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 住宅用の太陽光発電を対象とした電力の固定価格買い取り制度(FIT)の10年間の期限が、11月から順次終了しています。資源エネルギー庁新エネルギー課の担当者は「それほど大きな変化は出ていない」と述べています。
 ただ、今後は価格が大幅に下がることが予想され、発電した電気をどう活用していくか、各家庭が判断を迫られています。
 住宅用の太陽光発電の導入件数は約252万件(2018年)。資源エネルギー庁によると、2019年(11、12月)だけで53万件、23年までには累計165万件がFIT制度から抜ける計算です。

■2013年時点で原発6〜7基分に相当/再エネ普及にも影響か?
 この件数が持つ発電規模は670万キロワットに上ると見られ、出力ベースで100万キロワットの原発6〜7基分に相当します。卒FIT電力分(FIT制度を終了した太陽光発電)を安定的に確保できるかは、地球温暖化防止を進める上でも大事なポイントとなります。
 制度開始の当初は、太陽光パネルが高額だったこともあり、1キロワットの電力を1時間発電する「1キロワット時」当たりの住宅用の買い取り価格は48円でした。これは電力会社に支払う料金よりも大幅に高く、住宅用の太陽光発電を普及させる大きな追い風となりました。
 その後は、太陽光パネルの価格低下などを背景に買い取り価格は段階的に引き下げられ、2019年度で24円にまで下がっています。さらに価格の下落が進めば、売電収益のメリットが薄れてきます。既に現在の24円の時点で、家庭が電力会社に支払う電気料金とほぼ変わらりません。
 しかし、災害時に自宅の電源が確保できるという利点が、ここに来てクローズアップされています。
 9月の台風15号禍による大規模停電の際、太陽光発電協会が同発電設備の設置者を対象に実態調査を実施しました。その結果、「冷蔵庫を使うことができたので、中の食べ物を腐らせずに済んだ」「近隣の方へ携帯電話の充電などで貢献できたことがうれしかった」といった声が寄せられ、回答者の約8割が停電時に有効に活用できたと答えました。
 こうした機能が理解されていけば、パネル設置の動きは、ある程度期待できるかもしれません。
■(卒FITパネル設置家庭の選択)自家消費の拡大か有利な取引先の確保
 卒FIT後の太陽光発電電力の活用法は大きく分けて二つあります。
 一つ目は、家庭で使う量を増やす自家消費の拡大です。家庭用の蓄電池を購入すれば、昼間に発電して余った電力を夜間や災害時に使えます。
 実際に、資源エネルギー庁によると、業界的には消費者からの蓄電池購入の相談や問い合わせが増えています。
 その他、電気自動車などの動力としての利用をはじめ、太陽光発電や夜間の電気でお湯を供給する家庭用の給湯器(エコキュート)との組み合わせも省エネ面で注目されています。
 二つ目は、現在継続している電力会社や別の会社と個別に契約して余剰電力を売る売電の継続です。
 買い取り価格は大手の電力会社の場合、おおむね1キロワット時当たり7〜9円程度が相場です。これに対し、電力小売りに参入してきたガス会社などの新電力会社は8〜11円程度の値段を設定し、顧客の獲得へ懸命なアピールを続けています。例えば、東京ガスは9.5円のプランを用意しています。
 目を引くのが住宅メーカーの戦略です。大手の大和ハウス工業は、自社の戸建て住宅だと1キロワット時当たり11.5円で電力を買い取ります。積水化学も自社ブランドのセキスイハイムの住民を対象に、蓄電池などを購入するプランで12円を提示しています。
 一方で、地域でつくられた卒FIT電力を地域内で消費する「地産地消」の動きも出てきています。NTTスマイルエナジーは北九州市などと連携し、卒FIT電力を市内の公共施設で利用する実証事業を始める予定です。横浜市も東京電力エナジーパートナーと協定を結び同様の事業に乗り出すことを発表しています。

【専門家の提言】全体のコスト低減が重要
電力中央研究所エネルギーイノベーション創発センター・高橋雅仁上席研究員

Q:一般家庭の太陽光発電を今後も普及させるためには。
高橋雅仁上席研究員 発電コスト(費用)の低減とFITからの自立が必要だ。太陽光発電を自家消費するため、蓄電池やエコキュートなど蓄エネ機器にかかるコストを下げることも不可欠だ。
 特に蓄電池の値段は、まだまだ高い。蓄電容量でニーズが多い層は6キロワット時台。国は1キロワット時当たりの価格を6万円程度にとどめたいそうだが、現状では20万円ほどかかり、蓄電池の値段だけで120万円もする計算となる。設置費用も安くない。初期費用とその後のランニングコストを含めた全体のコストをいかに抑えられるかが焦点となる。
 ただ、蓄エネ機器は家に据え置くタイプだけではない。電気自動車やプラグインハイブリッド自動車の充電に使うという選択肢も非常に有益だ。充電した電力は、自動車だけでなく家庭用の電気製品の電力としても利用できる。

Q:災害時に停電しても蓄電システムがあれば安心か。
高橋 今年9月に千葉県を中心に大規模な被害をもたらした台風15号は、広範囲にわたり停電を起こした。このため、東京電力が主体となって被災地の住宅や保育園、福祉施設などに電気自動車を派遣して電力を供給し、復旧支援に当たった。
 災害時に対するレジリエンス(回復力)をいかに高めるかが今の防災施策に求められているだけに、台風15号禍での電気自動車を活用した電力供給の取り組みが広く注目されている。

Q:地域で生み出された電力を地元で使う「地産地消」の視点は。
高橋 地方自治体が出資して立ち上げた電力会社である「自治体新電力」も、家庭の余剰電力の買い取りに名乗りを上げている。
 ただ、最大の課題は収支状況がどうなるかだ。離島などは別にして、電力は送電網で広くつながっている方が、停電が少なくコストも下がる。狭い地域にとどまっていると採算が合わない。こうした点を踏まえながら、「誰が」「どのように」取り組んでいくのかが問われる。

Q:FITの海外での導入状況は。
高橋 有名なのはドイツとスペインだが、両国とも既に制度を縮小または終了した。実はFITの仕組みには二つ大きな課題がある。
 一つは、再生可能エネルギーの電力を高く買い取った分だけ、その経済的負担が電気代の値上がりという形で国民にのしかかる。もう一つは、送電網など電力系統に大量の再生可能エネルギーが入ると、電力の安定性が保てない。こうした課題がFIT縮小や終了の背景にある。
 ドイツでは、FITに代わり市場の卸電力価格にプレミアム(割り増し)分を乗せて買い取る「FIP」制度に切り替え、再エネの普及を進めている。
 世界的には再エネの調達価格は値下がり続けている。ただ、事業用の太陽光発電だと、18年で1キロワット時当たりドイツが8円で日本は20円。日本の再エネのコストはまだ高い。いずれにせよ、今後も技術の革新に伴い値下がりは止まらないだろう。
 こうした流れを世界のグローバル企業はビジネス拡大の好機と捉えている。米大手IT(情報技術)企業のグーグルやアップルは、再生可能エネルギーを活用した大規模なプロジェクトを進めており、各国政府や企業の動きにも注視が必要だ。

 たかはし・まさひと 1969年生まれ。東京大学工学系研究科電気系工学専攻(博士課程修了)。工学博士。研究分野は電力の経済性、需要、技術評価など。