警察通告の児童虐待件数
 2月7日、親などから虐待を受けた疑いがあるとして、全国の警察が昨年に児童相談所(児相)に通告した18歳未満の子どもの数は、警察庁のまとめによると8万104人に上り過去最高となったことが判明した。前年より22.4%増え、統計がある2004年から14年連続で増え続け、初めて8万人を超えました。
 警察が虐待の疑いを把握するのは、泣き声や怒鳴り声を聞くなどした周辺住民からの通報がきっかけとなることが多いといわれます。警察庁は「児童虐待に対する社会の関心が高まったことで、警察への通報や相談が増え、通告が増えた」とみています。
 虐待の内容でみると、言葉による脅しや無視など子どもの心を傷つける「心理的虐待」が5万7326人(前年比23.4%増)で、全体の約7割を占めました。暴行などの「身体的虐待」は1万4821人(20.1%増)、食事を与えないなどの「育児放棄」(ネグレクト)が7699人(20.3%増)、性的虐待も258人(2.8%増)に上りました。
 事件として親などを摘発(逮捕・書類送検)した件数は、無理心中や出産直後の殺人を含めて1355件(19.1%増)で過去最多。約8割を身体的虐待が占めた一方、心理的虐待は明らかなけががないため事件化が難しく、摘発数の2.5%にとどまっています。
(イラストグラフは山坂貞男さんの作成によるものです)
国は「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」を策定
 こうした事態を重く見た政府は、昨年(2018年)に「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」(新プラン)を策定しました。
 このプランは、19年度から22年度までに集中して対策を進め、地域全体で子どもを守り、子育て家庭を支える体制を強化するものです。大きな柱として、社会福祉士や医師などの専門職員が子育てに悩む保護者らの相談に応じ、地域の実情を調査・把握する「子ども家庭総合支援拠点」を22年度までに全市町村に設置。虐待の危険性がある子どもたちの実態を把握した上で、児相や警察、医療機関などと連携して支援に当たることにしています。
 虐待に対応する専門職員が足りないといわれています。22年度までに、児相で相談などに当たる児童福祉司(17年度3240人)を約2020人増やします。加えて、心に傷を負った子どものカウンセリングなどを専門的に行う児童心理司(1360人)を約790人、保健師(同140人)を約70人、それぞれ増員する目標を掲げています。3職種合わせて3000人近く増え、約7620人体制となる計算です。
 子どもの心身を保護する体制も強化する。一時保護所の個室化を進め、里親など一時保護の委託先も各地で確保します。

茨城県児童虐待防止条例を制定、児童相談所と警察との連携強化などを規定
 茨城県では、昨年11月の県議会で「茨城県児童虐待防止条例」を議員提案で制定しました。その中では、県、保護者、県民、市町村、関係機関等の責務や役割を規定するとともに、相互の連携協力について規定しました。
 具体的には三つの視点により、県の実施する施策や関係者の取り組みを促しています。
 一つ目は、虐待の予防・早期発見・早期対応です。子どもを虐待から守るためには、虐待を未然に防止するとともに、発生時には、早期に発見し、早期に対応することが重要です。そのため、子育て支援や、通告・相談をしやすい環境整備、通告等を受けた場合の迅速な安全確認の実施等について規定しました。さらに、情報共有の強化のため、児童相談所が把握した全ての児童虐待事案の警察への情報提供や、支援をしている家庭の転出・転入等の場合における適切な引継ぎの実施について規定しています。
 二つ目は、子どもへの支援や、保護者が孤立しない社会づくりです。虐待を受けた子どもの成長を支援するとともに、保護者を孤立させない社会づくりを推進することも重要です。そのため、虐待を受けた子どもに対する援助や、社会的養護、自立支援の充実について規定するとともに、虐待を行った保護者が再び虐待を行わないよう必要な支援を実施することや、地域における活動の推進等を規定しました。
 三つ目は、児童相談所の体制強化や、県・市町村等の人材育成です。虐待相談対応件数の増加が続き、複雑・困難な事案も増える中、現在の組織・人員体制ではすべての事案に迅速かつ的確に対応することが難しくなってきており、児童相談所の設置数や職員数の大幅な増所・増員を真剣に検討していくべきです。また、専門知識等を持ち、虐待に対応できる人材の育成・確保も重要です。そのため、国の基準を超える人数の児童福祉司の配置をはじめ、児童相談所の体制の強化に努める旨規定するとともに、人材の専門性の向上を図るための研修の機会の確保や、地域で虐待防止に関する活動を行う団体等の育成・確保等を規定しました。そのほか、県は、必要な財政上の措置を講ずる旨の規定を設けました。