毎日新聞2018年7月14日
 記録的な豪雨に猛暑、迷走台風と、この夏の日本列島は異常な天候に見舞われました。8月10日、専門家でつくる気象庁の異常気象分析検討会は、7月の西日本豪雨と「災害級」とされた猛暑を受けて臨時会を開き、梅雨明けが早かったことや台風12号の西進なども含めて、「異常気象の連鎖だ」との見解を示しました。
 東京大先端科学技術研究センターの中村尚検討会長は記者会見で、気候変動や地球温暖化の状況から、この猛暑や豪雨について「今後も起こりうる。備えはますます必要になる」と注意を呼びかけました。
 9月1日の防災の日を前に、防災の3つのキーワード「地区防災計画」「ハザードマップ」「タイムライン」について確認したいと思います。 

【地区防災計画】 
 東日本大震災では行政の防災計画(公助)に、個人や家庭での備え(自助)と地域のコミュニティーにおける自発的な防災活動(共助)をかみ合わせる重要性が指摘されました。2013年に改正された災害対策基本法では、共助による防災活動推進の観点から「地区防災計画」制度が盛り込まれています。
 地区防災計画は、町会や自治会、企業などが実情に応じた防災活動の計画を立て、市区町村の地域防災計画の一部として提案されました。「災害時に、誰が、何を、どれだけ、どのようにすべきか」を作成することで、地域の防災意識と防災力の向上をめざしており、今後の普及が注目されています。
 地域防災計画は、都道府県や市区町村の首長が、それぞれの防災会議に諮り、防災のために必要な行政の対応を定めた計画のことです。わが市、わが町の防災体制は万全か。住民が力を合わせて自主防災組織や地区防災計画まで、きめ細かく再確認しなければなりません。
 例えば、東京都の地域防災計画は、震災編や風水害編、火山編などに分かれています。このうち震災編は、20年の東京五輪・パラリンピックに向け、19年夏ごろまでに修正されます。16年の熊本地震や、今年6月の大阪府北部地震の教訓などを生かすとともに、外国人旅行者や女性、障がい者らに配慮した防災対策も新たに盛り込む方向で検討されています。

【ハザードマップ】
 大規模な洪水や土砂災害が広範囲で起き、多くの犠牲者を出した西日本豪雨で、改めて見直されているのがハザードマップ(被害予測地図)の重要性です。
 ハザードマップは、地形や地質などから洪水や土砂災害のほか、地震、津波、噴火などの自然災害を予測し、警戒すべき区域や避難ルートなどを明示。住民は居住地の危険度を認識し、備えを進めておくことが可能です。
 甚大な被害が出た岡山県倉敷市真備町地区の浸水地域は、市が作成した洪水・土砂災害ハザードマップの想定とほぼ重なっていました。専門家は「改めて重要性を認識し、災害時には一人一人が当事者意識を持って行動を取る必要がある」と指摘しています。
 一方、広島県福山市では、ハザードマップで指定していなかった農業用ため池が決壊し、死者が出るなどの被害が発生。既存のマップを再点検する必要性も浮き彫りになりました。
 ハザードマップの作成・周知は2005年に義務化されて以降、各自治体で取り組みが進みました。各自治体は地域の特性に応じたマップを作成し、住民に配布したりインターネット上に掲載したりして周知しています。土砂災害では、土石流や崖崩れの危険性が高い場所も記載されています。
 課題は、その存在を知っている住民が少ないことです。知ったとしても、実際に災害が起きない時間が長くなると、危機意識が薄れてしまうという問題もあり、早急な対応が急がれます。

【タイムライン】
 台風や豪雨による大規模水害に備えるため、自治体などが事前に取るべき対応を時系列でまとめたタイムラインの導入が各地で広がっています。
 タイムラインは、台風などあらかじめ予測できる災害に対して、行政や自治会などが、「いつ、誰が、何をするか」を整理しておく仕組みです。2012年に米国を襲ったハリケーンでは被害を軽減したことで注目され、日本でも各自治体が作るようになりました。
 国土交通省によると、15年の関東・東北豪雨の際、氾濫危険水位を超えた河川沿いで避難勧告や指示を出した市町村は、タイムラインを策定したところで72%だったのに対し、未策定では33%にとどまりました。
 国交省は「タイムラインがあれば首長が判断に迷うことがなく、被害の最小化に有効」と話しています。
 西日本豪雨では想定を超える雨量に見舞われ、タイムラインがうまく機能しなかった例も見られました。このため、国交省は「関係機関による検証をしながら運用の改善が必要」と指摘しています。
 また、住んでいる場所や家族構成、年齢などによって災害対策が異なることから、自らの行動計画を時系列で定めておく「マイ・タイムライン」を作る動きも出始めています。
 茨城県常総市では、関東・東北豪雨で鬼怒川下流部の堤防が決壊し、多くの住民が逃げ遅れた反省を踏まえ、全国で初めて自治体として作成を推進。小学校や地域で作成会を開くなど、全市民への普及をめざしています。