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 7月6日、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が大枠合意に達しました。日本とEUを合わせた経済規模は世界全体の国内総生産(GDP)の3割を占め、巨大経済圏が誕生します。このEPAは関税撤廃や投資ルールの整備を通して貿易・投資の活性化を促すもので、2019年中の発効をめざしています。公明党は、日欧EPAを「日本の成長戦略の重要な柱」と位置付ける一方、国内の農家が安心して生産を続けられる万全な対策の確立に取り組んでいます。

EU品目99%関税撤廃/工業製品輸出拡大の好機
 日欧EPAの大枠合意は、公共工事に一段と門戸を開く「政府調達」や「投資」など20以上の分野に及びます。そのうち、最も注目されるのは、関税撤廃・引き下げです。関税撤廃は、EU向け全品目の約99%、日本の輸入品目でも90%を超えます。
 とりわけ、日本とEU双方の貿易に重要な位置を占める工業製品については、相互に全ての関税を段階的に撤廃することで合意しました。日本は、対EUの年間輸出額(約8兆円)の約7割超を工業製品が占めていることから、日本企業にとっては輸出拡大のチャンスが広がります。
 具体的には、EUが日本製自動車に課す関税(10%)を発効から7年間かけて段階的に引き下げ、8年目に撤廃します。主要な自動車部品の関税(2.7〜4.5%)では、91.5%の品目についてEUが関税を即時撤廃することで合意し、環太平洋連携協定(TPP)を上回る自由化を実現する。輸出額ベースでは92.1%の即時関税撤廃となり、TPPをも上回ります。
 日本の対EU輸出の主力品目である一般機械、化学工業製品、電気機器でも大半の品目で関税を即時撤廃。交渉が終盤まで難航したテレビ(14%)は6年目に撤廃します。
 一方、日本がEUから輸入する工業製品に課している関税は発効時点で無税の割合が現在の77.3から96.2%に上昇します。皮革・履物の関税(最高30%)は、品目ごとに11年目または16年目に撤廃します。

 大枠合意について、世耕弘成経済産業相は6日夜、「EU市場における競争条件は大幅に改善され、日本の産業界の期待に十分応えるものだ」との談話を発表した。 また、日本自動車工業会の西川広人会長は、「EU市場における公平な競争環境が確保されることを大いに歓迎する」とのコメントを出しました。
 日欧EPAは、世界人口の1割、世界のGDPの約3割、貿易の4割を占めます。これは、TPPと並ぶ巨大な経済圏となります。安倍晋三首相は6日の記者会見で「米国が離脱したTPPにも良い影響を与える。早期発効に向けた議論を促すと強く期待している」と語りました。

ワインとチーズのイメージ
家計に恩恵 チーズ、ワイン値下げ
 品質が高くブランド力のある欧州産農産物・加工食品についても、日本は大幅な関税撤廃・引き下げに踏み切ります。
 輸入においては、欧州産のワインやチーズ、パスタなどの店頭価格は安くなる見通しで、家計に恩恵をもたらします。輸出については、EUは日本酒に課す関税(100リットル当たり7.7ユーロ)や緑茶の関税(最大3.2%)を即時撤廃。日本からEUへの輸出が多い冷凍ホタテの関税(8%)も発効から8年目にゼロになります。これにより、欧州での和食ブームを追い風に、日本の農産物や食品の輸出拡大も期待されます。
 一方、日本の農産物と海外産品との競争が激しくなることから、今後は国内生産者への対策が焦点になります。
 今回の大枠合意で、最大の焦点だったチーズは、低関税輸入枠を設けた上で適用する関税を段階的に引き下げ、16年目に撤廃することになりました。
 ワインは日本とEU双方が関税を即時撤廃することで決着しました。ワインの関税(15%または1リットル当たり125円のどちらか安い方)は、発効と同時に即時撤廃します。
 EUは日本産ワインへの関税を撤廃するとともに、ワインに含まれる「補糖」の量を制限している規制を緩和。発効後は、日本の製法で造られたワインを「ワイン」として認めることになります。
 乳製品では、日本で需要が増えているモッツァレラやカマンベールなどのソフトチーズ(関税29.8%)を中心に2万トン(製品ベース)の低関税輸入枠を設けます。発効から16年目に関税をゼロにするとともに、枠を3.1万トンに拡大します。
 豚肉については、低価格品ほど関税を重くする「差額関税制度」を維持。低価格帯(1キロ当たり482円)は10年かけて50円まで段階的に引き下げます。牛肉の関税(38.5%)は16年目に9%まで削減すします。
 木材では、構造用集成材の関税(3.9%)を段階的に削減し、8年目に撤廃します。チョコレート菓子(10%)やキャンディー(25%)は、11年目に関税をゼロにします 。

投資保護ルール策定へ
 日欧EPAでは関税以外の分野でも合意を見ました。電子商取引にかかる関税賦課の禁止、税関手続きの簡素化など、EU加盟国と投資保護のルールを定めます。また、農産品や酒類のブランドを守るため、著名な産地名を知的財産に指定する「地理的表示(GI)」の保護も強化されました。公共事業の入札規制を緩和する「政府調達」では、都道府県や政令指定都市が設立する地方独立行政法人などに対象を拡大します。

公明/国内対策に万全期す/農業の重要品目を支える
 日欧EPAを日本経済の成長をけん引する柱の一つとして重視する公明党は、6月に党政務調査会に日本EU・EPA対策本部を設置。政府の対応を促してきました。
 交渉が大詰めを迎える中、同対策本部は6月22日に、全国農業協同組合中央会(JA全中)など農林・食品関連6団体からの要望を聴取。これらの要望を踏まえ、対策本部は28日、外務省へ交渉に関する申し入れを行い、輸出拡大の条件整備、牛・豚肉、乳製品など重要品目の再生産を可能にする対策実施、国民への情報提供などを求めています。
 大枠合意を受けて7日に行われた同対策本部の会合で、石田祝稔政務調査会長は「国内の農林水産業の再生産が引き続き可能となる万全な対策が必要」と強調。具体的な国内対策を速やかに検討していく考えを示していました。
 日欧EPA交渉は大枠合意に達しましたが、一部の課題は積み残されました。例えば、国境をまたいだ投資をめぐる企業と国家の紛争解決策は、日・EU間で溝が埋まらず、妥結を今後の協議に持ち越しました。年内の最終合意をめざした詰めの交渉が続けられます。
 全体の交渉が終結し、協定文を署名した後は、日本の国会や欧州議会の承認が必要となります。ユンケル欧州委員長はEPAの発効時期について、「2019年早期」をめざすとの考えを示しました。
 
■【経済連携協定(EPA)】 Economic Partnership Agreementの略。二つ以上の国・地域との間で貿易や投資を促進するため、農産物や工業製品などの輸入にかかる関税を撤廃・削減するだけでなく、知的財産の保護や投資環境の整備といったルールを定める包括的な協定。日本は、2002年に発効した日シンガポールEPA以降、これまでに15カ国・地域でEPAを締結・発効しています。