関係人口
 地元住民と多様な関わりを持つ「関係人口」が、地域づくりの新たな担い手として注目を集めています。政府は6月に閣議決定した地方創生の新たな基本方針で、東京一極集中の是正に向けた対策の柱に、関係人口の拡大を掲げました。
 関係人口とは、主に都市圏に住みながら、特定の地域に対して短期滞在やボランティア、特産品購入など、さまざまな形で継続的に関わる人々を指します。「観光以上、移住未満」の関わり方といわれています。
 従来の地域おこしでは、居住する「定住人口」や観光に訪れた「観光人口」が指標とされ、それらを増やす取り組みが行われてきました。しかし、国内人口全体が減少する中で定住人口を増やすことは、特に地方では困難であり、観光人口が増えても直接的な地域の担い手にはなりにくい傾向があります。
 一方、若者のライフスタイルが多様化し、地方やシェアハウスなどへ関心が広がっているほか、会員制交流サイト(SNS)など人と関わる手段も変化。こうした中で、他者と関係性を持つこと自体に価値を置く傾向が強まっています。
 具体的には、ボランティア活動を行うために自ら交通費を払って地域を訪れることなどです。特に東日本大震災以降は、地域おこしを担う地域外の若者が増加。その動きを捉えた関係人口の概念が注目されるようになりました。
■政府、一極集中対策の柱に
 国レベルでは、総務省の有識者会議「これからの移住・交流施策のあり方に関する検討会」が、2017年4月に公表した中間報告で関係人口の重要性を指摘。18年1月の最終報告では、段階的な移住・交流の支援や関わりを持つ地域への思いを受け止める仕組みの必要性などを示唆しました。
 これを受け、総務省は18年度からモデル事業を開始。19年度は5.1億円に予算が倍増され、滋賀県長浜市や長野県泰阜村など全国44自治体の提案が採択されています。
 また、国土交通省の有識者会議「住み続けられる国土専門委員会」も、今年5月公表の3カ年取りまとめで、国土計画の観点から、関係人口の拡大や深化に向けた類型化、定量化を検討課題に挙げました。
 6月、政府は地方創生第2期(20〜24年度)の方向性を示す「まち・ひと・しごと創生基本方針」を閣議決定。地方への新しい人の流れを作るため、関係人口の創出・拡大に取り組むことを打ち出しています。

【にいがたイナカレッジ】農村体験に100人超/ニーズに応じて受け入れ
 公益社団法人・中越防災安全推進機構は、2004年10月の新潟県中越地震で甚大な被害を受けた中山間地域の担い手づくりのため、12年から都市部の若者を農村に受け入れるインターンシップ(体験就業)・プログラム「にいがたイナカレッジ」を実施。これまでに延べ100人以上がプログラムに参加するなど、着実に関係人口を増やしています。
 プログラムは必ずしも移住を目的とせず、首都圏イベントから体験ツアー、短期・長期インターンシップまで、各参加者のニーズや状況に応じたさまざまなステップが用意されている点が特徴です。
 実施に当たっては、事務局が受け入れ地域と参加者の間に入り、双方の意向を基に丁寧な橋渡しをしています。
 結果として移住に至るケースも多く、14〜16年度実施の長期インターンシップ参加者21人のうち、18人が移住しています。

島根県邑南町レールパーク構想
【島根県邑南町レールパーク構想】廃線を活用したレールファンの聖地づくり
 平成30年3月に廃線となったJR三江線の跡地を活用した「レールパーク構想」やライトアップイベントに継続的に関わる人材を確保する。鉄道ファンや中山間地域の地域づくりに関心を持つ人々にアプローチし、人口減少が著しい羽須美地区を持続可能な地区に転換する。広島市と松江市に、関係人口が集まる「関係案内所」を開設します。
 戦後、人口が8割減った邑南町羽須美地域。NPO法人江の川鐵道のホームページより、「2018年3月には、JR三江線が廃線になりました。でも、私たちは地域をあきらめません。鉄道はなくなっても、地域がなくなるわけではないのです。「天空の駅」と呼ばれ、多くの人に愛されてきた宇都井駅があります。何より、地域を想う人のつながりがあります。“縮小ニッポン”の最先端。ここから、あなたと一緒に、学び、挑戦したい。未来を変えるプロジェクト、始めます」

小田切徳美明治大学教授に聞く
――関係人口に着目する意義は何でしょうか。
 従来の移住政策は、移住する人と地域の関係性にかかわらず、すぐに移住することを前提としたものが多かった。しかし、2000年代半ばから活発化した移住・定住の動向を見ると、多くの場合、あたかも階段を上っていくように地域との関係性が深まり、最終的に移住に至っている。
 私は当時から、このプロセス(過程)を「関わりの階段」【図参照】と呼んでいるが、関係人口には多様な移住プロセスを「見える化」し、移住政策のあり方を問う意義がある。
 また、移住に関心があって行動力のある人は既に移住済みであり、新たに移住する人はほとんどいないとする「移住枯渇論」が、一昨年ごろから台頭している。しかし、関係人口の概念で考えれば、移住の可能性にはまだまだ“裾野”があることは明らかだ。
 加えて、国内人口が減少する中で「人の奪い合い」志向から脱却できる点も大きい。一人の人間が居住地だけでなく、他地域にも担い手として貢献できれば、そうした志向を乗り越えることができる。

――どうすれば関係人口を増やせますか。
 地域は、多様な若者が価値を置く「関わり方」を提供できるかどうかだ。そのためには、まず、どんな関わり方が求められているのかを知り、それに合った関わり方のメニューを網羅的、かつ同時進行的に見せることが重要だ。
 その上で、若者が地域と関わりを持つことを支援する仕組みも求められる。例えば今、若者の間で古民家再生のボランティアがブームだが、中でも床張り作業の人気が高いことに目を付けた人が、各地の床張り作業の参加者を募る組織を立ち上げている。こうした「つながりサポート機能」を全国、地域レベルで強化する必要がある。

――他の方法は。
 既に幾つかの自治体が実施しているが、住民以外で地域に関心を持つファンに対し継続的に情報を発信したり、特別な権利を与える「ふるさと住民票」制度も有効だ。多様な関係人口の受け皿として期待できる。
 また、返礼品競争が過熱した「ふるさと納税」の正常化も大事だ。ふるさと納税の本来の目的は関係人口の拡大であり、それに適した運用が求められる。

――地域や自治体の課題はありますか。
 関係人口の拡大に取り組むに当たり、まず地域として何を必要としているのか、何がセールスポイントなのか、どう関わってほしいのかを明確に打ち出すことが重要になる。うまくいかない原因は、そこがあいまいで関わり方のメニューを出し切れていないからだ。
 自治体では、「関わりの階段」の一段一段を進める施策は実施されているものの、縦割りで担当課がバラバラになっていることが多い。このため、せっかく階段を上る気持ちが芽生えても担当職員が変わり、連続的な対応ができていないのが現状だ。首長直属のコーディネーターを設置するなど、各課をまたいで対応する体制が必要だ。

――国レベルでも複数の省庁が関係人口を重視しています。
 関係人口の規模感などは有識者の間でも見解が異なっている。各省庁が取り組みを進める前に、多様で幅広い関係人口の概念を相応に定義し、世代や性別、地域的分布などの属性も含めた実態把握を定量的に行うべきだ。
 まずは政策の足掛かりとなる基礎データをきちんと整備しなければならない。

小田切徳美(おだぎり・とくみ)
1959年、神奈川県生まれ。東京大学大学院単位取得退学、農学博士。東京大学助教授などを経て2006年から現職。専門は農村政策論、地域ガバナンス論。日本地域政策学会会長。