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ダイオキシンの毒性は神話か?
一地方議員のダイオキシン問題との関わり

城取清掃工場のダイオキシン問題がキッカケ
030729day_shiro ダイオキシンという言葉と最初に出会ったのは、1994年の秋頃であったと記憶しています。新聞の片隅に京都で開催された「第14回ダイオキシン国際会議」の記事が掲載されていました。「ダイオキシン」、「ダイ」=「死」を連想させる名称に、背筋が寒くなる思いがしました。

 1996年になると、ある雑誌に竜ヶ崎市にある城取清掃工場付近の住民が、次々にガンにより死亡しているという記事が大きく掲載されました。

 38歳で県議会議員として初当選して2年目の事件です。何か容易ならざるものを感じて、現地を何回か視察・調査を繰り返しました。
http://www.jsdi.or.jp/~y_ide/960730dr.htm

030729day_shiro_ide 1998年6月4日、宮田秀明摂南大学教授の論文が、日本環境化学検討会で公表されました。それによると、1996年3月、城取清掃工場の周辺2km内に住む住民60人から血液を採取し、血中のダイオキシン濃度の測定を行った男性13人、女性5人の結果が報告されたものです。これによると、最高で463pg(血液中脂肪1g当たり)、平均値で男性が81pg、女性が149pgにも達しているとの調査報告でした。マスコミは、この論文を大きく伝えました。地元住民の不安の声は否応なく高まりました。「老朽化したゴミ焼却場から排出される多量のダイオキシンや焼却灰や排水に含まれる高濃度のダイオキシンが、ガンの異常発症の原因ではないか」、多くの県民がこのような恐怖感を抱いたのは当然でした。
http://www.jsdi.or.jp/~y_ide/980610dai_miya.htm

 当時、私も様々なダイオキシンを解説した書籍やマスコミの記事を読みあさりました。そのほとんどの記述は、「毒性は青酸カリの1,000倍、サリンの2倍。スプーン一杯で数万人の人を殺せる。発ガン性もあり、人体に取り込まれると容易には排出されない。ものを燃やすときに発生し、特に塩化ビニールを低温で焼却すると多量に排出される。その主な排出源はゴミ焼却場である」というものでした。

030729day_taga こうした論調の中で、城取の清掃工場問題は、茨城県のダイオキシン問題の象徴としてクローズアップされました。

 私は、住民の生命と生活を守る責任ある議員として、「疑わしきは罰する」立場をとるべきだと直感しました。後に「予防原則」という言葉を知りましたが、とにかく、危険性があるものを放置することは許されないと思いました。そして、城取清掃工場の早期操業停止と立て替えを強く主張しました。
http://www.ibarakiken.info/980909ipan.htm

 また、学校や市町村・県などの公共施設での小型焼却炉の使用停止を提案しました。さらに、ダイオキシンの排出基準を明確にし、それを取り締まる法律=ダイオキシン類特別措置法の成立を働きかけました。こうした動きは、茨城県内の環境行政の中で将来的にも評価をしていただけると確信しています。


分析データーのカラクリ?
 しかし、その当時から気がかりなことがありました。それは、城取清掃工場周辺住民の血液中のダイオキシン濃度を公表した宮田教授のデータへの不信でした。宮田教授は住民60人からサンプルを採集しながら、最初に公表したサンプル数がわずか18件しかありませんでした。そしてこの少ないサンプルの中で、最高で463pgと非常に高い血中ダイオキシン濃度を検出したと公表したのです。このデータをもとにマスコミは、平均でも通常の5〜10倍のダイオキシン濃度であると報道しました。

 採取したサンプルの全体値を公開しないで、高い値だけを選りすぐって公表したのではないか?こんな疑問が残りました。その年の9月、宮田教授は残りのサンプルの分析結果16人分を追加して公表しました。案の定、といっては少し失礼ですが、平均値は大幅に下落しました。 (平均値で男性が81pgから70.9pgに、女性が149pgから70.4pgに平均値が下がりました) さらに、これもサンプルの全体の公表には至りませんでした。マスコミの関心が薄れたせいか、最後まで採取されたサンプル全体の検査結果が、公表されたのかどうか、私にはよく分からない状況です。(26人分は結果未公表?)


一気に進んだダイオキシン対策
030729dai_ryu 発表の仕方に若干の疑問が残りましたが、宮田教授の発表は、茨城県や国のダイオキシン対策の導火線となったことは確かです。世論に押される形での、立法措置や焼却炉の改善、新設などに多額の税金が投入されていきました。

 一方、私たちは県民の不安を解消するために、城取清掃工場周辺の住民の健康診断と血液検査を県に要望しました。学術的にも有意なサンプル数を確保すべきだと主張しました。

 こうした動きを受けて、1998年12月に120人の血液検査が実施されました。この調査の結果は、半年近くの時間をかけ慎重に分析されました。また一部は、クロスチェックのために西ドイツの分析機関にも送られ分析を受けました。そして、1999年5月に公表された結果は、「平均値9.7pg、最高値24.0pg」という、それまでの調査されたものの平均値をむしろ下回る分析結果でした。
http://www.jsdi.or.jp/~y_ide/990527dai_28s.html

 焼却工場によるダイオキシン汚染という最悪の事態は杞憂に終わりました。「それまでの騒ぎは何であったのか」ということを公言する人もいましたが、行政としてどうしてもやっておかなくてはならない調査であったと思います。

 県内のゴミ焼却場は、90年代に入って次々と改修されたり、新築されたりしました。その事業費の合計は私の計算によると、1063億円を超えました。(ダイオキシン規制法の影響で新設または、改修された施設だけの合計ではありません。1990年代以降に新設・改修された施設合計です)。その状況は、別項に掲載しましたのでご参照ください。
http://www.jsdi.or.jp/~y_ide/030729dai_sisetu.htm


「ダイオキシン 神話の終焉」の衝撃
030729day_shinwa 2003年になり、私のホームページにいくつかのメールが寄せられるようになりました。私のダイオキシン対策のホームページは、開設が比較的早かったせいか、県議会議員が開いているのがおもしろいせいか、多くの方が訪れていただきました。高校生や大学生の皆さんからは、宿題やレポートの参考にとメールを良く頂いていました。しかし、それらとは全く内容の異なるメールを頂いたのです。

 いわく、「ダイオキシン対策の視点が古すぎる」「あなたのような議員がいるから、あのような無駄な焼却炉がたくさん出来たのだ」「勉強不足のホームページは即刻閉鎖するべきだ」等々、厳しいご意見を頂くようになりました。

 初めのうちは、こうしたメールの意味が良く理解できず、単なる批判中傷のたぐいと勘違いして、そのまま何通かのメールはゴミ箱行きとなりました。

 そのようなやり取りがしばらく続いた後、ある方から一冊の本を紹介されました。「ダイオキシン 神話の終焉(おわり)」という日本評論社の本です。著者は工学博士の渡辺正先生と農学博士の林俊郎先生。内容は、著作権の侵害にならない程度に別項で要約しましたので、ご参考になさってください。

 この「神話の終焉」を読み、正直言って驚きました。今まで疑問に思っていたことが一度に氷解した思いになり、事実を正確に受け止めることの難しさを痛感しました。と同時に、このインパクトの強い本によって、日本の環境行政が後戻りしないか不安にもなりました。

 「神話の終焉」では、ダイオキシンが「史上最悪の猛毒物質」「塩素系プラスチックの焼却から発生」「発がん性がある」などといわれていることに対して、実際にはそのようなことがないことを説明しています。

 また、90年代後半の「ダイオキシン騒ぎ」をリードした人たちが、データを故意に操作した事実を具体的に指摘しています。

030730dai_sessyu さらに、ダイオキシンの発生源は、実は焼却炉ではなく、70年代末まで使われた農薬に含まれていた高密度のダイオキシンであり、それが未だに残留していると説明します。したがって、一部の研究者やマスコミ、市民団体の煽動によって作られた「ダイオキシン措置法」は全くの悪法である、と一刀両断のもとに切り捨てました。

 読み進んでいくうちに、私たち地方議員が進めてきたダイオキシン対策は、もしかしたら大きな失敗だったのか、とも思えるくらいの説得力がある本でした。事実を誇張したグラフの提示や数値の活用など、専門家でない私たちはどのように見極めていけばいいのか、このような本がなぜ当時でなかったのか逆に疑問にさえ感じました。

 宮本教授の城取清掃工場の血液分析結果が、未だに全部出されていないのも、こうした数値のトリックの延長線かとさえ思えるようになりました。

【参考】この原稿を整理するのに当たって、ダイオキシン問題をインターネットで再検索しました。その中で、「新潮45」1998年12月号に掲載された中西準子横浜国立大学教授の論文「環境ホルモン空騒ぎ」に遭遇しました。98年当時にこうした主張がなされていたことに、全く気がつかなかった不勉強を大いに反省させられました。是非ご一読ください。
http://homepage3.nifty.com/junko-nakanishi/45draft.html


「ダイオキシン 神話の終焉」への疑問
 一読して大きなショックを得た「神話の終焉」なのですが、要約を作成するために二度三度と精読してみると、少し気がかりなことも出てきました。

 それは、急性毒に対する説明には多くのページを費やしていますが、慢性毒に対する記述があまりにも少ないということです。

 6月6日付けの毎日新聞「記者の目」・小島正美記者の記事によると、「ダイオキシンで問題なのは急性毒性ではない。生殖への影響、脳神経系への影響、免疫系への影響(アレルギー疾患)などの慢性毒性である。99年にダイオキシン類対策特別措置法が成立した背景には、慢性毒性の知見を基に国際的に規制してゆく動きがあった」「米国やオランダなどの動物実験や人の疫学調査によると、通常の人の体内に存在するダイオキシンの10倍前後の少量でも、脳神経系や生殖への影響があるとの報告が出ている。国立環境研究所のラットやマウスで行った最新の研究でも、知能の発達などにかかわる甲状腺の働きが阻害されることが分かった。このの本にはこうした慢性毒性に関する最新情報がほとんどない」「焼却炉からの排出量を削減する動きは、EUや米国など先進国共通で日本だけの話ではない。排出基準値もほぼ同じだ」「水俣病など過去の教訓から、被害が出てからでは遅い。動物実験や疫学調査の知見にもっと謙虚になってもよいのではないか」と掲載されています。まさに真っ当な主張です。

 こういう知見がある以上、現時点で具体的な被害が出ていなくても、しっかりとした対策を立てることは行政の義務だと思います。1999年にダイオキシン措置法が成立した背景には、慢性毒性の知見を基に、国際的に規制してゆく動きがあったことも無視できません。将来におけるダイオキシン被害を未然に止めるために、立法措置が執られ、焼却施設整備に税金が投下されても、それは子孫への投資として許させるのではないでしょうか。

 また、ダイオキシンの摂取源は、確かに「神話の終焉」が指摘するように、約95%が食べ物からです。その95%の8割前後が魚介類からの摂取。これは農薬やPCB製品など、過去に発生したダイオキシンの多くが、自然界で濃縮され、魚介類に多く残留しているためです。

 しかし、このことをもって、ダイオキシン対策に焼却炉の改良や新設が要らないという理由にはなりません。農薬やPCB製品は、今後外界に排出されることはないと思います。(あってはならないという方が適切かもしれません。)これ以上ダイオキシンの排出を止めるためには、焼却炉からの排出をストップさせなくてはならないのは自明の理です。ダイオキシンの9割近くは焼却炉から排出され、残りは車の排ガスや工場などからです。焼却炉によるダイオキシンが、食べ物から摂取する量に比べて圧倒的に少ないとはいえ、焼却炉の規制が不要と言えません。焼却炉からの排出量を削減する動きは、EUや米国などでも行われています。その排出基準値も、日本のそれとほぼ同じです。焼却炉規制を中心とする「ダイオキシン措置法」を悪法として総括するのはいかがなものでしょうか。


結論に変えて:ダイオキシン対策は未来の地球への責任
980610dai_bunsi ダイオキシンという目に見えない強敵に対して、私たちは専門家といわれる人たちの言葉を信じて、対策を行っていかなくてはなりません。しかし、その専門家の見解も時間と共に研究が進むと変わってくるでしょうし、その立場によって意見も異なってくるかもしれません。一方的な見解だけではなく、より多くの情報を吟味しながら今後のダイオキシン対策を進めていく必要がある、これが唯一の結論かも知れません。

 専門家と我々住民との間を埋めてくれるマスコミの皆さんも、冷静で公平な報道が是非とも必要です。

 毎日新聞の岡山支局長高田茂弘さんは、岡山県版に掲載された「支局長からの手紙」に以下のように記しています。「人のことは言えない。私も大阪地方部デスクだった99年前後、各地のゴミ問題取材を担当・統括しており、当時出ていた20冊ほどの各種文献を踏まえて記事をまとめていました。しかし、いま思えばおかしなデータに左右されていた可能性がある。「ダイオキシン騒ぎ」が「科学スキャンダル」めいたものかも知れないとすれば、それに加担していた恐れすらあります。蛇足を言えば、社会問題の打開は「各論」が基本。抽象的な「総論」を前提にし、総論を具体的な各論に当てはめようとすると時に妙な結果を招きます。「終焉」を読み、「ダイオキシン=悪」を前提にして始まった論議の無理に当方、ようやく気付いたのかもしれません。もちろん、この本だけでは一方的です。ここはぜひとも「終焉」に対する反論を聞きたい(読みたい)ものだと考えています。私も探してみるつもりです」と自戒も込めて当時を振り返っています。

 様々な経緯を経て進んできたダイオキシン対策。この10年余りの政治や行政の舵取りに結論が下されるまでには、もう少し時間が掛かりそうです。でも、「転ばぬ先の杖」、ダイオキシン措置法とそれによるダイオキシン対策は、絶対に無駄にはならない、私はこう確信する一人です。




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