ピロリ菌と胃がんの関係 2013年2月、慢性胃炎に対して、ピロリ菌の除菌に健康保険が適用されるようになりました。これは世界的にみても初めて試みであり、世界中の保健医療に携わる専門家から注目されています。
 ピロリ菌除菌に保険が適用されたことは、「胃がん撲滅プロジェクト」の大いなるプロローグといえます。
 2014年、世界保健機構(WHO)の下部機関である国際がん研究機関(IARC)は、胃がん発症を3〜4割減らせるとして、ピロリ菌除菌による胃がん予防対策を世界に向けて推奨しました。
 2016年、日本ベリコバクター学会は、ピロリ菌の診断と治療に関するガイドラインを7年ぶり3回目の改訂を行いました。そこには、胃がん予防のあり方が提言として盛り込まれました。未成年者から胃がん発症リスクが高まる世代まで、世代別に胃がん予防対策が提示されています。
 すなわち、ピロリ菌感感染を見つけ出し、感染者には除菌治療を行い、除菌後は胃がんリスクに応じて定期的な胃がんスクリーニングを行うということです。

(グラフの説明:胃がんとピロリ菌は密接に関係しているといわれています。1994年にWHO(世界保健機関)は、ピロリ菌を「確実な発がん因子」と認定しました。これは、タバコやアスベストと同じ分類に入ります。
ピロリ菌の感染が長期間にわたって持続すると、胃の粘膜がうすくやせてしまう「萎縮」が進行し、一部は腸上皮化生となり、胃がんを引き起こしやすい状態をつくりだします。 また、胃潰瘍、十二指腸潰瘍や胃炎などの患者さんを対象としたわが國の調査では、10年間で胃がんになった人の割合は、ピロリ菌に感染していない人では0%(280人中0人)、ピロリ菌に感染している人では2.9%(1246人中36人)であったと報告されています)
 中高校生などの若年者に対するピロリ菌除菌は、本人の胃がんリスクを大幅に減らすことが期待されます。また結果的には、子育てに関して親から子への感染を阻止することが出来、次世代の胃がんリスクを激減させます。
 岡山県真庭市、北海道福島町、大阪府高槻市、兵庫県篠山市で先進的にスタートした中学生へのピロリ菌検査は、現在、北海道では36市町村に拡大し、対象学生の4分1がピロリ菌検査を受けるまで拡大してきました。茨城県内でも、まず水戸市が来年度より中学2年生ピロリ菌検査をスタートさせることになりました。都道府県レベルでも、2016年度から佐賀県が、17年度から鹿児島県が、ピロリ菌検査を導入します。
 中学生におけるピロリ菌感染率は5%前後です。ピロリ菌陽性の学生は症状が出ていなくても、 慢性胃炎患者であるため除歯治療が必要となります。

レントゲン・バリウム検査では胃がんを減少させられなかった
 また、胃がん検診も大きく変わってきました。日本においては、バリウムを飲用しレントゲン撮影をするというバリウム・レントゲン検査のみが、長らく行われてきました。2014年に検査ガイドラインが改定され、内視鏡
検査が2016年から正式に導入されました。
 2013年にピロリ菌除菌に保険適用が実現してから、今年(2017年)で4年が経過しました。保険適用後、一年間で約150万件、3年間で約450万件の除菌が行われました。と同時に、除菌の保険適用の要件に内視鏡検査が加わったことによって、約450万件の内視鏡検査も行われれたことになります。この結果、胃がんによる死亡者数が明らかに減少し始めています。
 これは内視錆検査を行うことによって、胃がんのリスクに早期に対応できたための短期的な成果と推測することが出来ます。今後はピロリ菌除菌の効果が顕著に表れて来ますので、死亡数の減少幅はさらに大きくなると思われます。

胃がんの死亡数と見込み
 国立がん研究センターでは、2030年までの胃がん死亡者予測を公表しています。それによると、ピロリ菌感染者数が減少してくるために、2020年頃をピークに胃がん死亡者は減少してくると予想していました。
 しかし、ピロリ菌除菌への保険適用となった2013年から15年3年間で、胃がんよる死亡者数は7%も減少しました。がん研究センターの予測をはるかに下回る結果となりました。

(グラフの説明:胃がん死亡者数と国立がん研究センターによる胃がん予測死亡者数の推移。胃がんの死亡者数は2000年までの300年間は5万人程度でずっと横ばいだったが、2000年以降ゆるやかに減少している。そして、ここ1、2年は減少のペースが早まっている(人口動態統計表と国立がん研究センターの予測死亡者数から上村先生が作成)※がんセンターの2016年の予測死亡者数は、2016年7月に発表したデータ:出典は胃がん・胃潰瘍、驚きの”新常識”日経Gooday からだケア2016/12/1)

 ピロリ菌研究の国内第一人者である北海道医療大学学長の浅香正博先生は、「2017年に16年のデータが出れば、確実に胃がん死亡者数の10%減は達成できるのでは、と思っています」と著書の中で語っています。2030年には、胃がんによる死亡者数は2万人程度に減少し、ガン研究所の推計の4割以下にまで圧縮させることが可能としています。
 バリウムとレントゲンによる検査が長く続く中で、胃ガン死を減らすことは出来までした。ピロリ菌除菌の保険適用により、わずか3年で死亡例の減少が有意な数字として表われています。逆説的に言えば、今までの検査があまり効果がなかったとを率直にみとめるべきだと思います。バリウム・レントゲン検査に投入している膨大な公的資金やマンパワーをピロリ菌リスク検査や内視鏡検査に集中できたならば、胃がん僕減への流れは、更に加速するものと確信します。