札幌市清田区
 9月6日に発生し、最大震度7を観測した北海道胆振東部地震。震度5強の揺れに見舞われた札幌市清田区では、激しい振動で地盤が液体のようになって脆弱化し、大量の土砂・地下水の噴出や、地面が大きく隆起するなど液状化による甚大な被害が出ました。復旧を急ぐ同区や隣接する北広島市の現状を、公明新聞9月30日付の記事と9月17日に井手よしひろ県議が現地で撮影した写真をもとにまとめました。また、2011年3月の東日本大震災で、大規模な液状化被害が発生した茨城県潮来市日の出地区の復興の状況も紹介します。

地質調査などは完了、再建への具体策を早急に:札幌市清田区
 「住み慣れた家に早く戻りたいのに、先の見通しが全く立たなくて……」
 震度5強を観測し、大規模な液状化被害が発生した清田区里塚に住む鈴木静香さんは、苦しい胸の内を語ってくれました。自宅の2階建てアパートは「全壊」の判定を受け、現在は同じ里塚地区でも被害がなかった実母の家に、夫と娘と共に身を寄せています。

札幌市清田区の液状化被害
 経験の無い強い揺れで飛び起きた鈴木さんは、とっさに娘の綾香さんに覆いかぶさりました。「ベッドから起き上がると、もう家が傾いているのが分かった」と言います。暗闇の中、ペンライトを片手に夫の秀一さんと、すぐに玄関に向かいましたが、ドアが開きません。近隣の協力も得て、やっと自宅から脱出。傾いた道路を歩き、実家までたどり着いたと振り返ります。その後、家の傾きは日ごとに増し、地面には大きな亀裂。目の前の現実に呆然としました。
 札幌市によると、清田区の住宅被害は16日現在で、全壊40、半壊45、一部損壊685。札幌市は13日、住民説明会を開き、支援策を決めるには3カ月程度かかるとの見通しを示しました。仮の下水道管の敷設工事や、液状化した土地の地質調査などは23日までには完了しましたが、鈴木さんは「10月下旬には雪が降り始めるので、早く具体的な支援策を出してほしい」と焦りの色を浮かべます。
 一方、里塚地区の自宅が全半壊した近藤脩さんは地震発生以来、妻と共に清田区の体育館での避難生活を余儀なくされ、疲労はピークです。 「自宅は断水が続くが、復旧するまで頑張りたい」と語っています。
 間もなく長い雪の季節が訪れる被災地。住民の生活再建への具体策が強く求められます。

札幌市清田区の液状化被害
「気持ちの整理つかない」:北広島市大曲地区
 北広島市の大曲並木地区でも、激しい揺れで地盤が液状化し、建物が陥没したり、基礎がむき出しになるなど被害は深刻です。
 秋元健吾さんは自宅が全壊し、妻の芳子さん、ペットの犬と共に市の体育館に避難しています。「30年以上住んできた家が一瞬で崩れて、気持ちの整理がつかない」と話します。
 芳子さんは避難生活に足りない物を補充するため、毎日自宅に戻るものの、「傾きの影響で1時間も家にいると吐き気がして……」と表情を曇らせます。仮設住宅の目星は付いたと言いますが、「先のことを考えると気が重くなります。でも、後ろを向いても仕方がないので、前を向いていきたい」と力を込めました。

東日本大震災での液状化被害
【東日本大震災から7年】潮来・日の出液状化対策、やっと地下水位低下し安定
 2011年3月11日、大規模な液状化の被害に見舞われた潮来市日の出地区は復旧・復興の工事が進み、地盤強化のための地下水排水作業も、今年2月に目標に到達しました。東日本大震災の液状化被災地で、地域全体の工事が一定の成果を見たのは、全国でも日の出地区だけではなないでしょうか。
 日の出地区は大震災の激しい揺れで、道路は波打つように損壊し、電柱や信号は傾き、あちこちで泥水があふれました。地区内約2500世帯の多くが被災した。広範囲に液状化に見舞われ、インフラの復旧が急ピッチで進められました。
 復興に至るまでには多くの、関門がありました。まずは、液状化被害に対応する住宅の被害認定の基準見直しから行わなくてはなりませんでした。住宅の傾きなどで全壊、大規模半壊、半壊などを認定するわけですが、液状化によって地盤が沈下したにもかかわらず、被害判定が低くくでるケースが多発しました。そこで、液状化した地盤にかかわる被害認定の合理化を目的とした特例措置が実施されました。その後、平成2013年6月に「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」の中に、正式に位置付けられました。
 そして、具体的な液状化した地盤の復旧法も様々な議論を経て、まとめることができました。個人の土地に公的な税金を投入して地盤を回復させることは、被災者生活再建支援法の枠組み以外には法的根拠がありません。地盤災害の復旧には、特別な助成制度なども講じられますが、あくまでも自己負担が残ります。そこで、潮来市は道路(市道)部分から地下水を吸い上げて、土壌を固めるという手法を採用しました。
 この「地下水位低下工法」による国内初の大規模工事が行われ、広さ約200ヘクタールの地下3メートルに、総延長約46キロに及ぶ排水管が敷設されました。2016年4月からは、隣接地に新たに設置した十番排水ポンプ場などで、地盤を強化するための地下水排出作業が段階的に行われてきました。作業は慎重に進められ、今年2月、宅地部や道路部の水位を地下3メートルまで下げ、安定化が完了しました。地下水排出による地盤沈下は最大で2センチといい、「直ちに家屋等に影響を与える値ではない」と市建設部は説明しています。
http://www.nakanihon.co.jp/img/tech/suii_andou.pdf

■以前よりきれいに/復興元年の新たな取り組み
 「7年でここまで復興すると思っていなかった。市はよくやってくれた。強い地盤になっていることを期待したい」と日の出地区代表区長の小岩井英行さんは、地元紙・茨城茨城新聞のインタビューに答えています。
 日の出地区は、震災の傷跡がほとんど見られなくなったものの、現状に至るまでには住民の苦労は大変なものがありました。工事期間中は土ぼこりが舞い、騒音が続きました。住宅そのもの再建には、被災者生活再建支援法の最大350万円までの支援しか受けられていません。大きな経済的負担も背負っています。
 日の出地区は、北浦から広がる内浪逆浦を干拓し、半世紀前の鹿島開発に合わせて整備されたニュータウンです。震災後に離れた人多くいましたが、液状化対策事業が進み、再びまちには新築の住宅やアパートが目立つようになりました。電線の地中化や街頭のLED化も着々と進んでいます。
 「今、住民からの要望は、震災とは関係のないものが多くなった。まちも住民も以前よりも明るい。もっといろいろな人が安心して暮らせるまちにしたい」と小岩井さんは語ります。地元住民は、今年を「復興元年」と位置付け、30周年を迎える地区の神幸祭と合わせた復興祭も企画しています。

宅地整備の計画は進まず/千葉・浦安市

 一方、同じように大きな液状化被害に見舞われた浦安市では、既に道路や水道、ガスなどの公共設備はほぼ復旧していまが、民間宅地の対策は困難を極め、現在も市の事業計画が進んでいるのは対象16地区のうち、わずか1地区にとどまっています。
 対策事業では、セメント系の固化剤で地中壁を造成し、格子状に住宅を囲むことで地盤の液状化を抑制する工事を行います。浦安市によると効果は実証されているものの、住宅が建設された後からの工事は前例がありません。
 構造上、街区一体で整備するため、各住民の同意が必要です。しかし、費用負担の大きさなどから調整は難航し、工事にこぎ着けたのは3地区のみでした。それも、埋設物の影響や住民の翻意によって2地区が計画の中止や再調整に追い込まれています。

リスクは全国どこでも。対岸の火事ではない
地盤ネット総合研究所取締役 理学博士 横山芳春氏

 札幌市清田区は4万年ほど前の火山噴火で、台地に火山灰などがたまった地盤からなるエリアです。そこに人が住み、谷あいの水田だった地域を盛り土で埋めた造成地であり、被害地域の昔の地図を見ると、谷だった場所と一致しています。
 今回の清田区のケースは、東日本大震災や熊本地震で液状化が埋立地や平地で起きた事例とは違います。また、千葉県浦安市のように、辺り一帯が液状化したわけでもなく、局所的に激しい被害に見舞われ、家の下の地盤自体が流出しているという点も異なります。
 液状化は、(1)緩い砂の地盤(2)豊富な地下水(3)強い地震の発生――の条件がそろうと起きやすくなります。清田区では、盛り土造成地で1968年と2003年に、十勝沖地震で液状化被害が起きましたが、教訓は生かされませんでした。
 全国的に見ても、首都圏なら川崎市や横浜市、多摩地域は盛り土をした地域が非常に多く、全国でも地盤リスクを抱えている場所が無数にあるのが現実で、対岸の火事ではないのです。
 住む土地を最終的に判断するのは住民ですが、行政や土地・住宅売買の業者は、情報公開を可能な限り進めてほしい。住民も受け身ではなく、最低限、ハザードマップを確認し、土地選びや家を建てる時は、利便性のみならず地盤リスクを考慮してほしいと思います。