太田前国交大臣の現地調査
 前の国土交通大臣・太田昭宏衆議院議員の「政治コラム 太田の政界ぶちかまし NO.109」より、九州北部豪雨の教訓について述べられた箇所を引用します。太田前大臣は、「ハード対策は必要であり、効果があるということだ」「国も住民も防災意識の改革が必要」と訴えています。
 
 九州北部の福岡県朝倉市、東峰村、大分県日田市などで甚大な被害を生じさせた集中豪雨が「平成29年7月九州北部豪雨」と命名された。
 今回の豪雨では、国交省の日田雨量観測所で6時間雨量が299mmを観測し、5年前の九州北部豪雨での6時間163mmを遙かに超える雨量となるなど、短時間に記録的な雨量となった。気象庁は、被害の特に大きかった地域で猛烈に発達した積乱雲が長期間流入する「線状降水帯」によるものと解析している。「線状降水帯」による豪雨被害は、三年前の広島の土砂災害、二年前の鬼怒川の水害など記憶に新しい。温暖化の影響とも考えられるが、雨の降り方が局地化・集中化・激甚化しており、今後も全国各地で十分警戒していく必要がある。
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 今回の災害の特徴はまず、中小河川での災害であるということだ。昨年の岩手県岩泉町の小本川の氾濫と同じだ。突然、急激に増水して氾濫する。避難勧告や避難指示は市町村長が出すが、この判断は急な増水であるだけにきわめて難しい。もう1つは、山地での災害ということだ。多くの山地で表層崩壊が発生し、これにともなって大量の土砂や流木が被害を拡大させている。多くの土砂、流木が復旧、復興をより困難なものとしている。今後は、土砂への対策、流木への対策を加えていく必要がある。
 また、中小河川は県管理となり、災害復旧は現実には県だけでは難しい。今回は、この災害復旧を国が権限代行で実施することが決定された。今年の通常国会で改正された河川法に基づく措置であり、迅速な対応である。
 筑後川水系の花月川では、5年前の九州北部豪雨で甚大な被害を生じ、再度災害防止のために集中的に投資する河川激特事業が実施されたばかりである。対策を実施したにもかかわらず、再び予想を超える豪雨に見舞われて、大災害となった訳だが、5年前よりは被害家屋数は3割減少させているので、整備自体の効果はあったことがわかる。
 また同じ筑後川水系で水資源機構が管理している佐田川の寺内ダムでは、管理開始以降最大の流入量毎秒880トンを観測したが、そのほとんどをダムに貯めた。これにより、3m以上もの河川の洪水位を低下させ、下流の佐田川の氾濫被害を防いだ。また、大量の流木をダム貯水池にて捕捉することで、下流の流木被害も防止した。施設整備の効果が発揮された良い事例である。ハード対策は必要であり、効果があるということだ。今後もハード対策の安全度を向上させつつ、ソフト対策の住民避難もあわせて行っていく必要がある。

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 災害対策には意識改革が必要だ。私は国交大臣時代の2015年6月、「タイムライン」の考え方を導入、まず荒川下流タイムラインを実施した。これは、台風上陸の3日前、2日前、24時間前、12時間前等といった時系列で、地方自治体や交通機関、電力、通信、学校や企業や福祉施設などがどう動くか、とるべき防災行動をあらかじめ取り決めておくものだ。2012年10月にハリケーン・サンディがニューヨークを襲った際に、事前に地下鉄を止めるなど、被害軽減に大きな効果を発揮した。これがタイムラインだ。対策を練り上げるとともに、これが策定されていれば市町村長が避難指示を出す重圧を軽減することにもなる。この2年で、大きな河川はかなり進んできたが、まだ簡易タイムラインも多く、中小河川に至ってはこれから策定となる。今、挑戦を始めており、今後の大きな課題だ。
 意識改革という点では、一昨年の鬼怒川の氾濫被害を踏まえて策定した「水防災意識社会再構築ビジョン」をさらに進めていくことが重要である。これは、ハードとソフト双方からの防災対策だが、とくに住民目線でのソフト対策を今後、充実させようとしたものだ。気象庁、河川管理者からの情報提供が適切であったか、市町村長の避難勧告、避難指示はどうだったか、住民の避難は円滑にできたのか、などの検証を行い、改善策を総合的に進めていく必要がある。
 今回のような豪雨は、日本中どこで起こってもおかしくない状況になっている。国、地方公共団体、住民、企業など、全ての人々が、防災を我がことと考えられる、災害に強い国民となることが望まれる。タイムラインでも、河川ごとのタイムラインも必要だが、時系列に従って自分はどう動くか、マイタイムラインをつくっておくこともこれからの課題だ。国も社会も個人も防災意識を一段階上げることだ。そのなかで国は、そのリーダーシップをとって、ハード、ソフトの施策を総動員して、全力で防災対策にあたることが、ますます重要になっている。