日本メーカーのEV車
 「脱石油燃料車」が世界的な潮流となりつつあります。地球温暖化など環境への配慮を理由として、石油製品を燃料とするガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する動きが欧州で相次いでいるのです。 アメリカ・カリフォルニア州でエコカーの販売を義務づける「ZEV規制」。ことし秋以降に発売するモデルからエコカーの対象が狭まり、日本メーカーが得意としてきたハイブリッド車の優遇がなくなります。
 また、EU(ヨーロッパ連合)では、2021年から排ガスに含まれる二酸化炭素の量を大幅に削減することが求められます。従来のガソリンエンジン車やハイブリッド車では、基準をクリアすることが困難なレベルです。さらに、世界最大の自動車市場、中国も電気自動車に大幅に有利な排ガス規制が、早ければ来年にも導入される見込みです。
 いずれの規制も、日本でエコカーの代名詞となってきた“ハイブリッド車外し”に他なりません。
 一方、ディーゼルエンジンをエコカーの主力としてきたドイツメーカー。最大手のフォルクスワーゲンが排ガスの処理で不正なソフトを取り扱っていたことが明らかになり、エンジン開発への投資が一気に縮小しています。
 こうした動きの先にあるものは何か。それは、世界の自動車市場の主役が石油燃料車から電気自動車(EV)に交代するということです。実際、ドイツの大手自動車メーカーは、全車種にEVを用意すると公表しています。英仏独が国を挙げて脱石油燃料車に向けた手を打ち始める中、低燃費の石油燃料車で世界をリードしてきた日本も対応を急ぐ必要があります。
 幸い、EVに使われるリチウムイオン電池については、世界市場で日本企業が優勢です。今後は、電池の小型化や大容量化、充電速度のアップ、耐久性の向上などが課題とみられており、研究開発への支援に政府もより注力すべきです。
 電力需要の増加にも手だてが必要です。日本の全ての乗用車がEVに切り替わった場合、電力消費量は単純計算で1割増えるとの試算があります。
 この点、再生可能エネルギーの普及を加速させなくてはなりません。欧州環境庁の研究によると、EVの充電を石炭火力発電だけで賄えば、ガソリン車などよりも多くの二酸化炭素を排出することになります。
 世界の動きを注視しながら、環境、経済の両面で国際的な競争力を高める戦略が日本には求められます。

 日本の自動車産業も大きな変革が迫られます。自動車メーカーを頂点に、関連の企業が幾重にもピラミッド型に連なり、500万人もの雇用を抱えています。その中心はエンジンです。エンジン周辺の複雑な金属加工など、高度なすりあわせの技術が求められる関連の産業は、日本の自動車の競争力の源泉でした。このため、大手自動車メーカーの狙いは、急激なEVシフトではなく、エンジンを併用するハイブリッド車を柱とする緩やかなシフトでした。
 しかし、それを許さない各国の規制が、日本の自動車産業の形態を大きく変えようとしています。エンジン本体や関連の部品に依存しすぎた会社は、他社との合併やほかの事業への投資など大幅な変化を強いられ、長期的には事業転換をする必要がでてきます。
 エンジンからEVにシフトするとどのような変化起きるのでしょうか。具体的にどれだけの部品点数が減るのかを知ることで、エンジン部品メーカーの危惧を推し量ることが出来ます。ガソリン車の部品点数は全部で10万点ほどあり、その内エンジンを構成する部品は1万〜3万点にもなります。それに対し、EVに搭載するモーターの部品点数は30〜40点ほどで、インバーターの部品点数を加えてもわずか100点ほどにしかなりません。 部品点数の大幅減は必至となっており、金額にして見ると1台当り50万円以上の部品がなくなることになり、日本部品工業会によると1年間で3兆円規模の売り上げを失うことになります。
 また、車がエンジン車からEVへ移り変わると、産業構造が一変します。EVはガソリン車と比べると構造が単純であり、新規参入障壁が比較的低いため、多くの新興メーカーが登場すると言われています。自動車メーカーのみならず家電メーカーやハウスメーカーなども、自動車メーカーになる可能性を秘めています。
 新型車の投入で電気自動車のシェア拡大を目指す日産。モーター開発で日立製作所と提携したホンダ。そして、デンソーやアイシン精機などの系列を含めたEV戦略を練り始めたトヨタ。各社は矢継ぎ早に対策を打ち始めていますが、想定以上に“EVシフト”は加速しています。
 貿易摩擦や円高など幾度もの“外圧”を乗り越え、競争力を維持し続けた日本の自動車産業。来たるべき電気自動車時代にも世界で勝ち続けることができるのか、今、大きな岐路に立っています。