「テロ等準備罪」法案について 、人権を守り重大犯罪と戦うために「テロ等準備罪」法案が提出され、衆議院での議論を経て参議院での審議が始まりました。 遠山清彦沖縄方面本部長のわかりやすい解説です。国内外から観光客が増加している沖縄を、テロ等の重大犯罪から守るためにも不可欠な法整備と強調しています。

テロ対策強化のため国内法整備が不可欠
 「テロ等準備罪」法案は、TOC条約加盟に必要な国内法整備です。しかし、一部野党は「これはテロ対策の条約ではない」「国内法整備なしに現行法のままで加盟できる」などと批判しています。
 条約とテロ対策が無関係との批判は、日本政府が条約の起草段階で、条約にテロを含むことに反対していたことを主要な根拠にしていました。
 これについて岸田文雄外相は、国際社会ではテロの定義はなく、条約にテロの文言を入れようとすると「今現在も結論が出ていない議論に巻き込まれる。巻き込まれたら大切なTOC条約をまとめることができない」(4月21日・法務委)との判断があったことを説明しました。さらに、条約成立を願うこの前向きな思いは米、英、仏、独、中など多くの国も共有していると強調。「この議論の中で、テロは間違いなく国際的な組織犯罪に含まれるという議論が行われてきた、これはしっかりと確認しておかなければならない」と答弁しました。
 また、岸田外相は「2000年の国連総会でも、テロとの関連においてTOC条約の重要性は指摘され、それ以降も、14年の国連安保理決議においても、テロとの関連においてこの条約締結を推奨すると決議された。毎年のサミットでもこの条約の締結を推奨することが成果文書に明記されてきた。起草段階から今日に至るまで、この条約がテロとの深い関係の中で議論されてきた」と強調しています。
 現行法でも共謀は処罰できるし、犯罪実行前に処罰できる予備罪もあるため、予備罪を拡大をすれば「テロ等準備罪」法案なしに条約加盟ができるとの批判もあります。
 金田勝年法相は「共謀罪、陰謀罪が設けられているのはごく一部の犯罪にすぎない。予備罪は予備行為の処罰であって(条約が求めている)合意を処罰するものではない」「個別に予備罪を設けても条約上の義務を担保することにはならない」(4月21日・法務委)と答弁しました。

人権保障・内心の自由は侵さず。治安維持法とは無縁
 法案は、(1)「組織的犯罪集団」の構成員らが(2)犯罪の「計画」で合意し(3)「準備行為」をした段階で処罰できると定めています。しかし、一部野党は「計画」の合意は内心のあり方であり、内心の処罰に当たると主張。内心の思想を処罰した戦前の治安維持法の現代版だと法案を批判しています。
 内心の処罰になるとの批判に対し政府は、犯罪の「計画」は具体的・現実的であることが必要で、さらに、心の中で考えただけでなく、その意思が表にあらわれない限り処罰できないと説明しました。
 これに関し、参考人として意見を述べた中央大学大学院の井田良教授は「計画行為であれば、組織的犯罪集団の構成員らが一定の重大な犯罪実行について、具体的かつ現実的に相談して決意を固めるというのが内容であり、犯罪的な意思が表にあらわれる」「組織としての犯罪的決意が固まったことが疑いを入れない程度の確実性を持って証拠により証明されなければならない」(4月25日・法務委)と述べ、「計画」を立証するだけでも「相当に高いハードル」と訴えた。
 また、盛山正仁法務副大臣は「テロ等準備罪は犯罪実行の計画行為に加え、実行準備行為が行われて初めてこれらの行為を処罰するもので、内心を処罰するものではないことは明らか」と強調しました。

 治安維持法との批判に対し、参考人として意見を述べた木村圭二郎弁護士は「治安維持法は国体の変革を目的とした結社を処罰し、予防拘禁制や拷問まで行われた悪法。治安維持法の再来と批判するなら、どのような事態が生ずるか主張する必要があるが、具体的な主張はされていないように思う」(5月16日・法務委)と述べました。
 さらに「旧憲法下、戦時体制という時代背景が前提となっている。成熟した民主主義と司法手続き、マスコミ等による監視が行き届いている現在で、治安維持法と同様の事態が生ずる可能性は皆無と考える」と述べました。

監視社会・犯罪集団に関係ない人の捜査はできない
 警察が法案を乱用し、「組織的犯罪集団」だけでなく一般市民まで捜査対象にする監視社会を招くとの批判も繰り返されています。
 また、法案が衆院を通過する直前の18日、国連人権理事会の特別報告者が、法案はプライバシーの権利を制限しかねないとする安倍晋三首相宛ての書簡を公開。これを受け、一部野党は批判を強めました。 国連人権理事会の特別報告者のケナタッチ氏が、公開書簡に「共謀罪」法案への「懸念」を綴ったものです。主張のポイントは「拡大解釈による人権侵害」。具体例の中で、日本の国会で話題になった“キノコ採り”の森林法違反が強調されるなど、日本の野党の論理構成と同一線上にあるものです。そもそも国連を代表する意見ではなく、ケナタッチ氏個人的見解です。このケネタッチ氏に正式な英訳の法案が届いていたかも疑問視されており、介在した法案そのものに反対するNGOや一部弁護士などによって、法案の趣旨が歪められて伝わっているのではないかという疑念も生じています。
 政府は、企業や市民団体でも目的が一変し「組織的犯罪集団」になる可能性はあると答弁した。一部野党は、一変したかどうかは日頃から調べる必要があり、日本を監視社会にすると批判しています。
 安倍首相は「犯罪の嫌疑がなければ捜査が行われないことは他の犯罪捜査と何ら変わらない。犯罪の嫌疑がない正当な活動を行っている団体が捜査対象になることはない」「テロ等準備罪の新設に伴い、新たな捜査手法を導入することも予定していない。従って、捜査機関が常時国民の動静を監視するようになるとの懸念は全く無用」(4月6日・本会議)と述べています。
 林真琴刑事局長は「組織的犯罪集団であること自体が犯罪ではないので、テロ等準備罪の嫌疑が生じていない段階で、ある団体が組織的犯罪集団になるか否か、こういったことが捜査の対象となることはない」(4月14日・法務委)と明言しました。
 国連の特別報告者の書簡について、政府は(1)直接説明する機会を得られず一方的に発出された(2)内容が明らかに不適切―として、5月18日夜に抗議。さらに、書簡への正式回答をする方針も示しました。
 岸田外相は衆院通過後の5月25日、参院の外交防衛委で、法案はTOC条約が定める選択条項を利用し、「計画」だけでなく、「組織的犯罪集団」の関与と「準備行為」を処罰の要件に加えたと強調。「他の締約国と比して厳格な要件を定めた。プライバシーの権利や表現の自由を不当に制約する、あるいは恣意的運用がなされるといった指摘は全く当たらない」と述べました。