、国際オリンピック委員会(IOC)が、1988年のカルガリー大会以降、屋内競技施設の全面禁煙を原則としているからです。2014年のソチ(ロシア)大会でも、2018年の平昌(ピョンチャン・韓国)大会でも、屋内全面禁煙を徹底する法整備が行われました。
 こうした流れを受けて、昨年(2016年)1月には、東京オリンピック・パラリンピック競技大会関係府省庁連絡会議のもとに、「受動喫煙防止対策強化検討チーム」が設置され、対策強化の具体案(たたき台)が示されています。官公庁や社会福祉施設などは「建物内禁煙」。医療機関や学校は「敷地内禁煙」。サービス業施設や職場オフィスは「原則建物内禁煙」とし、喫煙室の設置をすすめる案をまとめています。

 地方において受動喫煙が進まない理由の一つに、地方たばこ税の収入の問題があります。たばこは地方にとって大きな税収源です。平成27年度の決算ベースでは、茨城県に38億4761万円、県内市町村に118億8170万円の税収配分がありました(例えば水戸市は21億8596万円です)。たばこ税は、その使途を限定しない一般財源であり、「受動喫煙の対策を進めると税収が減る」との考え方が、首長や議会関係者の中にも根強く受動喫煙対策が進まない要因ともなっています。
 住民の健康増進は医療費の減少に直結します。首長や地方議員の発想の展開を強く望むものです。