常盤大学のキャンパス
 5月2日、井手よしひろ県議と高崎進県議(いずれも茨城県議会公明党、高崎県議は水戸市選出)は、水戸市内の常磐大学を訪れ、行政法学・地方自治論が専門の吉田勉准教授と意見交換しました。
 茨城県議会では3月議会で、知事提出予算案を議員提案で2億3000万円増額修正しました。知事が提案した予算案を減額する修正は、時折、他の地方議会でも見られますが、増額する予算修正は大変珍しい出来事でした。現に、茨城県議会では、その長い歴史の中で初めての出来事です。地方議会の専門家である吉田先生には、その審議を行った予算特別委員会もわざわざ傍聴していただきました。

 今回の増額修正を提案した県議会自民党(いばらき自民党)の政調会長・常井洋治県議は地元紙への投稿で、その目的や経緯を次のように語っています。長文ですが引用させていただきます。
「私どもいばらき自民党は、知事が提出した2017年度一般会計予算案を精査したところ、県施策において、県民の多くの要望に今なお応えられていないのではないかと感じるところがありました。そのため、長い財政危機状態を脱しつつある中で、財政規律を重んじながらも、施策、予算の不十分なものや欠落しているものについて、知事との調整の俎上(そじょう)に乗せて、議論してきました」
「予算提案者の知事と、議決権を有する議会との調整はシビアなものでした。その中で、増額の理由として道路については、陥没による事故の増大やひび割れ、除草回数の減少、横断歩道などの白線が消えて危険であること、また、河川については、土砂堆積、竹木の繁茂などが、ゲリラ豪雨による増水頻発の原因の一つであることに対し県民からの要望、苦情が大変多いことを挙げました。さらには、2年後の茨城国体に向け、道路の清掃美化もより一層進めなければなりません。このように、私どもは防災の観点などからも、道路・河川の維持管理費の大幅な増額を求めたところですが、調整の結果、2億円の増額で合意に至りました」
「次に、県動物指導センター(笠間市)で殺処分される犬猫は、15年度に3612頭(犬は全国ワースト2位)に達しています。われわれが議員提案で制定した「茨城県犬猫殺処分ゼロを目指す条例」の趣旨に鑑み、1頭でも多くの命を救うために、殺処分直前で譲り受けてくれる方に、県が不妊去勢手術を実施し譲り渡すための予算3千万円を増額することで合意に至りました。条例の目的に掲げたように、犬猫の命を尊ぶことは、人間の命の尊厳につながるとの思いから、殺処分ゼロへの茨城県の本気度を示すものであると考えております」
「その他、がん対策、県北振興、災害対策なども協議しましたが、付帯決議などにより、今後の予算化に期待することとしました。私どもいばらき自民党は、地方自治制度の中での県議会の権能を十分に活用し、知事との適度な緊張関係の中で二元代表制を実現して、県民の付託に応えていく責任の重さをさらに認識したところであります」

磔進県議の質疑
 こうした、自民党の考え方にたいして、私たち県議会公明党は、その基本的な考え方には賛成するものの、明確にすべき問題があるとして質疑並びに賛成討論を行いました。
 そのポイントは4点です。
 第1に、地方自治法において予算の提案権は議会にはなく、首長にのみ与えられています。地方自治法第211条第1項では、「普通地方公共団体の長は、毎会計年度予算を調製し、年度開始前に、議会の議決を経なければならない」とあります。また、同じく第112条は、「議会の議員は、議会の議決すべき事件につき、議会に議案を提出することができる。但し、予算については、この限りでない」と、議員の予算提案権を明確に否定しています。
通常は、知事が提案した予算に対し、県議会は原案どおり可決か、否決するかの判断を行うことになります。
 その予算の一部を修正することも認められています。ただし、今回提案された増額修正については、地方自治法第97条第2項で、「議会は、予算について、増額してこれを議決することを妨げない。但し、普通地方公共団体の長の予算の提出の権限を侵すことはできない」と明記されています。ここでの「長の権限を侵すもの」という判断基準は、旧自治省による1977年10月3日の通知では、増額修正をしようとする内容、規模、当該予算全体との関連、当該地方公共団体の行財政運営における影響度等を総合的に勘案して、個々の具体の事案に即して判断するものと解されています。学陽書房発行「逐条地方自治法」では、新たな款項を加えること、継続費、繰越明許費、債務負担行為に新たな事業を加えることは、長の権限を侵すものとの記載があります。
 そこで問題になるのが、今回の増額修正が、地方自治法第97条第2項でいうところの「長の予算の提出の権限を侵すことはできない」との条文に抵触しないか、しないかとの問題です。
 第2に、修正案の財源についての問題です。道路の緊急修繕事業や河川の緊急減災対策事業にかかわる2億円の増額は県債の発行、いわば県の借金の増額で賄っています。今回の予算修正案に対して、今後このような増額修正が毎年のように行われるのであれば、県の財政規律は破綻してしまうのではないか、せっかく長年積み重ねてきた財政再建の動きに水を差すのではないかとの県民の不安の声も聞こえてきます。私ども県議会は自らの議員報酬を引き下げるなど、茨城県財政健全化を目指してきました。この流れに、今回の予算案の増額修正が、相反しているのではないかという問題です。
 第3に、予算の執行権は知事に一任されています。予算が増額されたとしても、その予算を実際に使うか使わないかは、知事、所管部門の裁量にゆだねられます。したがって、予算を修正しようとするものは、知事を長とする執行部側と事前の議論や協議、意見交換を十分に行うことが不可欠です。しかし、これまでのいばらき自民党の代表質問、一般質問などをみてみると、予算修正案にかかわる、道路や河川補修、動物愛護についての知事をはじめとする執行部への質問は一つもありませんでした。増額修正に対する知事をはじめ執行部の同意や理解はどの程度進んでいるかが問題になります。
 第4に、増額予算の積算根拠です。特に、動物愛護関連予算3,000万円の積算内容はどのような内容になっているか不明です。そもそも政党各会派は、予算編成中に政策提言・要望をとりまとめ、知事執行部に提出します。また、平素から本会議や委員会等で政策の実現を求めています。執行部では、具体的な制度のあり方、市町村や民間との役割分担、人員体制、積算などの詳細を詰めて、予算化をしています。そうして作られた予算案を議会で審議するものであり、こうした検討を経ずに増額修正を行うと、事業の執行に当たって、支障が生じる可能性があるので、よくよく慎重に対処すべきです。特に、動物愛護に関しては、具体的な施策の方向性の提示がなされないまま、予算のみが先行して決められた疑念が払しょくできませんでした。
 この4点について、予算特別委員会の質疑では高崎進県議が、修正予算案の本会議採決では八島功男県議が討論を行って、問題を明確にしました。
 結果、この増額修正案は、県議会全会派の全会一致で成立しました。知事も再議などの対抗措置は取りませんでした。

知事と議会の健全な緊張関係が重要
 こうした一連の審議経過を踏まえて吉田先生は、「今回の増額修正は、茨城県政の課題や知事と議会との関係などを県民に分かりやすく伝える機会になった」と高く評価していただきました。
 その上で、県議会公明党に対しては「増額修正への見解・考え方を、直接、知事に質問したほうが良かったのではないかと思う。予算の編成権、執行権をもつ当事者の考え方を議事録に残すことは重要だった」と指摘しました。また、提案者であるいばらき自民党に対しては「積極的な議員提案や条例制定活動など、いばらき自民党の政務調査会の活動は、全国的にみても進んでいる。素晴らしい活動だ。ただ、この道路補修や動物愛護以外にも、県政の重要課題はあるはずであり、なぜ、今回この予算を増額するのかという説明はやや不足しているのではないか。2億円の増額をした道路・河川の補修事業の財源は県債であり、県債の発行権は知事が有することを考えると、ここは今後議論の余地がある」といったご意見をいただきました。
 また、議会全体に関しては「具体的な事業の骨格が見えていない動物愛護に関しては、6月議会などでその執行部側の対応を質す必要がある」とのアドバイスもいただきました。
 吉田先生との意見交換を通して、県議会公明党ととしても、今回の予算増額修正の議論を「単に知事選を前にした議会の知事に対するさや当てと」のご批判をいただかないように、県議会のあるべき姿を検証する一里塚としていくことを再確認しました。