埠頭工場を視察する茨城県議会公明党議員団
 1月25日、日立製作所は、主に国内向けに手がけていた風力発電機の生産について海外メーカーなどの競争が激しく、今後も収益の拡大は期待できないとして中止する方針を明らかにしました。風力発電装置を製造している日立市内の埠頭工場は閉鎖される見込みです。
 日立製作所は再生可能エネルギーが注目を集める中、平成24年には、富士重工業(現SUBARU)から風力発電機事業を買収、主に陸上に設置する出力2000kWと、洋上向けの5000kWの2種類の風力発電機を開発・生産しています。地面から吹き上がる風を効率よく受けて回る「ダウンウインド型」と呼ぶ独自技術に強みを持ち、山の多い日本の地形に向いているため、新規設置の国内シェア(台数ベース)は、平成27年度に約4割を占めるなど、業界内でも一定の評価を得ていました。写真は、平成25年1月、日立港内に埠頭工場を視察した公明党茨城県議団です。
日立製の風力発電装置
 自然エネルギー分野に対して、日立製作所は昨年6月に発表した事業戦略で、再生可能エネルギー関連事業の売上高を2021年度に2018年度見込みの5倍にあたる4000億円に引き上げる計画を掲げたました。その主力に据えたのが、風力事業です。風力事業だけで2500億円の売り上げ増を狙いましたが、今回の戦略転換を受けてこれらの目標数値は引き下げる方向で見直しています。
 ただ日本市場は、世界に比べて圧倒的に規模が小さく、2017年に世界で稼働を始めた風力発電所の出力は計5250万kWだったのに対し、日本はたったの16万2000kW。18年も19万2000kWにとどまっています。こうした小さな市場の中では、自社で発電機を開発・生産するメリットは出づらいと判断しました。
 イギリスでの原子力発電所計画を凍結したばかりの日立製作所にとって、風力事業は今後もエネルギー事業の主軸に置かざるを得ません。国内の風力発電機市場は今後の成長が期待できる分野ではあります。昨年11月には洋上風力発電の普及を後押しする新法が成立し、今年4月に施行されます。海域の利用に明確なルールを定めることで、今後、導入機運が高まるとの期待があります。
 日立も洋上風力の市場拡大を見据え、大型の5000kW型を開発。福島県沖などで実証試験に取り組んできました。2018年には台湾で大型の洋上風力発電所向けの発電機を初めて受注。この計画では21基を納入する契約です。
 一定の成果を挙げたものの、低収益であれば、見切りをつける。今回の日立のその決断で浮かび上がるのは、発電機そのものは外部から調達し、自らはサービスで稼ぐ戦略に他なりません。
 日立は今後、独エネルコンの風力発電機の国内販売を手掛ける子会社の日立パワーソリューションズ(日立PS、茨城県日立市)を活用しながら、引き続き風力事業の拡大を目指す方針です。日立PSは風力発電機の設置候補地の風の状況の調査から、設置、運転管理まで一貫して請け負うソリューションビジネスにも定評があります。これまでは日立製作所本体も自社製風力発電機を納入した顧客に対し、同様のサービスを手掛けていましたが、今後は日立PSと機能を統合することでコスト削減を進める方針です。
 日立は昨年末にスイス重電大手のABBから送配電システム事業を約7000億円で買収することも決めています。単品の製造メーカーからシステムやサービスで稼ぐ事業モデルへ。日立製作所のエネルギー事業の再構築が加速しています。
(写真2枚目は、日立製の風力発電機が林立するウィンド・パワーかみす第1洋上風力発電所)