従軍慰安婦の記述削除の請願に関する反対討論

茨城県議会議員 井手よしひろ


 私は、1956年生まれ、今年で41歳になりました。

 むろん私の中学時代の教科書には、従軍慰安婦等の記述はなく、授業でも全く教わりませんでした。

 私が、「従軍慰安婦」との言葉に接したのは、27歳の時でした。その事実を、大正15年生まれの父に問いただしました。父は、初めてその事実を語ってくれました。

 一般に、戦争体験の苦しかったこと、つらかったことは、親から子へ伝えられます。

 しかし、その影の歴史、加害者としての歴史は、伝えられることは難しいと思われます。

 21世紀に平和な世界を築くためにも、歴史の事実を教科書や、授業の中で伝えて行かねばなりません。

 そうした意味で、教科書の従軍慰安婦の削除には、断固反対いたします。

 更に、今回提出されております二つの請願は、それぞれ事実の錯誤または、憲法や教育基本法の精神から言っても重大な過ちがあると思われますので、指摘したいと思います。

 まず第一に、「平成9年第5号」の請願について、各委員のお手元に参考資料として、現在茨城県で使用されております日本文教出版社と東京書籍の「従軍慰安婦」の記述部分のコピーをお配りしてありますので、ご覧いただきたいと思います。

 日本文教出版の記述は、「慰安婦として戦場の軍に随行せられた女性もいた」

 同じく東京出版の記述は、「従軍慰安婦として強制的に戦場に送り出された若い女性も多数いた」

 となっています。請願の理由の第1項目でいう、「強制連行」といった表現は全く見られません。その他5社の教科書も同様であります。

 したがって、「強制連行」の事実云々が削除の理由になっているこの請願は、教科書の記述内容をも認識せずして提出された、請願であり、採択には値しないと考えます。

 次に、「平成9年第5号」の請願については、その結論が文部省ないし、教科書発行会社に要望書を提出せよとの請願であります。

 しかし、文部省はともかく、県を民意を集約する議会が、民間企業または民間人である教科書発行会社に要望書を提出することが許されるでしょうか。

 茨城県の県政史上、未だかって民間企業に対して、議会が要望書を送った事例はありません。さらに、その民間企業が憲法にて、その権利が保障された出版社であるという事実の重みを認識する必要があります。

 教科書の「従軍慰安婦」記述の是非を議会の多数決によって決定することは、教育・教科書への「不当な支配・介入」であり、学問・教育・出版・言論・思想の自由を侵す行為であり、憲法・教育基本法の理念に反する重大な誤りだと思います。

 以上のような理由から、この請願を採択することには反対いたします。




このページは、茨城県議会井手よしひろの公式ホームページのアーカイブ(記録保管庫)の一部です。すでに最終更新から10年以上経過しており、現在の社会状況などと内容が一致しない場合があるかもしれません。その点をご了解下さい。