1929年(昭和4年)2月にラジオ体操の全国放送が始まって今年で90年。出席カードを首から下げ、早朝6時30分に地域の広場などに人々が集い合う姿は、日本の夏の風物詩だです。誰もが一度は経験のあるラジオ体操が、「人生100年時代」を健康に暮らすための身近な運動として改めて注目されています。

■3分間の全身運動継続で、血管年齢など数値改善も
 7月28日の早朝、東京都世田谷区の体育館で「1000万人ラジオ体操・みんなの体操祭」(主催=かんぽ生命保険、NHK、全国ラジオ体操連盟)が開かれました。
 ラジオ体操は「第1」「第2」とも13の動きから構成される全身運動で、ともに3分程度。わずか3分の運動でも3年以上、週5日以上実践している人は、血管年齢や骨密度などで良好な数値だったとの神奈川県立保健福祉大学の調査もあります。また、1999年10月からは、ラジオ体操よりも運動量を低く抑え、高齢者の負担を少なくした「みんなの体操」も始まりました。
 体操祭の会場では、朝6時30分、ラジオ放送の生中継がスタートしました。始めに〽新しい朝が来た――でおなじみの「ラジオ体操の歌」を全員で合唱。その後、体操指導者の多胡肇さんの掛け声のもとで約10分間、みんなの体操、ラジオ体操第1、第2の順で、心地よく体を動かしました。
■無料アプリで実践呼び掛け/東京都
 ここ数年、ラジオ体操を取り入れる動きが各地で広がっています。
 東京都は、2020年の東京五輪・パラリンピックへの機運の盛り上げと都民・国民の健康づくりのため、2017年から「みんなでラジオ体操プロジェクト」を実施しています。
 毎年、大会の開催日程と同じ7月24日〜9月6日を「重点期間」として、都庁内の各職場で、毎日午後2時55分からラジオ体操を一斉に行ったり、都内の各自治体にもラジオ体操の実践を広く呼び掛けてきました。
 3年目の今年は、民間企業と提携し、スマートフォン用の無料アプリを活用したラジオ体操キャンペーンを実施しています。アプリでは、ラジオ体操の動画が視聴でき、視聴するとカレンダー画面にスタンプが押される仕組みです。また、重点期間中は個人・団体が撮影したラジオ体操の動画を募集、後日、コンクールを行います。
 一方、栃木県は昨年度から、ラジオ体操の指導者が県内各地の企業やイベント会場などを巡回する「ラジオ体操キャラバン」を実施中。これまでに計18会場で約2000人が参加しました。
 体操の掛け声を、その土地の方言にアレンジした“ご当地ラジオ体操”も増えている。佐賀市の「佐賀弁ラジオ体操第一」もその一つで、市民に親しまれています。

現在のラジオ体操は3代目!考案者の一人は日立市出身の遠山喜一郎さん
 この誰もが知るNHK朝のラジオ体操。考案者の一人が、日立市出身の遠山喜一郎さんです。
 遠山さんは明治42年、多賀郡坂上村(現在の日立市水木町)に生まれました。体操競技に打ち込み、昭和11年には日本代表としてベルリンオリンピックに出場しました。
 遠山さんが原案を作った現在のラジオ体操は3代目で、初代のラジオ体操の放送が始まったのは、昭和3年。旧逓信省簡易保険局が、国民の健康の保持・増進を目的として提唱したのがきっかけでした。
 しかし、戦争を機に、ラジオ体操の役割が大きく様変わりします。戦時下、国民を団結させる手段として利用されるようになっていき、太平洋戦争時には、国民の体力向上と精神高揚のためにますます重要視されました。
 戦争が終わると、GHQにより初代ラジオ体操が放送統制を受けたため、日本放送協会(NHK)の主導で新時代に合わせた2代目のラジオ体操が作成されました。しかし、この体操は動作が複雑な上、戦後の混乱期だったこともあって普及せず、昭和21年から1年ほどで放送が中止になってしまいました。
 やがて、戦後の復興が進みラジオ体操の復活を望む声が高まると、簡易保険局やNHKなどを中心として新しいラジオ体操の作成が始まります。遠山さんは体操の原案を作成する専門委員の一人として、「簡単、容易でだれにでもできる」「どこでも直ぐやれる」「調子がよくて、気持ちがよい」体操を作るという基本方針のもと、国民に浸透する新しい体操の考案に取り組むことになります。

動きの「つなぎ」とリズムの「流れ」
 遠山さんが作成に当たって重点を置いたのは、動きの「つなぎ」とリズムの「流れ」。「一度動き出したら、音楽に乗って最後までやりきれるものでなくてはならない」というのが遠山さんの体操理論。それまでの日本にはない身体の動きは、作成するのが非常に困難だと思われていましたが、戦時中に土浦海軍航空隊予科練で体育教師を務めていた遠山さんは、その時すでにリズム体操を訓練に取り入れていたのです。その経験を生かし、遠山さんは仲間と共にラジオ体操を作り上げました。
 初代ラジオ体操から続く関係者らによる懸命な活動、そして遠山さんらの努力の甲斐あって、昭和26年に現在のラジオ体操が完成し、放送が始まりました。
 その出来栄えがあまりにも素晴らしかったため、アメリカ空軍の大佐から「自分たちの基地でも取り入れたい」との申し入れがあったほどです。
 簡易保険局とNHKは、体操を全国に普及させるため、夏休み用の「ラジオ体操カード」の作成・配布や「夏期巡回ラジオ体操会」の実施、ラジオでの実況中継、ラジオ体操連盟の結成や指導者の育成などさまざまな活動を行いました。
 こうしてラジオ体操は全国に広まり、世代を超えて、多くの人々に親しまれています。