トランプ氏のtwitter
情報過多の社会だからこそ、その真偽は賢明に見分けよう
 ネットやSNSが私たちの生活に浸透し、大手新聞、マスコミなどの情報に頼っていた情報は、より多様な媒体から入手できるようになりました。それによって、「私たちはより早く、正確に物事の判断ができるようになりました」と、言いたいところですが、現状は真逆のようです。
 ネット上には玉石混淆の情報が飛び交い、その真贋を見極めることが一般市民には非常に難しくなってきています。
 
 11月3日投票されたアメリカ大統領選挙では、SNS(会員制交流サイト)を通じたデマが、世界中を席巻しました。そのデマの中心にあったのは、他でもない共和党のトランプ大統領に他なりません。「民主党に選挙を盗まれた」、「郵便投票は不正の温床」、電子投票システム「ドミニオン」によって不正集計が行われた等々、根拠のない情報が拡散されました。こうした情報拡散の規制を巡る議論も高まっています。

 11月4日、共和党支持者の一部が、facebookに「ストップ・ザ・スティール(盗みを止めろ)/StopTheSteal」というページを立ち上げました。このグループは「集計に不正がある」という怪情報をFB上で拡散させ、さらに参加者が暴力を促すような呼び掛けまで行ったため、5日、facebookはこのページを削除しました。
 twitterも、トランプ大統領の10以上の投稿について「誤解を招く」と警告する対応を取りました。
 CNNテレビによれば、「ストップ・ザ・スティール」というサイトは、ロジャー・ストーンという人物が、2016年の前回大統領選のときに開設しサイトです。ロジャー・ストーン氏はトランプ陣営の元選挙参謀で、偽証罪などによる禁錮刑をトランプ大統領に免除された曰く付きの人物です。さらに、今回のFBサイトには、やはりトランプ氏の元側近で詐欺罪に問われたスティーブン・バノン元首席戦略官の関係者が関わっていると報道されています。
 CNNの報道を見る限り、民主党攻撃のデマは、単なる一般市民の陰謀論というよりも、トランプ陣営の戦略に基づく組織的な動きがあったことは明白です。
 17日、facebookとtwitterの最高責任者を召喚して、米上院司法委員会の公聴会が行われました。共和党議員がSNS運営企業による投稿削除は言論の自由の侵害であり、過剰介入だと主張。一方、民主党側は「大統領が、SNSという拡声器を使って悪質なうそを広めてきた」と批判、SNS規制をもっと厳しくすべきだと述べ、厳しく対立しました。
ワン・アメリカン・ニュース・ネットワーク
 こうしたSNSによる情報操作に止まらず、マスコミそれ自体も、恣意的な情報を拡散するという事態に陥っています。
 トランプ氏は、「電子投票システム『ドミニオン』が、全米で270万票のトランプ票を削除した」と主張しています。これは、「ワン・アメリカン・ニュース・ネットワーク/OANN」の記事を引用する形で行われています。
 OANNは、「全米で使われている投票システムで、何百万ものトランプ票が削除されたことが分かった」と報道しました。情報源として、エディソン・リサーチという選挙監視グループが入手した「検査されていないデータ分析」を、元にしたと書かれています。しかし、その当事者であるエディソン・リサーチのラリー・ロシン社長は、「我が社はそのような報告書は作成しておらず、有権者による不正行為の証拠は一切持っていない」と証言しました。OANNは、自説を裏付ける証拠はまったく提示していません。
 OANNの11月22日付けのネットニューを見てみると、「不正投票の証拠はたくさんあります」との見出しの記事が掲載されています。「トランプ大統領の法務チームは、自由で公正な選挙のための戦いを続けています。大統領選挙運動弁護士であるシドニー・パウエルは、ジョー・バイデンが今年の選挙中に1000万の不正投票を受け取った可能性があると述べた。数日、数ヶ月、さらには数年もの間死んでいる人々の名前で、違法な場所から数百万の投票が来る可能性があると言いました」云々という記事です。選挙が終わって、20日ほど経過しても、OANNの報道姿勢は一貫してトランプ支持であり、バイデン氏の不正投票で大統領選に敗れたというものです。

 保守的・共和党寄りの放送メディアにFOXニュースがあります。FOXニュースは、アメリカ同時多発テロ事件の祭は、愛国心一色の報道姿勢を明確にしました。テレビ画面に終日星条旗を流し、ニュースのアンカーはみな星条旗バッジを身に着け登場しました。イラク戦争の報道では、テーマ曲を勇ましいマーチにしました。
 自身への報道の大半をフェイクニュースとして切り捨てきたトランプ大統領は、各マスコミに対して冷淡な姿勢をとり続けてきました。ただし、大統領に好意的なFOXニュースだけは例外であり、報道各社を集めた記者会見を事実上中止した以降も、ホワイトハウス報道官がFOXニュースに対して独自に会見を行うなど比較的優遇された立場にありました。
 今回の選挙報道では、FOXニュースの司会者ショーン・ハニティー氏が「ドミニオンが激戦州でトランプ票をバイデン票に切り替えたと」との発言が、拡散しました。ハニティー氏は、ドミニオンの投票機を使用したミシガン州アントリム郡で問題があったと報じ、他の郡でも同様のソフトウエア障害があったと示唆しました。これに対して、ミシガン州のジョセリン・ベンソン州務長官は、「確かにアントリム郡では投票に問題が生じたが、ドミニオンのソフトウエアではなくヒューマンエラーが原因だった」と説明しています。

 私たち一般市民が、選挙の投票などの判断材料とする、ネットやマスコミなどの情報。その真偽を検証することは、かなり敷居の高いことです。ネット化IT化が進む社会こそ、一人ひとりの事実を見極める能力が求められています。