東海第2原発を日立市から望む
 3月9日、茨城県議会一般質問でいばらき自民党の県議が取り上げた東海第2原発を巡る、原子力安全協定の拡大に関する質疑については、先のブログ「原子力安全協定は、住民の意思を原子力事業者に伝える大切なツール」http://blog.hitachi-net.jp/archives/51651094.htmlで、井手よしひろ県議の見解を示させていただきました。自民党の地元県議は、原子力安全協定は原子力事業者と県および東海村をはじめとする周辺自治体との紳士協定であり、法的な拘束力はないと指摘し、地元自治体に、再稼働や運転延長に関する“事前承認”や“拒否権”があるという考えは、マスコミがつくり出した“誤解”であると主張しました。
 これに対して橋本知事は、「(原子力安全協定の)第5条の規定は、東海第二発電所の再稼働そのものを了解する規定ではありませんが、当該工事の実施が、新規制基準に適合するための前提となっておりますことから、この事前了解が得られなければ、結果的に原子炉の再稼働は困難となります。こうした点で、第5条の規定は、東海第二発電所の再稼働に関して大きな意味を持っているものと考えているところでございます」と、県と東海村が再稼働への実質的な“事前承認”や“拒否権”を有していることを明言しました。
 この質疑は、原子力安全協定をめぐる、推進派と常識的な判断を行おうとする者の立場を理解するために、格好の場となりました。インターネットの記録から文字起こしを行い、質問と答弁を整理しました。正式な議事録が掲載されるまで、参考のためにアップロードします。また、日本原子力発電と茨城県、東海村、周辺市町村との間の原子力安全協定第5条についてご紹介します。
原子力施設周辺の安全確保及び環境保全に関する協定書
(前文)
茨城県(以下「甲」という。)、「東海村(以下「乙」という。)、並びに「日立市、那珂市、ひたちなか市、大洗町」(以下それぞれ「丙」という。)と「日本原子力発電株式会社東海発電所・東海第二発電所」(以下「丁」という。)は、丁の「東海発電所・東海第二発電所」に関し、原子力の研究開発及び利用に関する施設(以下「原子力施設」という。)周辺の安全を確保し、もって住民の健康を保護するとともに地域の生活環境を保全することを目的として、次のとおり協定する。
(新増設等に対する事前了解)
第5条 丁は、原子力施設及びこれと密接な関連を有する施設を新設し、増設し、変更し、又はこれらに係わる用地を取得しようとするときは、事前に甲及び乙の了解を得るものとする。ただし、軽微なものについてはこの限りではない。
2 甲は、前項の場合において必要があると認めるときは、丙の意見を求めるものとする。


茨城県議会平成29年第一回定例県議会一般質問「原子力行政について」

 原子力安全協定の歴史的背景をまず申し上げますと、そもそも法律上、原子炉等施設の安全確保等は、国が一元的に所管し、地元自治体が関与できない仕組みとなっておりました。
 このため、昭和40年代半ば頃から、地元自治体からその関与について要望等が出てきたことから、国において協定を締結するよう指導等を行ったわけであります。
その結果、各自治体と事業者が、法律に基づかない紳士協定である安全協定を締結し、それに基づき、自治体は書類の確認、現地立ち入り調査等による事業活動の把握等の安全確認を行っております。
現在、東海第二原発の安全協定は、甲である県と乙である地元東海村のほか、丙として日立、常陸太田、那珂及びひたちなかの4市において締結しておりますが、東海第二原発における新増設等の事前了解については、県と東海村に限られております。

 次に、この問題に関する言葉の整理をしたいと思います。
 まず前提を確認します。「新規制基準適合に向けた取組は、法律上は施設の新増設計画にあたり、安全協定第5条の事前了解」にあります。
 そして、ここが最大の誤解だと私は考えておりますが、安全協定第5条の事前了解は、東海第二原発の再稼働の事前了解とは決してイコールではありません。
 最近では、再稼働の事前了解をマスコミは「地元同意権」なる言葉を頻繁に使っておりますが、「地元同意権」という言葉も、川内原発など他県の例を見ても、再稼働に向けた最終局面の手続きは、まさにブラックボックスとなっております。
 この部分にはしっかりとした法的整備はなく、現実的には「再稼働に協力してほしい」という国の要請を受けた上で、自治体で協議が開始されるという別の手続きや動きが存在する訳であり、「地元の同意」という言葉自体が曖昧であります。
 そして、その意味では、現在認識されている東海第二発電所の再稼働の「地元同意権」が、県と東海村に限られているという法的根拠すらなく、もっと踏み込めば、第3者機関である原子力規制委員会が審査した結果、新規制基準に合格し、国の原子力防災会議で自治体が作成した避難計画が「合理的で妥当」と判断された原発に対し、自治体が「拒否権」を本当に持ち得るのか?何を持って何を根拠に「拒否」をするのか?という疑問もあります。
 こう考えると、そもそも、そんな権利があるのか?と言う疑問も含めて「拒否権」を自治体は持っているのか?という話であります。これが、「事前了解」「地元同意権」「拒否権」という言葉の意味であると考えます。

 次に、東海第二発電の周辺自治体が何を求めているのか?この動きを整理します。
 まず初めに確認しなければいけないのは、安全協定に係る権限拡大の声が市町村から上がってきた背景とそのきっかけであります。その要因は、東海村の村上前村長の誤った認識が引き起こしたものであると考えます。
 そして協定拡大の動きによって生まれた、6市村で構成される「原子力所在地域首長懇談会」では、県や東海村と同等の権限拡大を求めた結果、平成26年3月に日本原電と「今後にかかる判断を求める前に協定を見直す」との覚書を締結しました。
 これは、新村長になった山田村長の努力によるもので、事業者も含めこの事態を何とか収拾しようとした結果であります。
 この覚書締結後、自治体担当者らが日本原電と「安全協定に関する」勉強会を繰り返しました。この勉強会で、「安全協定が自分たちの思うような万能な協定ではない」ことを十分に理解したと伺っております。
 そして、昨年12月に日本原電は「周辺自治体にも東海村と同様に事前の説明や立ち入り調査を無条件で認める」という最大の提案を行いました。
 しかし、この提案に対し、同懇談会に参加する各首長は「ゼロ回答」と反発し、先月9日に、改めて5市の権限拡大を求めて協定の見直しを申し入れています。
 一方、UPZ圏内などの15自治体で構成される「東海第二発電所安全対策首長会議」においても、重要事項に係る協議等の権限の確保や協定内容の見直し等を求めております。

 それでは、次に、「安全協定上の権利」の本質的な部分を見ていきたいと思います。
 ここで改めて申し上げますが、周辺自治体は何を求めているのか?を明確にするために、その反対の言葉として、「県と東海村はどんな権限を持っているか?」を中心に考えていきます。
 先程、「安全協定第5条の事前了解」「再稼働の事前了解に関する誤解」「法的に根拠のない地元同意権なるもの」の言葉の説明を申し上げましたが、この重要な言葉を考えましても、県や東海村は巨大な権限を持っているわけではありません。それは、最初に申し上げた「安全協定」の歴史的背景を見ても明らかです。
 また、これに安全協定の意味・趣旨を合わせて考えると、安全協定は原発が稼働していることを前提とした協定であり、原子力発電事業に賛同できない自治体は結ぶ必要のない協定であります。協定上、いわゆる「地元同意権」や「拒否権」などの権利は協定内に存在していないのであります。
 よって、周辺自治体が「安全協定の範囲拡大」という動きによって獲得できる権限は、思ったより少なく、今回の日本原電の提案では、周辺自治体に、東海村と同様に事前の説明や立入調査をする権利を無条件で認めた訳であり、私は「随分と思い切ったなぁ」という印象を持ちました。
 しかし、これを自治体が「ゼロ回答」と判断し反発した姿を見た時に、「この問題の収拾には県が出ていかなければならない」と感じました。
 こうした自治体の反応は、認識がずれていることに他なりませんし、今回のこの案件では、ないものねだりをしていると私は考えます。安全協定の歴史的背景やその協定が持つ性質、そしてマスコミが勝手に使う言葉の意味を考えた時、周辺自治体が求める究極の権限は、幻想であり、県や東海村でさえ、そんな権限を持っておりません。この認識が決定的に欠けている訳であります。
 それでは、なぜこんなことになってしまったのでしょうか?
 その原因は県にあると考えています。
 東海村の村上前村長が誤った認識のもとに引き起こした、安全協定に係る権限拡大の声が市町村から上がってきた時点で、県では「県が各市町村の安全性を担保しており、安全協定上、地元同意権や拒否権などは存在しない」旨を明確に表明し、速やかに問題を引き取るべきであったのではないでしょうか。
 しかし、知事はそうした対応をとることもなく、いまだに県の立場を明確にしておりません。
 こうした知事の態度が、関係自治体は勿論のこと、県民を含めた県全体、ひいては原子力問題に揺れる全国の自治体に対し、結果的に、「間違ったメッセージ」を送ってしまっていると私は思うのです。
 安全協定の事前了解、特に今回の問題である「東海第二発電所の新規制基準適合へ向けた取組み」に安全協定の第5条にある「事前了解」がどう関係しているのか?という一番大切で基本的なことが、定義もされず曖昧のまま放置された結果、事前了解と言う言葉が独り歩きし、事を複雑にしてしまいました。
 その結果、拡大を求める自治体が本来あるはずのない権利を要求し、事業者が本質的な要求をのみ、自治体が最大の果実・権利を手に入れたにも関わらず、「ゼロ回答」などという的外れな言葉が新聞紙上に踊る結果となっているのであります。
 さらに、知事は記者会見で「これからも両者で十分に話し合いをしていってほしい」「当事者同士でお話し合いをしていけばいい」などと発言するとともに、首長会議からオブザーバーとしての参加を要請された際、これをすんなり了承するなど、もはや他人事、当事者の認識がないとしか思えない対応をしております。なぜ知事は構成員として参加すると発言し、リーダーシップを取ろうとしないのでしょうか。
 私が、「原因は県にある」と強く主張するのは、この問題の当事者は東海村ではなく、県だ、ということであります。
 こうした周辺自治体の権限拡大を求める動きに対して、今こそ安全協定が立地県と立地自治体のみで締結している理由をしっかり考えるべきではないでしょうか。
 その理由として、まず県は立地自治体である東海村も含んだ、原発周辺の自治体の安全性を担保する立場で安全協定を締結しています。そして、県に安全を担保されている東海村は「原発が立地している自治体」という一点で他の自治体とは別に、言わば「特出し」された立場で締結しているのであります。
 よって、「特出し」された東海村と同等の権限を周辺自治体に広げるというのは、東海村の権限を周辺自治体に分配するという意味ではなく、県が持つ権限や東海村を含む県全体の安全確保の為に果たしてきた県の義務を放棄し、県が周辺自治体に分配することを意味します。
 つまりこれは、東海村の権限が薄まるのではなく、県の権限が薄まるのだということです。しかし、県にはこの自覚がありません。県は、県が当事者である、という事実をしっかりと認識し強く自覚すべきであります。
 私は、知事がこうした安全協定を取り巻く諸問題を解決できないのであれば、今後、本県の原子力行政についてリーダーシップを取っていくだけの能力があるとはとても考えられないのであります。
 茨城県、特に東海村は私が何度も指摘してきた通り、原子力行政そのものであります。原子力のパイオニアである茨城県の果たすべき責任は大きいと、私は再三申し上げてまいりました。
 ハッキリと申し上げますが、県が果たすべき責任とは、「原発の再稼働を積極的に進める」ということでは決してありません。マスコミに翻弄され、定義されない言葉が躍り、なかなか理解が進まず建設的な議論が為されない原子力に係る諸問題について、言葉や論点を整理し、きちんと筋を通し、法的に足らざる部分があれば、国にそれを指摘し整備するよう促し、県民の安全がしっかり確保できるような原子力行政を体現することであります。それが、3・11を経験した我が県の原子力のパイオニアとしての責任だと私は考えます。
 そこで、こうした点を踏まえ、まずは、安全協定における権利とされている「安全協定第5条に規定された事前了解」についてどのように考えているのか、知事のご所見をお伺いいたします。
 その上で、現在の安全協定拡大の動きに対して、今後、県としてどのように対応していくのか、併せて知事にお伺いいたします。

橋本知事の「原子力行政について」に関する答弁

 まず、原子力安全協定第五条に基づく事前了解についてお尋ねをいただきました。
 この規定は、原子力事業者が、原子力施設の新増設等を行おうとするときは、事前に県及び施設が立地する市町村の了解を得なければならないとされているものであります。
 具体的には、原子力施設の新たな建設や増設のほか、施設内の主要な設備の更新、放射性物質の貯蔵能力の増加等、主要な施設・設備の変更等が対象となっており、関係法令に基づく許認可申請を行う時までに、これらの新増設等に係る計画書を県及び立地市町村に提出することとなっております。
 東海第二発電所におきましては、新規制基準に適合させるための安全対策工事が必要となっており、このうち、原子炉の非常用冷却設備の増設が、同規定に基づく事前了解を得る必要のある工事に該当することから、平成26年5月の新規制基準適合性審査の申請に併せ、当該工事に係る新増設等計画書が日本原子力発電から県及び東海村に提出されているところでございます。
 議員ご指摘のように、第5条の規定は、東海第二発電所の再稼働そのものを了解する規定ではありませんが、当該工事の実施が、新規制基準に適合するための前提となっておりますことから、この事前了解が得られなければ、結果的に原子炉の再稼働は困難となります。
 こうした点で、第5条の規定は、東海第二発電所の再稼働に関して大きな意味を持っているものと考えているところでございます。
 もとより、東海第二発電所の再稼働につきましては、新規制基準への適合性審査の結果だけでなく、国のエネルギー政策や地域の防災対策など幅広い観点から検討すべき問題であると認識しており、県の原子力安全対策委員会や原子力審議会における検証と審議、県議会や地元市町村との十分な協議をさせていただいた上で、総合的に判断してまいりたいと考えているところでございます。

 次に、原子力安全協定の見直しに係る県の対応についてでございます。
 議員ご指摘のとおり、現在、東海村及び隣接四市と水戸市で構成される「原子力所在地域首長懇談会」や東海第二発電所のUPZ内市町村及び小美玉市で構成される「東海第二発電所安全対策首長会議」において、それぞれ日本原子力発電との間で、協定の対象市町村の拡大や権限の見直しに向けた協議が進められているところでございます。
 これらの動きについて、議員からは、県が持つ権限を周辺自治体に分配することになるとのご指摘がございましたが、私はむしろ、原子力施設の安全性を県と関係自治体が二重にチェックすることを通じ、東海第二発電所の事業活動に関し、地域住民の安全安心を確保しようとするためのものとして理解しているところであります。
 本県におきましては、当初、「原子力所在地域首長懇談会」に加え、水戸市や大洗町など九市町村で構成される「県央地域首長懇話会」からも協定の締結範囲の拡大等を求める声があったほか、UPZ内の市町村でこれらの動きに加わっていなかった高萩市など4市町からも、日本原子力発電と協定に関する協議を行うことができる組織の設立について要望が出されるなど、様々な動きがございました。
 私はこうした動きを踏まえ、関係市町村が組織を一本化して対応してはどうかとのアドバイスを関係者に行ってきたところであり、その結果、「東海第二発電所安全対策首長会議」が発足したところでございます。
 また、その発足に際しては、県に対して、構成員としてではなく、オブザーバーの立場での参加の要請があり、県としてもこれを了承し、現在に至っております。
 こうした経緯や、現在、懇談会や首長会議と日本原子力発電との間で、真剣な協議が行われている状況などを踏まえますと、まずは、関係自治体と日本原子力発電との間の協議を引き続き進めていくことが重要であると考えており、県といたしましては、当面、市町村からの求めに応じて、適宜、必要な助言を行っていくとともに、今後、両者間で具体的な方向性が示された段階で、適切に対応してまいりたいと考えております。