新たな安全協定の調印式
全国の原発周辺自治体が注目する『茨城方式』
 日本原子力発電の東海第2原子力発電所は、再稼働に向けた原子力規制委員会の安全審査が近く正式合格となる見通しです。しかし、茨城県や東海村などの地元自治体が、その是非を判断するに至るまでには、まだかなりの時間がかかる見込みです。
 今年3月、原電と東海村を含む日立市、常陸太田市、那珂市、ひたちなか市、水戸市の6市村が東海第2原発の再稼働にかかわる新たな協定を締結しました。従来、再稼働には立地自治体の東海村と茨城県の同意だけでよかったのですが、新協定では、東海村に隣接する4市と県庁所在地の水戸市の計5市にも広げた画期的な協定です。他の原発立地地域にはない、茨城だけの仕組みです。この独自の取り組みは「茨城方式」と呼ばれ、全国の関係自治体から注目を浴びています。
 福島第1原発の事故をみても、原発事故の影響は広範囲に及びます。再稼働などの前提となる地元了解を得る対象を、立地市町村だけでなく周辺自治体まで広げた茨城方式は、ある意味では当然すぎる結論ともいえます。
 新協定では、原電が東海第2原発の再稼働を求めた場合、東海村を含む6市村は原電と事前協議の場を設けて議論します。当然、「6市村のうち、1つでも納得しなければ再稼働しない」ということであり、「6市村は事前了解権を持った」という表現より、私は「6市村は再稼働への拒否権を持った」と表現するのが正しいと考えています。
 原電側も、「納得いただけるまでとことん協議させていただく」と表明しており、すべての自治体が納得するまで再稼働は行わないと理解すべきです。
東海第2原発  東海第2原発の再稼働の是非を考える際、その安全性以外にも2つの視点が重要だと考えています。
 まず、第一に地域経済への影響です。再稼働した場合、原発立地自治体に交付される電源立地地域対策交付金や固定資産税など財政面の歳入に加え、原発関連企業の経営や雇用などにもプラス効果が見込めます。
 一方で「再稼働と廃炉とでは、その経済効果に大差はない」という指摘もあります。
 東海村には2016年度、国から約21億円の電源立地地域対策交付金が交付されました。村は保健センターでの健診や予防接種、村立保育園・幼稚園・小中学校、地域の住民交流施設などの維持運営などに充て、村民の医療・福祉や教育の充実を図っています。
 地域産業への影響をみても、再稼働が原発関連企業の経営や雇用に追い風となることは明らかです。
 茨城は日本で最初に商業用原子力の灯がともった原子力の平和利用揺籃の地です。原子力研究の関連施設も多く、地域経済が活性化する側面を確かにあります。逆に、廃炉になると間接的な影響として、原子力関連の研究者が育ちにくい機運が生まれてしまう可能性もあります。
 ここで、原発が東海村の財政状況にどのような効果を及ぼしているかを見てみたいと思います。2016年度の歳入は約217億円で、このうち固定資産税は約84億円と4割弱を占めています。約1割の電源立地地域対策交付金を大きく上回ります。東海第2原発の固定資産税がどの程度、村の財政に寄与しているかは明らかにされていません。しかし、固定資産税が、東海原発、東海第2原発が運転開始した翌年にかけて大きく増加していることから推測するとおり、稼働当初の影響は大きかったとみられます。
 しかし、現状の東海村状況は大きく変わっています。ひたちなか港に新たに稼働した東京電力系のフュエル&パワーの常陸那珂火力発電所の稼働によって、東海村の固定資産税額が大きく増えています。1号機が稼働した2003〜04年にかけては約49億円、2号機が運転を始めた2013〜14年は約21億円増加しました。
 東海第2原発を廃炉にした場合でも、仮に、隣接する日立港に東京ガスが建設を検討している新たなガス火力発電所を誘致できれば、原発に匹敵する電力を確保できるとともに、固定資産税面でも、廃炉にかかわる財政のマイナス効果を補うものと推測されます。
 つまり、東海第2原発の存在は、地元経済に必要不可欠なものではなくなっていると認識すべきだと思います。

 東海第2原発はこの11月28日、1978年の運転開始から40年の節目を迎えます。日本原電は最長20年間の運転延長を原子力規制委員会に申請しています。
 しかし、仮に原発事故への実効性ある避難計画がまとまり、茨城県ならびに地元6自治体の再稼働承認が認められても、20年後の2038年には東海第2原発は無条件で廃炉を迫られます。
 今後の東海地区の発展を考えた場合に、原子力発電からの脱皮を真剣に模索しなければなりません。県が進めるJ−PARC、BNCT、さらに水素エネルギーなどの新たな科学分野の研究開発拠点として、この地を生まれ変わらせていく必要性を強く感じます。原発が立地する地域というイメージは、もはやプラスのイメージで好感を持たれるとは思いません。
 その意味では、東海第2原発は再稼働させずに、東海地区を「原子力発電から卒業した地域」という新たなイメージで再生させていくべきと考えます。
 今後、どのような視点で、原子力と向き合うのか。茨城県は目先の利益にとらわれず、人口減少や産業構造の変化など長期的な視点を見据えた地域づくりを求められているのです。