医師とタブレット
 パソコンやスマートフォン(スマホ)などから情報通信技術(ICT)を使って医師が離れた場所から患者を診察する「遠隔診療」(オンライン診療)。普及に向けて今年4月の診療報酬改定で初めて報酬が設定され、高齢者の在宅医療や仕事が忙しく通院時間が取れない患者への広がりが期待されています。
 例えば、遠隔診療を促すため、同じ医師が半年以上診療した患者に対し、モニター画面を通じ診察、指導した場合に「オンライン診療料」(1カ月当たり700円)が新たに認められました。
 本格導入に先駆け実施してきた福岡市の現場を、5月15日付けの公明新聞記事より紹介します。

■医師がビデオ電話で診察/高齢者の在宅医療に効果/先行実施した福岡市
 「こんにちは。体の調子は変わりないですか」。福岡市東区にある在宅療養支援診察所「たろうクリニック」で内田直樹院長が、パソコンのビデオ電話機能を使って画面に映る患者に話し掛ける。これは、日頃、行われている遠隔診療の一コマです。
 福岡市は昨年(2017年)4月から、市医師会や東京の医療法人社団鉄祐会などと連携し、遠隔診療の実証実験に取り組んできました。実験には「たろうクリニック」を含む市内の21医療機関が参加しました。
 遠隔診療は、初診は原則として対面診療で、まず医師と患者で診療計画を作成します。その後、毎日、患者は自身のバイタルサイン(血圧、脈拍、体温など)をスマホの専用ソフトに記録。そして、あらかじめ予約していた日時に、パソコンの画面越しにバイタル測定の結果などをもとに医師が診察を行います。
 たろうクリニックでは、毎日3、4人の医師が認知症の高齢者や、がん患者宅を訪ね、診察している。1年間で3人の患者に遠隔診療を実施してきた内田院長は、「訪問診療の場合、診察より移動時間の方が長いこともある。遠隔診療を取り入れることで医師の負担も減る上、質の高いケアの提供も可能になる」と語ります。
 一方、患者側の利点も大きい。福岡市東区に住む一戸裕子さんは同居する80代の父親が悪性腫瘍となり、昨年7月末から亡くなるまで同クリニックの遠隔診療を利用しました。一戸さんは当時を振り返り、「容体が急変してもビデオ電話で医師にすぐ伝えられるので、安心感があった。通院の負担が減ったことも大きかった」と話します。
 また、鉄祐会の武藤真祐理事長は、「仕事が忙しい患者の治療中断による生活習慣病などの重症化を防ぐこともできる」と語っています。
 福岡市によると、在宅医療が必要な市内の患者数は、2013年は8724人だったが、25年には2.5倍の2万1679人にまで増えると見込んでいます。このため市保健福祉局政策推進部の中村卓也部長は、「在宅医療分野での遠隔診療の需要はさらに高まるはずだ」と指摘する。市は今後、本格普及に向けて環境整備を進める方針です。

■「対面」を補完する役割/対象は慢性疾患の患者ら/厚労省
 遠隔診療はこれまで、対面診療が難しい離島やへき地の患者などに限り、認められてきました。しかし、ICTの発達により診察が容易になったことなどを踏まえ、2015年8月に厚生労働省は一般診療でも認める方針を示しました。今回の報酬改定で健康保険の適用対象となったことで、多くの医療機関で普及が期待されています。
 厚労省は今年3月、遠隔診療の実施に当たっての医師向けのガイドラインを策定しています。それによれば、(1)遠隔診療は医師の都合ではなく、患者の求めに応じて実施(2)対象は糖尿病など生活習慣病をはじめ、てんかん、認知症など継続して治療が必要な慢性疾患の患者(3)初診は対面診療、その後は遠隔診療と組み合わせる(4)がんや難病など在宅医療の患者も対象(5)十分な情報セキュリティー対策を講じる――ことなどが決められました。
 厚労省保険局医療課の小塩真史課長補佐は、「遠隔診療はあくまでも対面診療を補完する役割。医師と患者の理解と納得を得た上での取り組みが重要だ」と指摘します。

■公明も強力に推進
 公明党はこれまで、遠隔診療の導入を訴えてきた。その結果、15年に政府が決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)には、「医療資源を効果的・効率的に活用するための遠隔医療の推進」が盛り込まれました。同年の「規制改革実施計画」にも、遠隔診療は対面診療と適切に組み合わせて行うべきとした「遠隔診療の取り扱いの明確化」が明記されるなど、公明党の主張が反映されています。
 また、党ICT利活用推進委員会が中心となり、医療・介護の分野でのICTの活用を推進してきました。