スマートモデューロの設置の模様
 「防災・家バンク」という言葉をご存知でしょうか?
 内閣府の試算によると、首都直下型地震が発生した場合、約24万戸から61万戸の住宅が全壊します。南海トラフ巨大地震の場合は、その数は94万戸から239万戸に達します。これに対応する応急仮設住宅の必要数は、首都直下型で8万戸、南海トラフで84万戸と見積もられています。この数は、借上住宅が86万戸、121万戸供給できるとの仮定の上での数字です。
 一方、既存の仮設住宅は、いわゆるプレハブ仮設の供給可能数は、年間でも4万5000戸程度とされています。(プレハブ協会は阪神淡路大震災の際に、13か月で4万8000戸を建設。東日本大震災の際は11か月で4万3000戸を提供しました)
 今後、発生しうる大規模災害に対して、応急仮設住宅の供給体制は、絶対的に不足していると言えます。
 一方、従来のプレハブ仮設住宅は、60年前の災害救助法の規定の中で生まれてきているものであり、被災者のQOLにとって必ずしも良好なものではありません。さらに、原則2年間という使用期間が設定されているために、使用期間が終わるとその多くは廃材として廃棄されているの実情です。
 復興庁によると、2018年3月現在で、1万6427戸の仮設住宅が東日本大震災から7年たっても現役で使われています。全ての仮設住宅が整うまでに時間がかかったことに加え、本来の入居期限が2年とされている仮設住宅が未だに使われているというのが現状です。仮設住宅の建設費と解体費に多額の金額を要することが、国の財政を圧迫しているのも事実です。ちなみに、胆振東部地震の際に北海道で建築された仮設住宅は、寒さ対策などが加わり一件あたり1300万円といわれています。
スマートモデューロを仮設住宅に。次なる震災に備えるための仕組み「防災・家バンク」
スマートモデューロの内部 こうした現状の解決策の一つが、動く家「スマートモデューロ」による「防災・家バンク」です。
 「スマートモデューロ」は、1つのユニットが海上コンテナ(幅2.4m×長さ12m×高さ2.89m)と同じ規格でつくられた木造の住宅です。連結すれば床面積を広くすることも可能です。専用のトレーラーに載せれば日本中どこにでも移動させることができます。住宅だけにとどまらず、店舗やオフィス、ホテル、公共施設などにも活用できます。耐用年数は100年以上で、オフィスから住宅への転用など、さまざまな用途として再利用することも可能です。
 昨年の西日本豪雨では、国が建設型仮設住宅としてはじめて「スマートモデューロ」を認めました。倉敷市船穂町の柳井原応急仮設住宅団地には、「スマートモデューロ」41棟、トレーラーハウス10台、集会所として1棟(4ユニット)が設置されました。この仮設団地は8月3日に造成がスタートし、お盆の時期をはさみましたが9月8日には引き渡しが完了しました。使用期間は2年間で、契約はレンタル契約。総工費は約2億8000万円(撤去費用も含む)でした。
 また、北海道胆振東部地震でも、茨城県境町のふるさと納税(代理納税)を活用して、農家や酪農家8戸などに直接「スマートモデューロ」が2年間無償貸与されました。

 「防災・家バンク」は、大災害に備えて、国・地方自治体・各種法人・一般企業が、「スマートモデューロ」の技術を採用した施設を整備し、災害時には被災地へ輸送して、応急仮設住宅として使うという仕組みです。仮設住宅としての役割が終わった際には、元の建物として、または別の用途で再利用することができます。災害仮設住宅を社会的に備蓄しようという発想です。
 全国で「防災・家バンク」のシステムに共感する生産パートナーを募っており、本州でも計画が進んでいます。具体的には、平時にホテル・研修所として活用する計画が進んでいます。大規模災害発生時には、仮設住宅として用途を変え、被災地へ輸送することで、建物を生かすことができます。できるだけ2、3階建てと階層を多くして、収容人数が多い施設をつくることで、災害時に多くの仮設住宅を提供できるとの発想です。
 移動が可能で、様々な用途に転用がしやすく長く使い続けることができる。そして、万が一に備えた活用ができるのが「スマートモデューロ」であり、それを活用した「防災・家バンク」構想です。
 「防災・家バンク」構想を推進する一般社団法人日本ムービングハウス協会(株式会社アーキビジョン21、一般社団法人協働プラットフォームなどが会員)では、当面の目標として全国に250か所の展示場・研修施設を立ち上げ、合計1万棟(一カ所当たり40棟、250か所で1万棟)の「スマートモデューロ」を災害発生時に提供できる体制を構築したいとしています。
 現在、札幌市内で2か所、茨城県と長野県で先導的な「防災・家バンク」施設建設が進められています。
 今後の課題として、「スマートモデューロ」の建設型仮設住宅としての標準化、生産パートナー企業の拡充、「防災・家バンク」の地方自治体との連携強化(事前協定の締結)などがあげられます。さらに、何といっても「スマートモデューロ」、「防災・家バンク」構想の認知度を高める広報・啓発活動が不可欠です。