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 国連が2030年に向けた世界の共通目標として掲げる「持続可能な開発目標」(SDGs)。9月には国連総会に合わせてSDGs首脳級会合が開かれ、15年の目標設定時から4年間の進捗を話し合います。国内では、産業界、とりわけ全企業数の99%、雇用者数の約7割を占める中小企業・小規模事業者への浸透が急がれています。「SDGs経営」の現状や課題について、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科の蟹江憲史教授のはなしを2019年8月17日付けの公明新聞より掲載します。

慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科 蟹江憲史教授に聞く
■(意義と現状は)「17の目標」を行動の指針に/大企業で先行、対応怠れば取り残される
慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科蟹江憲史 「17の目標」からなるSDGsは、193の国連加盟国全てが合意している「未来の形」「未来の姿」だ。30年に向けた世界共通の“成長戦略”とも言える。その意味で、SDGsが示す未来に基準を置いた企業経営こそ、SDGs経営だ。
 日本では人口減少や少子高齢化が進み、社会構造も大きく変わる中で、事業環境の先行きはなかなか見通せない。そこで、企業経営においてSDGsを行動の指針として活用すれば、将来の進むべき方向性が見え、事業拡大につなげられる。
 大企業では特に、SDGsバッジを着ける人が増えた。環境・社会・企業統治に配慮した経営を評価する「ESG投資」の流れが加速し、企業戦略でも目先の利益ではなく、事業の持続可能性に価値をおく動きが広がっている。
 事実、サプライチェーン(供給網)全体での取り組みを見直す大企業は増加傾向だ。今後、その潮流はさらに鮮明になり、数年以内に調達方法は大きく変わるとされ、原料や部品の調達先の多くを占める中小企業にとって、無関心ではいられない。外部から対応を迫られて動くのでは、取り残される恐れもある。
 SDGsが一時的で終わるのであれば勧められないが、少なくとも30年までは続き、それ以降も持続可能な社会をめざす方向性は変わらない。そう考えれば、中小企業もSDGs経営を早く始めれば始めるほど確実にメリットがある。ただ、認知度はまだ低く、周知などに改善の余地があるのが現状だ。
■(具体化に向けて)まず業務と“ひも付け”/将来の成長へ自由な発想で事業展開を
 具体的に取り組むために大切なのは、SDGsを未来の社会のあるべき姿と捉え、将来の成長に向けた事業展開を図っていくことだ。日頃の活動や業務を出発点に、自由な発想で考えることが欠かせない。
 まず、SDGsの視点から自社の事業内容や経営理念を見ると、17の目標のどれかに必ずひも付けられる。健康関連産業なら、目標3の「すべての人に健康と福祉を」、造園業であれば、目標15の「陸の豊かさも守ろう」などに当てはまり、今の取り組みがSDGsの達成に貢献していることが分かるだろう。
 次のステップとして大事なことは、ほかの16の分野へと視野を広げることだ。そうすれば、まだ対応できていない部分が見え、それが新しいビジネスチャンスをもたらしてくれる。
 例えば、飲料会社が夏の脱水症状を防ぐため、ペットボトル商品を売り出すとする。だが、ボトルは、海洋プラスチックごみになり得るし、焼却処理では二酸化炭素(CO2)が発生してしまう。地球温暖化から人々の体を守るための商品が、環境を壊す結果にもなる。
 そこで、SDGsに対応しようと発想を転換し、ペットボトルのリサイクル率を上げる方策を考えていくことなどが、事業のチャンスを広げることになる。
 成功事例を紹介する。神奈川県にある中小企業の大川印刷は、CO2の排出ゼロをめざす印刷や再生可能エネルギー100%印刷プロジェクトといった面白い事業に取り組んでいる。コストは上がる面もあるが、売り上げは増加しているという。そうした活動をする印刷会社はまだ少ないため、先行する大川印刷が注目を浴び、新規の受注が増えるというメリットを得ている。

■基本法を制定し普及促せ
 現在、自治体の関心は確実に高まっている。神奈川県では幹部クラスが一同に集まり、「SDGs経営」を政策としてどう推進するか検討を進めている。長野県でも、SDGsに取り組む企業を認定し、応援する制度を始めた。今後、行政には、SDGsという指標を通じて中小企業の取り組みを“見える化”し、企業同士のマッチングを後押ししたり、融資制度を設けたりといった支援策を進めてほしい。
 日本は、これまで4年間のSDGsの取り組みは合格点と言える。今後は教育にもSDGsが取り入れられ、子どもを通じてさらに普及していく。ここで、この流れをさらにグッと進めるには、やはり、基本法を作るべきで、SDGsの理念を重視する公明党に強く期待したい。
 法整備が進めば、中小企業や自治体の動きは大きく変わり、経済成長だけではなく、社会も環境も全ての調和を考えたSDGs経営も広がる。公明党には、SDGsの分野で日本が世界のリーダーシップを取る推進役を望みたい。

【ジャパンSDGsアワード2019】政府、先進事例を毎年表彰
 政府のSDGs推進本部は、企業や自治体、さまざまな団体におけるSDGsの取り組みを後押ししようと、2017年度に「ジャパンSDGsアワード」を創設。これまでに2度実施し、17年度は12の企業・団体、18年度は15の企業・団体を表彰している。
 このうち第2回アワードでは、日本フードエコロジーセンター(神奈川県相模原市)がSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞。まだ食べられるにもかかわらず廃棄される「食品ロス」を減らす食品リサイクルが高く評価された。
 同社は「食品ロスに新たな価値を」との企業理念のもと、食品廃棄物を有効活用した発酵飼料を製造。高品質で低価格な飼料を提供し、それを使って育てられた豚肉のブランド化につなげ、継続性のある「リサイクルループ」(循環型社会)を構築している。
 また、特別賞に当たる「パートナーシップ賞」を受けた企業の一つ、大川印刷は、CO2の排出削減をめざす印刷をはじめ、パートを含む全従業員を対象にしたSDGsワークショップや、子ども向けのSDGs工場見学ツアーなども実施している。
 同じく、株式会社ヤクルト本社は、乳酸菌飲料の生産・販売を通じて、世界の人々の健康生活の実現に貢献し、「ヤクルトレディ」の宅配システムを途上国にも広げ、女性の就労や活躍を後押ししていることなどが認められた。
 なお、同本部では9月30日まで、第3回アワードの公募を受け付けている。

蟹江憲史(かにえ・のりちか) 2001年に慶応義塾大学大学院で博士号(政策・メディア)を取得。東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授などを経て、15年から現職。専門は国際関係論、地球環境政治。国連大学サステイナビリティ高等研究所シニアリサーチフェロー、政府のSDGs推進円卓会議委員も務める。