980610dai_top

「神話の終焉」の著者から3つの指摘
渡辺正先生から直接メールをいただきました。

 私のHPの記事「ダイオキシンの毒性は神話か?」(http://www.jsdi.or.jp/~y_ide/030729dai_top.htm)を読んでいただき、「ダイオキシン 神話の終焉」の著者のお一人である渡辺正東京大学生産技術研究所教授より、直接メールを頂戴しました。私のような素人にまで、大変ご丁寧なメールをいただき恐縮するばかりでした。
 渡辺先生は、「このような本(ダイオキシン神話の終焉)がなぜ当時でなかったのか」、「慢性毒に対する記述があまりにも少ない」、「現時点で具体的な被害が出ていなくても、しっかりとした対策を立てることは行政の義務」との私のHPの記述に沿って、ご自身のご見解を述べられています。
 このページでは、渡辺先生のご了解をいただいた上で、メールの主要部分を公開させていただきます。
 なお、私は、現時点で渡辺先生のご見解を、全て納得しているわけではありません。特に、2点目、3点目については、もう少し専門家の中での議論の集約を待つべきだと思っています。読者の皆さまの更なるご批判・ご意見をよろしくお願いいたします。

このような本がなぜ当時でなかったのか?
渡辺先生の見解: 
 まず、「このような本がなぜ当時でなかったのか‥‥疑問にさえ感じました」とお書きです。少なくとも私どもの場合、「ダイオキシン法」のできた1999年ごろは、騒ぎに大きな違和感を覚えながらも、納得できるデータ・知見がなかったせいで、確信をもって発言できなかった、というのが真相です。2000年あたりから、環境試料の膨大な分析結果や、ヒト摂取量の経年変化データ(国内外)、摂取源の大部分はかつての農薬の不純物だろうとする結果(益永・中西グループ)などが出てきて、違和感が具体的な数字で裏づけられたのはようやく2001年ごろのことでした。「今さら何を言うか‥‥」というふうに非難する方もいますけれど、「狂乱時代」にはまだ真実が見えなかったのです。

慢性毒に対する記述があまりにも少ないのでは?
渡辺先生の見解:
 次に、「慢性毒に対する記述があまりにも少ない」とお書きです。某NGOの方々や、毎日の小島記者などもそう指摘されましたが、だいぶ誤解があるようですので、ご説明申し上げます。
 ご承知のとおり、「慢性毒性」の件は拙著の第3章で扱いました。慢性毒性につきましては「ヒト体内量」がほぼ唯一の論点ですから、その点は類書にないレベルまで踏み込み、今後は 3〜4ng/kg だと考えればよいことを明らかにしたつもりです。
 それをもとに、何か懸念すべき疾患などがあるとすれば、それは以下4点のすべてを満たすものだということになります。

全身平均のヒト体内濃度が数 ng / kg レベルで発症する疾患であること(小島記者は「通常の人の体内に存在するダイオキシンの10倍程度の少量でも、‥‥」と書きましたが、体内量が通常の10倍にもなる場面は、よほど異様な食生活を想定しないかぎり、ありえません)。
動物実験の結果なら,ヒトに当てはめてよい根拠があること。
過去30年間に(体内濃度も摂取量も減ってきたため)発症率が順調に下がってきている疾患であること。
エストロゲン作用による疾患ではないこと(下記[補足]参照)。

 要するに、上記4条件に当てはまる「慢性毒性」の症例が何ひとつ見つからないため、各論的なことを書きようはなかったわけです。
 小島記者にはこうした点につき6月6日付で当方からの質問状をお送りしました。しかし以後2ヶ月、何ひとつお答えは頂戴しておりません。

[補足]慢性毒性のうちエストロゲン(女性ホルモン)作用は、少なくとも日本人の場合(摂取量とエストロゲン活性を考えると、大豆のゲニステインの数十分の1から数百分の1と見積もれるため)、まったく問題にならないし、ゲニステインが健康にプラス効果を持つなら(そう語る間接証拠はたくさんあります)、ダイオキシンは「そのプラス効果を少し増やしている」ことになります。本件につきましては、拙著と同じシリーズで7月に出た『環境ホルモン――人心を「攪乱」した物質』をお読みください。

現時点で具体的な被害が出ていなくても、しっかりとした対策を立てることは行政の義務
渡辺先生の見解:
 貴HPには「現時点で具体的な被害が出ていなくても、‥‥」とお書きです。これも拙著を批判される方々の常套句ですけれど、摂取量と体内量が快調に減っているわけですから、これから何かが出る可能性は「ますますありえない」と考えるべきではないでしょうか?
 また、「EU や米国などではこうやっている‥‥」といった発言もしばしば聞こえてきますが、海外の動向にとらわれず、日本国としてきちんと優先順位を考え、税金の無駄づかいを抑えるべきだろうと考えています。

渡辺 正(わたなべ・ただし):東京大学教授 工学博士 生産技術研究所・第4部 計測技術開発センター長
(渡辺先生のインタビュー記事を掲載したHPにリンク):リンク切れ
『環境ホルモン――人心を「攪乱」した物質』<日本評論社・西川洋三著>




このページは、茨城県議会井手よしひろの公式ホームページのアーカイブ(記録保管庫)の一部です。すでに最終更新から10年以上経過しており、現在の社会状況などと内容が一致しない場合があるかもしれません。その点をご了解下さい。