地域ねこセミナー(日野市)
 3月12日、井手よしひろ県議は、茨城県のおける犬猫の殺処分ゼロを進めるために、地域猫活動について「日野地域猫セミナー」に参加。NPOねこだすけ代表理事工藤久美子さんの講演を拝聴するとともに、意見交換しました。講師の工藤さんは、20年以上にわたり地域猫活動を実践し、その実績をもとに全国に地域猫の必要性を啓発してきました。

茨城県でも平成29年度予算に“地域猫”支援予算を計上
 地域で野良猫を適正に管理しながら、殺処分数を減らす“地域猫”活動が各地で広がっています。猫の愛護を進める個人や団体と地域、そして行政が一体となって、不妊・去勢手術を施して繁殖を抑え、適正な餌やりや環境美化・保全を行っていく取り組みが地域猫活動です。
 茨城県議会が昨年12月に制定した「茨城県犬猫殺処分ゼロを目指す条例」の第8条では、地域猫活動を念頭に「県は、所有者がいない猫を新たに生じさせないための地域住民等による人と猫との共生に配慮した取組を支援するよう努めるものとする」と明文化しました。
 これを受けて、平成29年度予算には、地域猫活動を支援するための具体的な予算措置が取られました。3月3日の県議会代表質問で井手県議の質問に答えて、橋本知事は「県といたしましては、犬猫の殺処分ゼロを目指す取組みをより一層推進していくことといたしました。まずは、喫緊の課題である猫への対策として、市町村と連携し、飼い主のいない猫に不妊去勢手術を行った後、地域全体で世話をし、一生を全うさせるという、いわゆる“地域猫活動”を支援することにより、猫の収容頭数の減少を図ってまいります」と答弁しました。

住民、ボランティア、獣医師、行政などが連携し、不妊・去勢手術で繁殖抑える
地域ねこ啓発パンフ 国内の猫の飼育数は、全国で約1000万匹に上り、今や大切な家族の一員のような存在です。一方、無責任な飼い主による飼育放棄などが原因で野良猫化し、2015年度は約6万7000匹が殺処分されています。
 こうした殺処分を減らそうと、各地で広がっているのが地域猫活動です。1997年に横浜市磯子区の住民が最初に始めたといわれています。地域の住民が野良猫の繁殖制限や世話を行う取り組みです。特定の飼い主がいない点では野良猫と同じですが、地域住民と行政が協力して世話をする点で大きく異なります。
 具体的な取り組みは、野良猫の繁殖を抑え、自然淘汰で数を減らしていくTNR活動(捕獲し、不妊・去勢手術を施し、元の地域に戻すこと)や、適切な餌やり、排泄などのしつけ、排せつ物やにおいなどの清掃や管理物、地域住民に理解を深めてもらうための啓発活動が一体となって展開されるものです。
 県内各地では、以前から野良猫の増加に住民が頭を悩ませています。「かわいそうだから」とこっそり餌を与える人もおり、その食べ残しの悪臭や糞尿、発情期の鳴き声などに対して、行政や自治会に多くの苦情が寄せられてます。

TNR活動
 地域猫活動は、まず地域で活動を推進するボランティアや獣医師、行政、そして地域住民とのネットワークを組み立てることからスタートします。
 そして、地域住民と協力し、野良猫の捕獲作業を行います。捕獲した猫は、地域猫活動に協力する獣医師が、不妊・去勢手術を施します。施術後は、野良猫と区別する証しとして、耳先に切り込みが入れられるのが通例です。通常は出産能力があるメス猫から不妊手術が行います。
 猫は年に1〜3回出産し、一度に2〜8匹を産みます。また、生後10カ月で出産が可能となる高い繁殖力を持っています。不妊・去勢手術は、野良猫の個体数を確実に減らすことができます。TNR活動は殺処分を減らす有効な手段で、この費用に行政等が支援する必要があります。

 手術を終えた猫は地域に戻されます。地域猫の餌やりは、いわゆる餌やりさんが協力・連携して、できるだけ同じ時間、同じ場所で行います。排泄の場所も土や砂を石やブロックで囲むなどして設置します。排せつ物も毎日回収し、清掃や匂いが発生しないようにボランティアが管理します。
 さらに、啓発活動も重要です。捕獲作業を実施する日時や場所を記したチラシを周辺住民に事前に配る、実施後も捕獲した数を記したチラシを配布するなど、地域猫活動を地域の人に正しく理解してもらうことが殺処分を減らす第一歩となります。
 工藤さんは、こうした地域猫活動の一連の流れについて、動物愛護法などの関係法令への知識や豊富な体験をもとに、ユーモアを交えながら丁寧に説明していきます。
 地域猫活動は、ボランティの大変の労力や資金が必要となります。平成27年のデータで去勢費用の平均は一頭当たり1万2652円、避妊費用は1万9833円となっています。地域猫活動には、どうしても自治体の財政的なバックアップが必要です。また、当然、地域住民の協力は不可欠です。
 地域猫活動の一方で、自治体によるルールづくりへの動きも活発なっています。和歌山県は、都道府県で初めて、野良猫への餌やりを原則禁止し、地域猫活動に関するルールを盛り込んだ県動物愛護管理条例の改正に動き出し、今年度中の成立をめざしています。ただ、条例化によって地域猫活動が制約されるという懸念の声もあり、工藤さんも餌やり禁止条例には否定的な立場です。餌やり自体が悪いのではなく、そもそも不幸な猫を減らす対応が自治体には望まれるからです。人と猫が共生できる街づくりのためには“地域猫”の広がりが必要だと強調しています。