消石灰の配布
 台風19号の被災自治体では、消毒用に「消石灰」を配布しているところも多いようです。
 しかし、最近の研究では「消石灰」には消毒効果が余りないといわれており、逆に人体に害があるといわれています。消毒のために「消石灰」を撒くことは避け、自治体も配布を中止すべきだと思います。
 なお、茨城県では、塩化ベンザルコニウム(逆性石けん)、クレゾール石けん液、オルソ剤などでの消毒を進めており、消石灰での消毒はすすめていません。
 福島県いわき市のHPの記載は、「消石灰の配布はしていません。消石灰は、濡れているところに撒くと乾燥の手助けになりますが、素手で触ると肌を痛めたり、まいた消石灰が飛散して目に入ると、結膜炎や失明等を引き起こし、大変危険です。特に断水している地域では、手洗い等が十分にできない可能性がありますので、個人で消石灰の取り扱う際には、十分注意が必要です」と、明記されています。
 やや長い引用となります。中尾篤典(岡山大学医学部 救急医学)先生の「レジデントノート2019年7月号」への投稿をご紹介します。
http://bit.ly/33PS21V
 2018年7月、岡山県は甚大な水害の被害に見舞われ、倉敷市では多くの家屋が浸水し、犠牲者も多数出ました。特に被害が大きかった倉敷市真備町では、水害の一週間後、被災者が自宅の片付けに入ったり多数のボランティアが来たりした時期に一致して、眼や皮膚の症状を訴える患者さんが急増し、最も多い日では80名が被災地の仮設診療所で処置をうけました。これは、自宅清掃や瓦礫撤去の際、行政やマスコミの広報活動も後押しして、消毒目的に大規模な消石灰散布が行われたことが原因でした1)。私も被災地に入ったときに、庭や道端のいたるところに白い粉がまかれているのを目にし、倉敷市の指導で行われたものであると聞き不思議に思ったのです。
 消石灰は水酸化カルシウム〔Ca(OH)2〕のことで、ご存知のように水溶液は強アルカリ性を示します。そのため目に入ると角膜や結膜が損傷しますし、皮膚にも炎症を起こします。水害の後に消毒として消石灰をまくのは、地面のpHを上げることによる抗菌作用を期待してのものといわれており、実際にサルモネラや腸球菌の増殖は抑えられたという報告があります2)。古代のお墓では遺体が消石灰でおおわれていることがあるそうで、ブタの死体を消石灰と一緒に埋葬した実験によると、最初の6カ月、消石灰は腐敗を遅らせることがわかりました3)。ペットの埋葬のときに防臭や衛生面から消石灰を一緒に入れることが勧められているのはこのためでしょう。しかし、水害の後の消石灰散布の効果については懐疑的で、自治体によっては推奨の方法は異なりますが、最近は毒性を考慮して用いないことが多く、倉敷市にはすぐに散布をやめてもらったそうです。

引用文献
1)Yamada T, et al:Increase in the incidence of dermatitis after flood disaster in Kurashiki area possibly due to calcium hydroxide. Acute Med Surg, 6:208-209, 2019
2)Nyberg KA, et al:Treatment with Ca(OH)2 for inactivation of Salmonella Typhimurium and Enterococcus faecalis in soil contaminated with infected horse manure. J Appl Microbiol, 110:1515-1523, 2011
3)Schotsmans EM, et al:Effects of hydrated lime and quicklime on the decay of buried human remains using pig cadavers as human body analogues. Forensic Sci Int、10:50-59、2012
著者
中尾篤典(岡山大学医学部 救急医学)