医師を迎えてのがん教育 文部科学省は4月から、がんに対する正確な理解を深め、命の大切さを学ぶ「がん教育」の全国展開をめざした取り組みを本格化させます。
 がんは、日本人の2人に1人が生涯のうちに患う「国民病」です。その原因や予防、検診、治療法などの正しい知識を伝えるだけでなく、命についても考えさせるのが「がん教育」です。がん教育を通して、自分の命を大切にすることを学んだ子どもたちは、他人の命を思いやり、いずれは国の将来をも考えられる人材に成長できます。
 ただ、がん教育といっても、保健体育の一環として、生活習慣の改善に焦点を当てる学校もあれば、道徳教育として命や心の問題に重きを置く学校もあります。一定の基準のもと、地域や学校の実情に応じた柔軟な姿勢が大切です。
 がん専門医を外部講師とした授業も一部で行われています。学校の教員だけの授業と比べて、がん専門医を外部講師として活用すれば、医療現場での経験に基づいた話ができ、子どもたちが実感しやすくなります。結果的に教育効果が大きくなります。
 例えば、外部講師として授業を行っている小学校では、「がんって何」という話から始め、早期発見と早期治療の重要性や、受動喫煙を含めた生活習慣のリスク(危険性)と同時に、患者さんの体や心のつらさについても、一緒に考えるようにしています。授業を受けた子どもたちからは、「『死ぬ、怖い』や『治らない』というだけだった、がんのイメージが変わった」「がんを身近な病気だとして捉えられた」といった声が寄せられています。また、がん教育を受けた子どもが家族の方に「検診を受けてほしい」と伝え、がん検診の受診率向上につながったケースもあります。
 現在、がん教育に取り組む学校は増えつつあります。個々のがん専門医や学校、教員の熱意や努力に頼っている部分が大きいために、一部の学校や地域に限られてしまっている現状もあります。
 改訂中の中学校の学習指導要領案には「がん」が初めて明記される見込みです。学校教育での根拠ができ、全国展開を着実に前進させることができます。こうした環境づくりを進めていかなければなりません。
 学校への支援は、教員向けの研修会の開催や外部講師の派遣など、きめ細かな支援が欠かせません。
 がん専門医と医師会、学校、行政関係者らによる「がん教育推進協議会」を設け、連携することが大事です。このような協議会の設置により、外部講師と学校側を円滑に結び付ける工夫も必要です。
 また、外部講師となる医師やがん経験者の確保が容易でない地域に対しては、テレビ会議システムなどを通した遠隔教育授業や映像データの利用を検討するのも一案です。
 3月14日には都議会公明党が議会質問で、がん教育推進協議会の設置を提案し、「協議会を新たに設置して、外部講師の効果的な活用方法や連携体制のあり方について、区市町村教育委員会や学校に周知していく」との答弁を引き出しました。がん教育で学校と医療の連携の場を作るのは、教師と医師だけでは無理です。そこに、地方議員の力を発揮する場があります。
 茨城県では、国のモデル事業を受けて平成26年度から28年度の3か年、がん教育推進協議会を設置して、がん教育に取り組んできました。29年度は、引き続きこの協議会を充実させ、小中学校全校でがん教育を一コマ実施する計画です。8月には、モデル授業の発表会(研修会)を開催する予定です。

茨城県のがん教育のレポートより
【つくば市立春日学園(春日中学校)平成26年10月30日実施】
 10月30日、つくば市谷田部の江原こどもクリニック院長、江原孝郎先生を講師としてお迎えし、がん教育講演会を実施しました。保健体育で「生活習慣病の予防」について学ぶ 9 年生(中学3年生)が、専門家の方から直接学ぶことのできる場となりました。
 講話は、まず、日本人の死亡原因として、3 人に 1 人が「がん」であるという現状から始まり、「がんとは何か」「がんはなぜ悪いと思うか」などと、生徒へ問い掛けながら、専 門的な話に移りました。がんは、からだの正常な細胞が異常な細胞に無秩序に変化し増殖し、器官のはたらきを壊してしまうということでした。
 次に、がんの予防の話題になりました。ここで、心 身の負担となるさまざまな生活習慣が病気の原因 となっていることを具体 的に説明してくださいま
した。「野菜や果物不足にならず、減塩を心掛けたバランスのよい食事」、「適度な運動を取り入れた活動的な日常生活」、「たばこは吸わず、副流煙を避けるすすめ」などの示唆がありました。
 特に具体的に数値を挙げながら強調されたのが「たばこと健康」についてです。がんの死亡のうち、男性で40%、女性で5%は喫煙が原因だと考えられているそうです。特に肺がんは喫煙との関連が強く、 肺がんの死亡のうち、男性で70%、女性で20%は喫煙が原因だと考えられています。喫
煙年数が長いほど、1日の喫煙本数が多いほど、また喫煙開始年齢が若いほど、がんのリスクが高くなるのだそうです。喫煙が、がんの原因となることを強調されたことは、未成年者の喫煙が法律的に違法であることへの説得性を持たせ、生徒への警鐘となりました。
 最後は、がんの治療について、「内視鏡切除」、「放射線治療」などとともに、「生活の質の回復」について説明してくださり、健康を保持増進し、がんを予防するためには、生活習慣の改善を考え実践しなければならないと考えさせられました。また、生活習慣の改善は生活の質を高めることであり、自分の人生の質まで高めることにつながることであることも分かりました。

【潮来市立潮来第二中学校 平成26年12月5日実施】
 12月5日、全校生徒を対象にがん教育講演会が行われました。保護者への参加も呼びかけ、約20名の保護者の方々も参加しました。
 「がん体験者からのメッセージ」と題し、乳がん体験者である中野潤子先生から講演をいただきました。はじめに、がんについてのクイズ。生徒たちは、国民の2人に1人ががんにかかる可能性があることを知り、 おどろく様子でした。また、がんの死因順 位や、がんの多い年齢、がんの原因、がん
予防は可能かなど、生徒にがんについての 関心を高める導入となりました。
 続いて、ご自身の体験をお話しされました。中野先生は、40歳の時にがん検診で乳がんが見つかり、がんを告知されたときの不安な気持ちや、孤独感、家族の心情などをお話しされ、治療中は「患者会」になるべく参加したり、がん経験者の友人である「がん友」をつくったり、前向きに楽しいことを考えるようにしたことで、その落ち込むような気持ちから乗り越えたそうです。がんになってからは、がんの体験を生かそうと思い、がんの予防やがん検診についての普及啓発活動に携わり、現在も活躍中だそうです。
 中野先生は、がんについてもたくさんの知識をお持ちであり、がんはどのようにしてできるか、主ながんの原因は何であるか、がん検診の意義、がんの治療法など、がんについて生徒たちにとてもわかりやすい言葉で説明していただきました。
 最後のまとめとして、「自分の健康は自分で守りましょう」、「お友達、家族と健康について話し合いましょう」、「自分には関係ないと思わないで」、「家族に検診を勧めましょう」など、これから長い人生を送る若い生徒たちに大切なメッセージを残していただきました。