九州北部豪雨
 土砂災害などで福岡、大分両県に甚大な被害をもたらした九州北部豪雨の発生とその被害拡大のメカニズムについて、気象庁気象研究所で集中豪雨を研究する津口裕茂研究官の話し(7月15日付の公明新聞掲載)と日本地すべり学会の落合博貴会長との話し(7月17日掲載)をもとにまとめました。

『線状降水帯』繰り返し雨もたらす、全国どこでも起こり得る現象
 九州北部で発生した局地的な豪雨は、いくつもの積乱雲がほぼ同じ地点で連続して発生し、繰り返し強い雨を降らせ続ける「線状降水帯」によるものと考えられる。地面に近い高度1キロ以下の大気下層で、積乱雲の源となる暖かく湿った空気が山口県付近に停滞する梅雨前線に向かって東シナ海からの南西風で流れ込み、北西からの比較的冷たい空気と合流したことで上昇気流が生じ、脊振山地の辺りで活発に積乱雲が発生、発達していた。
 さらに、九州地方は、梅雨前線の近くで大気中に多くの水蒸気が含まれていた。上空の気温が平年値よりも約3度も低くなっていた点も、より積乱雲が発達しやすい状況をつくり出す要因となった。こうした状況は、条件が整えば、日本全国どこでも起こり得る気象現象として注意していかなくてはならない。
 2012年の九州北部豪雨や、14年に広島市で犠牲者77人(災害関連死を含む)の土砂災害をもたらした豪雨、15年の関東・東北豪雨は記憶にも新しい。
 いずれも線状降水帯が確認された豪雨災害だ。想定をはるかに超える降水量で、低い土地や家屋に浸水したのをはじめ、河川の氾濫・決壊や土砂崩れなどにより甚大な被害が発生した。
 線状降水帯は、長さ100キロ程度、幅数十キロにわたって形成される。非常に狭い範囲に3時間で200ミリ以上の降水量が集中することもあり、その地域が許容できる限界値を超え、周辺一帯にも被害を及ぼす災害へとなっていく。気象庁では、スーパーコンピューターによる大気の流れをシミュレーションした「数値予報モデル」に基づき、豪雨発生などの予測を立て、豪雨が発生する可能性のある地域に大雨警報などの情報発信に努めている。
 現在、九州北部の被災地をはじめ、全国的にも局地的に猛烈な雨が降る不安定な気候が続いている。日本全体としても、平年よりも上空の気温が低い地点が見受けられる。太平洋からの暖かく湿った空気が流れ込むことで、今後も9月ごろにかけて、各地で集中豪雨が頻発する可能性が大いにある。
 台風の接近もあり、いつ起きてもおかしくない豪雨への備えを喚起していきたい。
気象庁:新用語解説【線状降水帯】http://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2016/2016_09_0011.pdf

線状降水帯
参考:平成27年9月関東・東北豪雨被害と"線状降水帯"
(NHK備える防災「台風による大雨は台風中心付近で起こるとは限らない」市澤成介・元気象庁予報課長の記事より)
 平成27年9月9日朝、知多半島に上陸した台風第18号は、勢力を次第に弱めながら東海・北陸地方を北上して日本海に進み、15時には温帯低気圧へ変わりました。この台風の北上に伴い、南から水蒸気を大量に含んだ空気が帯状となって関東・東北地方に流入し、台風が温帯低気圧に変わってからも1日以上停滞したため、一部地域では記録的な大雨となり、栃木県、茨城県、宮城県には大雨特別警報が発表されました。
 台風が東海地方に上陸した9日9時から3時間刻みで、関東地方の降水域の変化を見てみましょう。9日昼頃までの降水域(図1a、1b)は、台風の中心に向かって南東方向から北西方向に伸びる降水域が中心ですが、その後は南から北へと向きを変え、帯状となって関東地方の中央部を南北に伸びて停滞しました(図1c〜1h)。帯状の降水域が停滞したのは、台風から変わった低気圧の動きが遅かったことと、東の高気圧の勢力が強く、降水域が東に移動するのを遮ったためです。細かく見ると、帯状の降水域の中には、さらに細い線状に強い所(線状降水帯)がいくつか見られます。3時間刻みのため、それぞれの線状降水帯の動きは読み取れませんが、これがかかった地域には、発達した積乱雲が列を成して次々と流入するため、より激しい雨が続いたのです。
 台風第18号による大雨域の中心に当たった今市(栃木県日光市瀬川)での雨の降り方を、台風の中心の位置との関係で見ると、台風が最接近した時より、日本海に進んでからの方が激しい雨が続いたことが分かります。この時、総雨量は600mmを超えましたが、このうち台風が日本海に進んで温帯低気圧に変わった後に500mm近い大雨が降ったのです。この記録的な大雨によって、この地域を流れる鬼怒川が異常に増水し、下流の茨城県常総市では堤防決壊や越水が発生し、大規模な洪水被害をもたらしました。