むろと廃校水族館
 室戸市室戸岬町の旧椎名小学校を改修した「むろと廃校水族館」が人気です。昨年4月にオープンし、来場者が22万人を突破しました。今年のゴールデンウイーク期間中の高知県内主要観光施設44カ所の利用者数では、高知城懐徳館3万3340人に次ぎ、2万8309人を集め、県内2位の大人気スポットに躍り出ました。
 屋外プールや校舎内に設置された水槽には地元の定置網にかかった魚がおよそ90種類1500匹飼育されています。この水族館は、室戸市で長年にわたってウミガメの研究をしているNPO法人日本ウミガメ協議会が管理しており、絶滅危惧種のウミガメが子どもたちの歓声が響いていたプールで泳いでいます。
 むろと廃校水族館は、その名の通り廃校舎を利用した水族館。児童減少にともない、2001年に閉校し、2005年に廃校になった椎名小学校を、2018年に水族館として蘇らせました。
 旧校舎の教室に設置した水槽や旧手洗い場、25mプールに魚介類が展示されています。展示されている海の生き物は、地元漁師の定置網にかかったり、職員が自ら釣ったりしたものが大半。ウミガメも飼育されています。生態展示のほかに、深海魚やミンククジラの標本も展示されています。
 現地でウミガメの生態の研究に携わっていた若月元樹さんが、館長を務めています。2018年4月26日にオープンしました。
 “廃校水族館”は、太平洋に面した絶好のロケーション。周辺に民家は少なく、高知空港らは車で90分。鉄道の便はなく、バスも1時間に1本程度。室戸市は、かつては漁師町として栄えましたが、3万人を超えていた人口も、今は半分以下に。10校以上あった小学校も、今では6校にまで半減しました。廃校水族館は、学校の外観を生かしてリニューアルしており、見た目は新築の小学校そのものです。
サメたちが泳ぐプール
 玄関を入ると左手にげた箱。靴ではなく、理科で使う実験器具などが入っています。その奥に職員室と館長室。予定の書かれた黒板などもあり、たたずまいは学校そのもの。入場券には入館日が「出席」、閉館時間が「下校」と表記があります。手洗い場は金魚や伊勢エビに触れるタッチプール。跳び箱の水槽にはウツボがいて、理科準備室をのぞけば、海洋生物の骨の標本があります。
屋外の25mプールには、サメやウミガメが自由に泳いでいます。できる限り、“学校らしさ”を残すように工夫された水族館です。
 2階に行くと、教室だったスペースに直径3メートルを超える円形水槽が三つあります。廊下にも水槽がズラリと並んでいます。地元で獲れた魚やウミガメなど展示されています。
 当初は校舎の3階にも水槽が設置される予定だったが、廃校として長年放置されていたため、シロアリ被害がひどく、その対策費で水槽設置の計画は消えました。しかし、若月館長らは空いたスペースを利用して、様々なアイデアを生かすことが可能となりました。3階にあった図書室には、他校から集めた海や魚に関する書物を並べ、地元の鮮魚店からもらったミンククジラの骨をスタッフらが組み合わせ、標本として展示。魚について学ぶ空間として活用しながら、余ったスペースには視力検査や身体測定の器具を置くなど「学校らしさ」を隅々まで演出しています。
むろと廃校水族館(室戸市室戸岬町:0887・22・0815)。開館時間:午前9時〜午後6時。年中無休。入館料は大人600円。中学生以下300円。(写真はウィキペディア、公式twitterより)

逆境こそ逆転のチャンス/ようこそ廃校水族館へ
聖教新聞(2019/8/18)
 8月18日付けの聖教新聞には、若月館長と創価学会高知総県長・秋山義人さんの対談記事が掲載されました。

25mプールにサメやウミガメ
秋山義人高知総県長 昨年4月のオープンから、来場者が22万人を突破したとお聞きしました。大変な人気ですね。
若月元樹館長 ありがとうございます。リピーターも多く、「また来たよ」「今回、5回目です」なんて方もいます。うれしいことに、大型連休や学校の休みには、地元の高齢者の方が、都市部に住むお孫さんを連れて見に来てくれます。
秋山 私は6月に初めて来ましたが、机や椅子、理科の実験道具に日本地図なども懐かしくて、少年時代に戻った気分でした。入場券には入館日が「出席」、閉館時間が「下校」と表記があって面白いですね。
若月 単なる消印や受け付けではつまらないと思って、遊んでいるだけです(笑い)。ここは全部が学校。海の不思議と出合う場所です。手洗い場は金魚や伊勢エビに触れるタッチプール。跳び箱の水槽にはウツボがいて、理科準備室をのぞけば、海洋生物の骨の標本がある。屋外の25mプールには、サメやウミガメが自由に泳いでいます。できる限り、“学校らしさ”を残すように心掛けました。
秋山 先日来た時と、少し展示の配置が変わっている気がしますが。
若月 定期的に模様替えをしています。ここでは「クラス替え」と呼んでますよ。この前、地元の小学生から寄贈されたウナギは「転校生」です。
秋山 まさに学校そのものですね(笑い)。学校と水族館というユニークな組み合わせ。子どもはもちろん、大人もワクワクしますね。

イルカもペンギンもいなけど
秋山 若月さんは、廃校水族館を運営するNPO法人「日本ウミガメ協議会」の研究員でもあります。
若月 最初はウミガメの調査要員として室戸に派遣されました。
秋山 地元の漁港を回りながら、毎日漁船に乗って調査をしたと伺いました。
若月 10年以上研究を続け、サンプルの保管場所や調査費用の確保に頭を悩ませていた時に、廃校活用の募集を知り、名乗りを挙げました。
秋山 当初、市の構想は地元の生物や漁業関連の展示を行う「海の学校」だったとか。
若月 そうです。でも、プールがあるので、そこでウミガメを飼いたいと当時の市長に相談したら、「だったら水族館にしてはどうか」と提案があって。計画に移ったものの、老朽化した校舎の改修費などに5億円。市や近隣住民は「どう費用を回収するのか」「こんな田舎に人は来ない」と。誰もが。“失敗する”と思っていました。
秋山 厳しい見方が多かったんですね。「廃校」という名前も、マイナスイメージが強い気がしますが。
若月 室戸にはかつて、小学校が10校以上ありましたが、統合や廃校を経て、今は6校です。「廃」は「すたれる」と読みますが、その中には「発見」「発信」などを意味する「発」の字があります。室戸にある“油田”を発見し、その素晴らしさを地域に発信していこう。そういう思いを込めました。「廃校」を明るいイメージにしたいと考えたので、パンフレットなどには「ハイッ行こう」と、ダジャレも使っています(笑い)。
秋山 私たちの「創価」とは「価値を創造する」という意味です。少子高齢化や過疎化が進む地方こそ、「可能性を秘めた場所」だと捉えた若月さんの着眼点は、まさに価値創造であり、逆境を飛躍のチャンスに変える挑戦ですね。
若月 ここにはイルカもペンギンもいません。ブリやサバなど、漁師さんが近海で捕った魚の中で、いらないものを譲ってくれます。だから費用はほぼゼロ。食卓では見慣れている魚もじっくり観察すると「動きが面白い」「かわいい」という声が多い。「思った以上に楽しかった」とも言ってくれます。魚は数日たつと海に戻すので「来るたびに展示が変わっている」という点も、ここの特徴です。

“校内”に子どもたちの元気な声が
秋山 かつては漁師町として栄えた室戸市ですが、3万人を超えていた人口も、今は半分以下に。地域活力の衰退が指摘される中で、“地方らしさ”を生かした廃校水族館が大ヒットし、少しずつ地域に活気が戻ってきています。
若月 室戸には豊かな自然や海洋資源などの魅力がたくさんありますから、必ず成功するという確信がありました。ただ、あまりにも周りから「失敗する」と言われ続け、落ち込んだ時期もありましたが……。
秋山 それでも、やり通せたのは、なぜですか。
若月 私が室戸に来てから、四つの小学校が廃校になりました。そうした現実を目にして“子どもたちの声が戻ってきてほしい”と強く思ったからです。今では、連日のように遠足や修学旅行の受け入れをしていますし、地元中学校から職業体験の依頼もあります。毎日、“校内”に子どもたちの元気な声が響いているんです。
秋山 “廃校に子どもがあふれている”と、地元の反響も大きいですよね。
若月 漁師さんが魚を持ってきてくれるだけでなく、先日は近所の方がカブトムシを捕ってきて(笑い)。皆さん、「この地域のにぎわいに貢献したい」と言ってくれるんです。
秋山 地域に愛され、支えられてるんですね。池田先生も常々「わが地域に根を張っていくことだ」「足元の地域を大事にしていかねばならない」と強調されています。
若月 「地域に根を張る」といえば、この春、水族館に研修に来ていた大学生が、室戸での触れ合いをきっかけに移住を決意して、来年4月から漁師になるんですよ。
秋山 すごいですね。
若月 私たちも、こういう形で貢献ができてうれしいです。今は自身の研究より後進の指導に専念していますが、今後は観光だけでく、学生たちの研究拠点として水族館を活用したいと考えています。先日も「オサガメ」という珍しいウミガメが網にかかり、貴重な研究対象となりました。
秋山 海洋研究にはこれ以上ない場所ですね。
若月 実は今年、若手スタッフが3人加わりました。「若者がいない」と悩む地域に、働きたい人が現れたんです。
秋山 研究に、地域活性化にと、やはり、若い力には期待がふくらみますね。後継の青年の育成は、私たちの大切な役割ですし、全力を挙げています。高知から世界へ羽ばたく人材の輩出に、ともどもに力を尽くしていきましょう。