避難所運営に反映へ/復興・復旧を担う役割も期待
イメージ 熊本地震から間もなく1年を迎えます。ここ数年の大災害を教訓に女性の視点に立った対策が各地で進み始めています。その知識や技術の習得へ向けて、内閣府が作成した「男女共同参画の視点からの防災研修プログラム」が活用されています。
 2016年6月に策定された内閣府の研修プログラムは、自治体の職員だけでなく、地域で防災活動の中核となるリーダーや関係者も対象にしています。研修内容は、男女の支援ニーズの違いや、具体的な災害を想定した備えを話し合うなど、5部構成となっており、災害からの復興・復旧を担う役割も期待されています。
 このプログラムを基に、千葉県我孫子市は2月に避難所での対応について研修を行いました。当日、内閣府の職員を講師に招いた座学で、男性と女性は災害による影響内容が異なる点を学びます。講師からは、「阪神・淡路大震災と東日本大震災で亡くなった人数は女性が男性を上回る」「男性に比べて女性は災害後の雇用状況や健康状態が厳しい」「避難所生活では男性より女性が不便を感じている人が多い」といった調査結果を交えた解説がありました。
 さらに、東日本大震災では女性用品だけでなく、粉ミルクや、おむつなど乳幼児用品についても女性からの要望が多かった事例を学び、女性特有の支援ニーズについて理解を深めました。
 続いて実施されたグループワークでは、「大規模な災害が起きたため、家族と共に避難所となった中学校の体育館で過ごしている」といった避難所の状況を想定し、どのような対策が取れるかについて話し合います。「避難所の運営会議のメンバーは男性と女性を同じ割合で構成し、特に子育て世代を必ず入れるようにしてほしい」などの意見が出されました。
 このほか、講師は他の自治体の先進事例について解説。全ての避難所において女性用更衣室や女性専用の授乳室・育児スペースなどの部屋をプライバシーに配慮した取り組みを紹介し、内閣府の研修プログラムに盛り込まれた内容が着実に浸透していることも学びました。
地方防災会議の女性委員 比率40%達成の市も
 一方、大阪府は16年12月、地震対策をテーマに府内の市町村職員向けに研修を実施しました。
 ここでは、防災の計画づくりや方針を決定する地方防災会議の役割などについて学習。特に市区町村の防災会議の委員に占める女性の割合が全国平均で7.7%にすぎない現状を確認。女性の一層の参画が必要であることについて認識を深めました。
 また、自治体の防災会議の委員に女性を増員した自治体の事例が紹介され、市が介護・医療や消防団など防災に関わる分野の女性に就任を要請し、女性委員の割合を40%近くまで高めた取り組みなどが報告されました。グループワークでは、「幼い子どもと2人で家にいる時に震度6強の地震が起きた」という想定で必要な対策について話し合いました。
 研修プログラムでは、これらの「避難所」「地震」以外にも、「風水害」「津波」の想定災害が用意されており、地域の置かれた実情に応じて選択できます。また、講師が各災害の想定状況の中から注目すべきワードや必要な対策についてポイントの解説も行います。
 2013年、内閣府は東日本大震災などの教訓を踏まえ、災害の予防や応急措置、復旧・復興などの各段階において、自治体が取り組む際に参考となる事項を「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」として取りまとめました。
 さらに、自治体の防災政策の立案や実行・検証を一層促そうと、同府は「男女共同参画の視点からの防災研修プログラム」を作成し、全国の自治体を対象にした説明会を開催しています。昨年から今年にかけて全国11自治体で試行研修会を実施しました。
 公明党女性委員会の女性防災会議(山本香苗議長=参院議員)は、この研修プログラムの活用を通じて、各地で女性防災リーダーの養成講座を開催していけるよう訴えています。党内閣部会(佐藤茂樹部会長=衆院議員)も女性防災リーダー研修を行うための予算確保を政府に求めてきました。
参考:男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針http://www.gender.go.jp/policy/saigai/shishin/

首都直下に備える東京都/リーダー育成へセミナー開催/備蓄法など紹介の防災本作成
 首都直下地震などの巨大災害の発生が懸念される東京都では、建物の耐震化や不燃化などハード分野の整備に加え、避難所の運営や地域の防災組織強化など、ソフト分野への取り組みにも力を入れています。
 その一つが、女性の視点を生かした対策であり、17年度は、都議会公明党の主張を受けて女性防災リーダーの育成に積極的に乗り出します。
 具体的には、防災への関心を多くの女性に持ってもらうためシンポジウムを開催します。併せて、防災の基礎知識を身に付けるセミナーも行う予定です。有識者に検討してもらい、リーダー育成のためのカリキュラムも策定します。
 こうした試みについて、東京都総合防災部の宮崎玄・事業調整担当課長は「都道府県の中でも全国をけん引する取り組みになるのではないか。首都・東京の発信力を生かし、女性の活躍を進めていきたい」と語っています。
 また、「女性視点の防災ブック」の作成費用も都議会公明党の提案を基に17年度予算に盛り込まれました。女性視点の防災ブックは、避難所における女性の着替えや授乳の場所の確保といった女性の視点を反映させるべきポイントを掲載。家庭でできる備蓄方法などについても解説する予定です。国内で製造や販売が認められていないが、安全基準の策定へ議論が始まった「乳児用液体ミルク」についても、効果が期待される備蓄品として紹介欄を設けます。

【乳児用液体ミルクについて】
液体ミルク 乳児はミルクからしか栄養を摂ることが出来ません。しかし被災地では水道水が汚染されていたり、震災のショックで母乳が出なくなったりと、何らかの事情でミルクを与えられないことがあります。
 1995年の阪神・淡路大震災の際、赤ちゃんのミルク確保が困難で、災害時における液状ミルクの必要性が話題になりました。そして、4月には朝日新聞で「乳児用液体ミルク」という名のもとでその存在が紹介されました。しかし、その後、日本では残念なことに液状ミルクが製造されることはありませんでした。
◆液状ミルクの魅力
 アメリカでは液状ミルクが粉ミルク同様、一般のスーパーや薬局で売られています。特に病院では液状ミルクが積極的に使われています。液状ミルクの最大の利点は、ビンのふたをあけてそのまま赤ちゃんにミルクを飲ませることができることです。粉ミルクのように量を測って、水を沸かして溶く手間が省けること。
さらに常温で保存できるものもあります。
 一回分の飲みきりタイプのビンではふたをはずし、乳首のキャップをつければそのままミルクを与えることができるのです。
 また、アメリカでは使い捨て哺乳瓶や使い捨て乳首もあるので、ビニールの哺乳袋に調乳済みのミルクを入れれば、哺乳瓶を洗えなかったり、消毒できなくても大丈夫なのです。
◆災害にもっとも活躍する液状ミルク
 これらの調乳済みミルクは災害時には大きな役割を果たします。災害時には安心できる水が調達できない、水があってもお湯を作れない、ミネラルウォーターは買い占められる、地震のショックで母乳が出ない、哺乳瓶がない、哺乳瓶が洗えないなどの状況に陥る可能性があります。
 そういう状況のもと、調乳済みミルクはミルクしか飲めない赤ちゃんにとって命の綱となるのです。