大井川知事の初登庁(2017年9月26日)
 9月26日、今日、茨城県の大井川和彦知事は就任から2年目を迎えました。1期4年目の折り返し点です。
 「チェンジ、チャレンジ」を掲げて、6期24年続いた前橋本県政を転換し、従来なかった政策を矢継ぎ早に打ち出しています。就任後の成果と課題を地元紙茨城新聞の記事をなぞる形で、検証してみたいと思います。
 
大井川流の県政運営の特徴は「課題・問題の見える化」
 大井川知事が県政の「一丁目一番地」と位置付けたのは医師の確保策。昨年9月、「最優先で医師確保に取り組む医療機関」として、日立製作所日立総合病院(日立市)など5病院を具体的上げ、医師計15人の確保が必要と明確に表明しました。
 茨城県では2002年から人口10万人あたりの医師数が全国ワースト2位を記録しており、慢性的な医療人材不足が続いています。さらに地域偏在で、県民が医療を平等に受けられない医療格差も生じています。二次医療圏別でみると、つくばが人口10万人あたり約410人でもっとも多いのに対し、水戸では約238人、常盤太田・ひたちなかでは約108人、鹿行では約95人と大きな格差が生じています。ちなみに、全国平均は約251人です。
 このため、大井川知事は、県として早急に取り組みを開始することができる第一弾として、政策医療を担う県内の公的医療機関から「最優先で医師確保に取り組む医療機関・診療科」を選定。2018年9月に5つの医療機関と診療科を発表。第二弾を2019年1月に公表しました。具体的には、日立製作所日立総合病院(日立市)の産婦人科4人、常陸大宮済生会病院(常陸大宮市)の内科3人、神栖済生会病院(神栖市)の整形外科3人、土浦協同病院(土浦市)の産婦人科3人、JAとりで総合医療センター(取手市)の小児科2人。第2弾で日立製作所日立総合病院(日立市)の小児科2人となっています。
 病院や地元自治体の了解を得ていないとして、職員側は病院名の公表に難色を示したといわれています。しかし、大井川知事は押し切り、「課題の見える化」を図りました。その結果、この1年の短期間で日製病院への産婦人科医4名など医師7人を確保。目に見える成果を出しています。
 保健所の再編にも大なたを振るいました。問題の所在明らかにするために県内12の保健所の内、3つの保健所廃止の方針を、いきなり提示しました。地元自治体などから存続の要望が相次ぎ、有識者懇話会で議論した結果、要望を一部くみ取り、計画から約半年遅れの今年11月1日に新体制がスタートすると決まりました。現在の12保健所から、9保健所2支所に再編・統合することで、保健所機能の強化を図ります。常総保健所は廃止され、常陸太田保健所はひたちなか保健所常陸大宮支所に、鉾田保健所は潮来保健所鉾田市所に改編されます。(水戸市が令和2年4月1日に中核市に移行することに伴い、水戸市は独自に保健所を設置し、県の水戸保健所の区域から除かれる予定です)
 まず、課題を明確化して、議論を喚起し、実際の行動に拍車をかける、これが大井川県政の特徴となっています。

「選択と集中」こそ大井川県政の真骨頂
 「選択と集中」も大井川県政のキーワードです。水質改善が長年の課題となっている霞ケ浦。流域18市町村の下水道接続率を上げようと、県は2018年度から、公共下水への接続工事の県補助金を、市町村と併せ最大2万円であった補助金を、一挙に35万円にアップしました。昨年度の申請件数は前年度比で3.6倍に跳ね上がりました。
 財源は県独自の「森林湖沼環境税」を活用しています。「森林湖沼環境税」の使い道について県議会からは「効果が見えない」と注文が付いていました。広く薄くから集中して限られた財源を投資する決断を、大井川知事は行いました。「選択と集中」との大胆なめりはりが奏功した事例です。
 企業誘致も思い切った補助金制度を創設しました。成長分野の企業誘致を目指すために、大井川知事は2018年度当初予算で「最大50億円の補助」とぶち上げました。これが呼び水となり、自動車部品大手オートリブなど12社が本社機能などの県内移転を決め、各社の総事業費は約500億円、雇用創出効果は約1400人と見込まれています。
 また、売れ行き低迷に苦しむ茨城中央工業団地など10カ所の工業団地では、実勢価格を勘案し、3〜5割の大幅値下げを実施しました。2009〜17年度に年平均4.6ヘクタールだった工業団地の分譲面積は2018年度以降、60.8ヘクタールと13倍以上に急伸しました。

 一方、2018年度予算編成では、NPOやボランティアの活動を支援するための「大好きいばらき地方創生応援事業」が廃止されました(1990万円の削減)。また、満100歳の高齢者を顕彰する「長寿をたたえる事業」も廃止されました(235万円)。
 「大好きいばらき地方創生応援事業」は、県行政と県民との協働を進める上では非常に有効な補助事業でした。267団体から申請があり、119団体の事業に10万円から30万円の活動助成金が交付されました。成果が見えづらい、少額の補助金がバッサリとカットされました。
 県議会公明党は、補助対象などの見直しは必要としつつも、知事がめざす「県民とともに挑戦する『茨城づくり』」には無くてはならない事業であると、廃止に反対しました。
 こうした事業を廃止し2019年度には、「提案型共助社会づくり支援事業」を創設しました。バラマキ型の補助金から、急激な人口減少や超高齢社会から派生する喫緊の地域課題で、地域住民等の参加により解決が期待される事業、さらに、従来の助成制度等の対象とならない新規性・先進性のある事業に対して補助する仕組みに刷新されました。事業費は、3200万円で、補助単価も50〜500万円と大幅に引き上げられました。

「一気呵成」のスピード感
 大井川知事の県政運営は、「一気呵成」に政策を実現するところに、その真骨頂があります。人口減少社会に強烈な危機感を持つ大井川知事は、「手が打てる余裕のあるうちにあらゆる施策に取り組む」と常々語っています。
 しかし、そのスピード感は、時に議会や関係団体と摩擦を生じさせています。
 例えば、LGBTなど性的マイノリティーに県が証明書を交付する「パートナーシップ制度」の制定です。大井川知事は「人権に関わる問題」として、差別禁止を盛り込んだ男女共同参画推進条例の改正案を、3月定例県議会にいきなり提出。性的少数者カップルの公営住宅入居などに便宜を図る同制度を、4月から導入しようとしました。
 県議会公明党は、SDGsの立場からもちろん賛成。しかし、県議会最大会派のいばらき自民党からは、「唐突な提案」と反発や戸惑いの声が上がりました。市区レベルでは全国で導入例があるものの、都道府県では初めての試みで、伝統的な家族観を重んじる保守層を支持者に抱える自民党だけに、パートナーシップ制度の導入に強く反対する意見が県議や県連に寄せられたそうです。
 自民は条文のトーンをやや弱めに修正。知事提出の条例案が修正されることは非常にまれなことです。さらに、パートナー制度の導入は「あくまで時期尚早」として県執行部に慎重な対応を求めました。にもかかわらず、知事は当事者を含む有識者の勉強会を開催し、その結果をもって、7月には都道府県初の実施に踏み切りました。
 こうした一連の議論は、かえって茨城県のLGBT支援の本気度を全国に示す結果となりました。すでに20組近くが県に宣誓書を提出し、9月13日現在で、水戸市やつくば市など9市町が県の施策に同調し、県の同意書で公営住宅などの入居ができるようにしました。
 教育の現場でも、「一気呵成」の改革が進んでいます。大井川知事は今年2月、2020〜22年度の3カ年で県立の中高一貫校を一気に10校増設すると発表しました。水戸一や土浦一など伝統校が中心で、大半は付属中学校を新設する併設型タイプです。10校のうち5校は、1年余りの短期間で衣替えとなります。
 今春、改編対象校の説明会には小学校の保護者から申し込みが殺到し、全会場で定員を超えました。一方、県内高校生の約4分の1が通う私立学校側からは反発の声が上がった。中高一貫教育で先行してきただけに、関係者は「10校は寝耳に水。死活問題だ」と不満を隠しません。
 県立の付属中は1〜2クラスで、人間関係の固定化や部活動の人数不足などが課題です。教育関係者からは受験競争の低年齢化を危惧する声も漏れ聞こてきます。また、結果的に、高校から入学できる定員は2〜3クラス減ることになります。その分、競争が激化するだけでなく、優秀な生徒はむしろ県外に流出するのではないかとの心配もあります。
 議会との軋轢は、枚挙に暇がありません。9月議会から大井川知事は、本会議場の議会答弁で“タブレットパソコン”(iPad)で原稿を見ながら答弁し始めました。紙の原稿ではなく、電子的な原稿を読むことは、議会にとって画期的なことです。本来ならば、議会(議員)側がリードすべき議会進行を、執行部がイニシアチブをとった格好です。議員の質問には、タブレットの使用は議論中で認められていません。紙の原稿よりも電子データーの方が、資源の無駄遣いになりません。答弁の修正なども簡単にできます。本来であれば、議会側がその使用を先に提案し、執行すべき案件であると思います。大井川知事の「一気呵成」の実行力に、議会が翻弄されている感があります。
 ただ、議会側の対応を押し切って導入した“タブレット”ですが、その導入効果には、疑問符が付いています。実は、“タブレット”は紙に比べて、視認性が余り良くありません。煩瑣にページ送りをしなくてはならないという操作性も、紙の方が上手です。その結果、知事答弁は、ほとんど“タブレット”を注視して、議員や傍聴者の方に視線を向けないという状況になってしまいました。まさに、原稿の棒読み状態です。ある、自民党の県議はSNSで、「今回から大井川知事らは、タブレットを使用しています。これまでの紙の時よりも、タブレットの画面だけを見て棒読みする『読みっこ』の様相がひどくなりました」との辛辣な一文を載せています。

 県の総合計画審議会長を務めた常磐大学の吉田勉常磐大教授は、地元紙に以下のように語っています。
 「大井川県政は、新しい課題にいち早く案を提示し、議論を呼び起こすというスタイルがかなり定着した。議会とも衝突を恐れず議論し、県民には問題の所在が分かりやすい。二元代表制が機能しているとも言える。施策が一部、拙速との批判もあるが、議会の意見を取り入れて修正し、落としどころを模索する形になっている。パンダ誘致など、従来ならあり得ない政策を打ち出し、たとえ成功しなくても県政に躍動感をもたらし、県民に勇気を与える契機となるという見方もできる。スピードが速すぎる点は、もう少し落ち着いて議論を進めるスタンスが必要かもしれない」と。まさに正鵠を得た意見です。

大井川知事に伍するスピード感と実行力を
 私は、大井川知事就任後のある会合で、「知事のスピード感、実行力を確信しています。そのものすごい速さで回る車輪の遠心力に、議会や県の関係者が付いていて行かなければ、茨城県政は分解してしまいます」と挨拶しました。知事の2年間の努力を、県民のために活かすためには、知事以上に汗をかく、議会をはじめとする県関係者の本当が必要です。それと、大井川知事にも、周りの人間をも巻き込む今一段の対話力と忍耐力を期待するものです。