5月21日、公明党は国内の高齢者人口がピークを迎える2040年ごろの課題を克服し、誰もが輝く日本社会のグランドデザインを示すため、党内に「2040年委員会」(委員長=石田祝稔政務調査会長)を設置しました。

■2040年には高齢者数がピークに/地方の中心市街地に人口集中
人口減少対策総合研究所河合雅司理事長 平成の30年間を少子化が進んだ時代と位置付けるのであれば、令和は高齢者対策に追われる時代になるといわれています。40年ごろに高齢者数がピークを迎えるのに伴い、高齢者像も大きく変わってきます。
 その特徴の一つは、1人暮らし高齢者の急増です。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は4月、75歳以上の1人暮らしが500万人を超えると発表しました。
 もう一つは「高齢者の高齢化」です。65歳から74歳の、いわゆる前期高齢者は16年をピークに減ってきます。社人研の推計でも、しばらくは75歳以上が増え続けていくと予測されていいます。
 一方で、勤労世代は年々減っていきます。20歳から64歳は、40年ごろまでに1400万〜1500万人程度も減少します。政府は高齢者や女性の就業を積極的に後押ししていますが、就業率が現状より多少上がったとしても、就業者数は1000万人近く減ってしまいます。
 企業では若い年齢層ほど従業員数が少なくなってくるでしょう。これは、単に生産量や経済力が衰えるという問題だけにとどまりません。若い世代が新しい文化や価値観、視点を持ち込むからこそ、組織に新陳代謝が起こり活性化されていくのであって、若い世代が減り続けると、組織は閉塞感に陥り、技術革新(イノベーション)が起きにくくなってしまいます。産業界全体でも、新しい事業に挑戦する企業が少なくなっては大変です。“わくわく感”あるいは活力が、社会や経済界から失われていくことを強く懸念しています。
一人ぐらしの高齢者の割合
人口減少は地方でより顕著に、地方中心地には人口が集中
 東京への一極集中はかなり前から指摘されてきましたが、40年ごろにかけて地方でも、県庁所在地や中核都市に周辺地域から人が集まる“地域の一極化”の傾向が強まります。同じ県内でも、人口が横ばいの地域と、過疎化が急激に進む地域との差が目立つようになります。若い頃は不自由さを感じないで生活できる人でも、年齢を重ねると交通網や社会インフラ、高齢者向けのサービスが整っている地域に住みたいと考える人が増えてきます。つまり、中心市街地に高齢者が集まってくるのは避けられない事態です。
 そのような変化が起きた場合、社会の仕組みが適切に機能するかが問題です。人口減少の影響を大きく受ける地方では、行政をはじめ生活基盤を支える交通機関や病院などが住民に適切なサービスを提供できるのかが問題となります。
 東京も含めた都市部にも不安はあります。近隣との交流が希薄な地域社会において、1人暮らしの高齢者が健康的な生活を送れるのかが焦点です。今後の約20年間は、このような視点から、社会保障制度や働き方、まちづくりなどの面で政策の検討が求められます。
参考:『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)』(2019年推計)
http://www.ipss.go.jp/pp-pjsetai/j/hpjp2019/t-page.asp

■低所得者へのケアが必要、産業界に技術革新の息吹を
 人生100年時代ともいわれるが、(1)老後の収入をどう確保するか(2)健康寿命をどう伸ばすか(3)自分の生きがいをどうつくるか――の3点が重要な課題となります。
 特に収入の柱として高齢者の生活を支える年金制度は、これほどの国民の長寿命化を予定して設計されたものではありません。そこで、年金制度の改革案を主張する人もいますが、これからの制度見直しは「現在の若い世代」を対象にした改革であり、大多数の国民は「現在の年金制度」の範囲内で、年金を受給することになります。
 これらを踏まえると、年金を受け取りながら働くというのが現実的な選択となります。個人差はありますが、元気に働ける人は自分の意欲や能力を社会で発揮できることは望ましいことです。
 その上で、十分な所得を得られない高齢者へのケアをどうするかが課題となります。この点、例えば、高齢者向けの安い賃料の公共住宅の整備などを考えてみてはどうでしょうか。
 また、健康寿命や生きがいづくりは、高齢者だけでなく、現役世代の人たちにも大切な問題となります。現在の年齢に20歳加えた自分や家族の姿、人生設計を予想することが大事です。健康の維持や生きがいづくりは、高齢者になってから取り組むようでは遅いのです。40〜50代くらいまでには、仕事だけでなく、趣味や地域活動も含めた社会とつながる方法を積極的に考えるべきです。

■働き方改革の必要性
 人手不足などを背景に働き方改革が進んでいます。確かに、高齢者や女性、障がい者などの労働市場への参加、人工知能(AI)といった先端技術の活用などで人手不足に対応しようとする動きは大事です。外国人労働者の受け入れ拡大も始まりました。
 しかし、人手不足はそもそも、現在の総仕事量や仕組みを前提にしています。さまざまな条件が変わる今後は、必ずしも現在の仕組みを維持する必要はありません。実際、コンビニの24時間営業は見直しが始まっています。これまで当然視されてきた仕組みや目標を見直せば、人手不足は一定程度の解消が見込まれるはずです。
 働き方に関しては、さらに懸念すべきことがあります。若者が減り高齢者が増える職場で、現在の仕組みを維持しようとすると、例えば「1人当たり10年前の1.2倍の仕事をやってほしい」というように労働量が増えます。これでは、会社や組織に“遊び”がなくなってしまいます。そうなると、すぐには成果に結び付かない研究開発に取り組んだり、優秀な幹部候補生に海外留学させたりするなど、成長のチャンスを若者たちに与えられなくなってしまいます。会社の生産活動に携わらない人を長い視点で育成する企業風土を無理してでもつくることで、日本に技術革新を起こし、産業界に息吹を与えなければなりません。

■自治体の役割の変化
 自治体のあり方も変化します。政府は「地方創生」を掲げてさまざまな施策を打ち出しており、その姿勢は評価できます。ただ、どうしても既存の自治体の枠組みを前提に考えている点は否めません。40年ごろにかけて、人口が7割減ったり、高齢化率が8割に達したりする地域も出てきます。職員が4分の3になる自治体もあります。そのような事態を想定して、市区町村の枠組みを超えて住民の生活地域を集約するような政策のあり方を積極的に検討すべきです。

■2040年問題解決へに公明党の役割
 行政組織は、自らの立場や目前の課題を優先して議論しがちです。特に、霞が関の官僚は省庁や局などの単位で物事を考える傾向があり、俯瞰的な発想を望むのは難しい。さまざまな課題を包括的かつ横断的に受け止め、一貫した政策の方針を“横串”のように通せるのは政治家の役割です。
 その意味で、人口減少や「2040年問題」を与野党間で大局的な見地から議論する場を国会内に設けるべきです。例えば、党首討論として行われる衆参両院の国家基本政策委員会合同審査会を議論の場にしてはどうか。現在の党首討論の姿にとどめてしまってはもったいない。ぜひ実現してほしい。
 公明党は連立与党の一角を占め、責任政党として政権を運営しています。大勢の議員を抱える自民党は、党の体制や歴史的な経緯から、官僚や企業と緊密な関係を築きながら、党内を細分化して巨大な組織を束ねてきました。そのため、「2040年問題」という包括的な課題について党内で意見をまとめ、処方箋を迅速に提示するには多大なエネルギーを要するでしょう。
 公明党は自民党に比べて小規模ですが、国会議員と地方議員が緊密に連携し、結束力も強い特徴があります。自民党や官僚とは違う文化で、山積する課題に政策方針の“横串”を通す政党になってほしい。また、与野党間での合意形成のリード役を果たし、国民に幅広く情報を発信してほしい。現在、こうした役目を担える政党は公明党だけです。公明党が設置した「2040年委員会」での議論に期待しています。40年まで、あと20年。残された時間は少ない。リアリティーのある論議が一刻も早く求められます。ぜひ公明党には議論の先鞭をつけてもらいたい。

 人口減少対策総合研究所河合雅司理事長のインタビュー記事(公明新聞2019年5月22日付け)よりまとめました。
河合雅司氏(かわい・まさし)
1963年、名古屋市生まれ。中央大学卒。作家、ジャーナリスト。現在、高知大学と大正大学で客員教授。産経新聞社客員論説委員、厚生労働省検討会委員、農林水産省第三者委員会委員なども務める。主な著書に『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』(6月刊行予定)など。