「ジャパンSDGsアワード」の第1回表彰式
 平成29年12月26日、国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けて優れた取り組みを表彰する「ジャパンSDGsアワード」の第1回表彰式が首相官邸で行われました。初の総理大臣賞には、北海道下川町に贈られました。
 表彰式には、安倍晋三首相、岡本三成外務大臣政務官らのほか、外務省がSDGs推進大使を委嘱する歌手のピコ太郎さんが出席。グテーレス国連事務総長からもメッセージが寄せられました。
 「ジャパンSDGsアワード」は、6月のSDGs推進本部会合で創設が決まり、全国の団体・企業から282件の応募がありました。総理大臣賞を受賞した下川町は、森林資源を生かした町づくりを進め、過疎化に歯止めをかけたことが評価されました。
 受賞式を終え、公明党の岡本政務官は、「受賞団体や企業の取り組みをロールモデル(模範)にしてSDGsを波及させたい」と語りました。
 これに先立ち首相官邸で行われた政府のSDGs推進本部の会合では、来年の行動計画「SDGsアクションプラン2018」を決定しました。
 SDGsは、「誰一人取り残さない」持続可能な世界の実現をめざし、貧困や飢餓の根絶、環境保全など17項目からなる2030年までの国際目標です。一昨年9月の国連サミットで採択されました。公明党は、一作年1月に政党では初めて党内に推進委員会を設置するなど、目標達成へ力を入れています。
一の橋地区の集住化エリア
第一回ジャパンSDGsアワードの総理大臣賞に輝いた北海道下川町
 第一回ジャパンSDGsアワードの総理大臣賞に輝いた北海道の下川町は、旭川から車で1時間。東京23区ほどの広さの土地に、3400人町民が暮らします。高齢化が進み、高齢化率は40%を超えます。
 そんな高齢化の進む過疎の下川町ですが、2016年の「50歳から住みたい地方ランキング」で全国1位に選ばれています。(宝島社『田舎暮らしの本』/2万人以下の町部門)。
 そして町の人口は、2012年以降は転出者より転入者が上回るほど移住者が増え、いわゆる社会増となっています。
 下川町は森林資源を生かしたまちづくりを、長年かけて地道に取り組んできたのです。その上で、下川町は、子育てや高齢者に優しいまちづくり、移住者を受け入れやすい待ちづくりを行ってきました。
 下川町は、町の9割を森林が占めています。近隣の自治体に比べても林業が盛んで、現在も8社、9工場が製材、加工を手がけています。農林業関係者は、およそ3400人いる町民の1割を越え、雇用の受け皿になっています。
 町の森林利用法にの特長は"木材のカスケード利用"です。"カスケード"とは連なる小さな滝のことを表します。原料を一度使用して終わりにするのではなく、形や価値が変わってもそれに合わせて何段階も利用することから"カスケード利用"と表現しています。建築材に使えない木材は、これまでは廃棄されていましたが、それを別の形に変え、一本の木を余すところなく徹底的に活用しようという考え方です。
 森林資源をエネルギーとして使う、いわゆる「木質バイオマス利用」についても盛んに行われています。現在、全国的にはバイオマスによる「発電」が主流ですが、下川町では「熱利用」が積極的に行われています。
 森林整備の現場では機械化、それも高性能の林業機械が活躍しています。かつて下川町の林業は厳しい冬は仕事ができませんでしたが、こうした林業機械の導入などによって労働環境が改善された今では、雪の中でも問題なく作業が進めらるようになりました。下川町では、林業に携わる人の数が減っていません。現場作業員の大部分は、林業で働くことを希望して移住してきた人たちなのです。
 しかし、いくら質の良い材木(カラマツ)が作られたとしても、価格面では安い外材に敵わず、建築用材としてだけでは需要が限られてしまいます。そこで、町や事業者はさまざまな試行錯誤を行って、付加価値の高い商品を開発しました。下川町の森林組合では、木を円柱に加工し、山の階段や公園用の土木資材にしたり、炭に加工して住宅の床下に敷き、消臭や調湿に活かしています。炭にする際に出る木酢液に木材を浸すことで、建築材を防腐処理する技術も開発しました。
 また、森の手入れで伐った木の葉っぱは、今までは捨てられていましたが、有効活用するために葉を蒸留してエッセンシャルオイルをつくり、オイル、石けん、化粧品などとして販売する事業も行っています。
 "カスケード利用"の最後が、捨てられていた未利用材まで使い切る、バイオマスのエネルギー利用です。まずは未利用材を薄いチップに加工し、町内に11基あるバイオマスボイラーへと運びます。チップが、灯油の替わりに暖房や給湯をまかなう燃料となるのです。平成28年末現在、下川町の公共施設30カ所に熱を供給し、熱需要の60%を自給しています。
 バイオマス燃料を利用したことによって、町は年間で1800万円の灯油代を削減しました。浮いた費用は半分をボイラーのメンテナンス費として積み立て、残りの半分を子育て支援に回しています。子育て支援の内訳は、中学生までの医療費を無料にしたり、保育料や給食費を支援するなどです。地域のエネルギーを地域で使ってコストカットをするだけではなく、削減した分を地域に還元していることになります。
 設備の初期投資も含めれば、まだバイオマス事業だけで採算がとれているわけではありません。しかし、下川町は地域外からエネルギーを買う量を減らし、エネルギーを自給自足し、地域に雇用を生む環境を作り上げました。
 一の橋地区の集住化エリアでは、バイオマスで暖房を供給しています。この地区は、下川の中心街から10キロほど離れた集落で、1960年には林業にかかわる人を中心に2000人以上が住んでいました。しかし、林業の衰退により住民は134名に減少、50%以上が高齢者となってしまいました。
 下川町は、この地区をエネルギー自給型の高齢化社会のモデル地区にしようと「一の橋地区バイオビレッジ構想」をかかげ、2013年に集合住宅エリアをつくりました。
 まずは老朽化していた町営住宅を建て替え、集住化地区をつくります。22戸ある集合住宅は、断熱性能の高いエコハウスです。そこにバイオマスボイラーで暖房や給湯を供給し、安全で安心な生活基盤を整え、さらに余った熱を使って、しいたけの菌床栽培を行う事で雇用も生み出しています。
 また、地域の高齢者は、下川の市街地まで車を運転して買い物に行くのが困難なので、地域おこし協力隊のメンバーが買い物支援のワゴン車を出したり、高齢者の見守り支援をしています。ここでは、バイオマスの取り組みがエネルギー利用だけではなく、町の雇用創出や高齢化対策とも結びついているのです。
 こうした取り組みのきっかけは、2011年に町が「環境未来都市宣言」を掲げて具体的なビジョンを示したところからです。今回この下川町の挑戦は、ジャパンSDGsアワードとして高い評価を得ました。
(下川町の資料は“ウェブマガジンgreenz.jp:マイナス30度でも移住者が増加中。北海道下川町の、森とともに生きていくまちづくりの秘密”https://greenz.jp/2017/03/03/shimokawa/、下川町のHPhttps://www.town.shimokawa.hokkaido.jp/などを参照しました)