一連の年金議論で、年金基金141兆円(平成14年度末)はもうなくなっているのでは、というはなしを聞く。テレビでも、そのムダ遣いの実情を繰り返し放送しています。様々な新聞記事や厚労省の資料から、私なりに「年金基金」の疑問についてまとめてみました。やや長文ですがご一読下さい。
 1.赤字垂れ流しの年金関連福祉施設はどうする
 2.市場運用の失敗で6兆円損失?
 3.特殊法人などに貸し付けた年金基金は不良債権化?
 4.今後の年金の支払い(年金給付)にどう活かすか?
赤字垂れ流しの年金関連福祉施設はどうする
 最初に一言、年金の保険料が直接福祉施設に投入されていたような表現がありますが、それは間違いです。年金保険料が直接、福祉施設に投入されている事実はありません。
 年金改革の中で、国民に保険料の引き上げを求める以上、保険料のムダ遣いは徹底して排除しなくてはなりません。問題の全国265カ所の年金福祉施設は与党合意(2004年3月10日)に沿って、今後、全施設の売却が進められます。
 保険料で整備された年金福祉施設は、年間4400万人(2002年度)が利用していますが、国有財産減価償却費の考え方を考慮した収支状況を見ると、ほとんどが赤字経営です。また、施設の運営を委託されている公益法人(7法人)は、官僚の天下りの温床になっており、国民から厳しい批判にさらされています。
 グリーンピア(大規模年金保養基地)は2001年の閣議決定により2005年度までに廃止されます。
 年金住宅融資(貸付額累計25.7兆円、2002年度末)についても、2001年の閣議決定により、2005年度までに廃止され、融資債権の管理・回収は独立行政法人福祉医療機構に引き継がれます。
厚労省資料:年金の福祉施設などについても徹底した見直しを行います

市場運用の失敗で6兆円損失?
 金利や株価の低下で6兆円の運用損が出たのは事実ですが、既にその6割は回復されています。
 2002年度末で147兆円の年金積立金は、大半の約112兆円が財務省所管の財政融資資金に預託され、残りの約35兆円が厚生労働省所管の年金資金運用基金によって管理され、財投債(国債の一種)の引き受けや市場運用に投入されています。
 このうち年金資金運用基金の累積損失が6兆717億円(2002年度末)に達し、市場運用のあり方について見直しを求める声が高まっています。
 確かに、専門性の徹底や責任の明確化など運用体制の見直しは不可欠です。その上で、市場運用においては長期的視点に立った評価が必要であることも事実です。
 実際、金融市場が好調な時は高い運用利回りを得ており、1986〜2000年度までは運用収益の累計が9兆3400億円に上りました。さらに2003年度は市場運用によって第3四半期まで(4〜12月)に3兆4922億円の収益があり、既に損失約6兆円のうち6割近くが取り戻されています。今後、株価が上昇すればさらに事態は好転することが予想されます。
 2002年度は国内株式で2兆452億円、外国株式で1兆4680億円の損失が発生し、市場運用は極めて厳しい結果でしたが、積立金全体の運用では、財政融資資金への預託金収益3兆2968億円や財投債1347億円の収益などがあり、単年度で2360億円の収益を確保しています。

特殊法人などに貸し付けた年金基金は不良債権化?
 郵便貯金や簡易保険の資金とともに、年金積立金の大半が財務省所管の財政融資資金に預託されています。
 この財政融資資金から、特殊法人などに多額の融資がなされ、それが不良債権化することで積立金を回収できないかのようなイメージを与えるセンセーショナルなマスコミ報道が繰り返されることによって、国民の間に「積立金の実態はないのではないか」といった不安が広がりました。
 しかし、これは全くの誤りです。積立金は直接、特殊法人などに融資されているのではありません。預託先は財務省所管の財政融資資金であり、国がつぶれない限り、預託金は安全です。
 加えて、2002年度末で112兆円の預託金は、毎年約20兆円近くが年金特別会計に戻され、2008年度までに利子とともに全額が戻ってきます。預託に伴う金利の収益は2002年度から2008年度までで10兆2992億円が見込まれています。
 今後の運用体制の見直しについては、専門性を徹底し、責任の明確化を図るとともに、現在、年金積立金の管理運用を行っている特殊法人(年金資金運用基金)を廃止し、新たに年金積立金管理運用独立行政法人を創設します。
 新法人は、施設業務や住宅融資業務を廃止し、運用業務に特化。理事長には資金運用に関する高度な知識と経験を有する者を任命し、理事長が運用方針を作成。これを金融・経済などの専門家で構成する「運用委員会」が審議します。これら専門家集団である新法人が債券や株式への投資割合などの運用方針を決定することとし、責任を明確化します。
 評価委員会が毎年度、運用実績を評価し、法人役員などの人事、報酬に反映させる仕組みも導入します。
 厚生労働大臣は運用業務の中期目標を設定、必要に応じて運用方針の見直しを要求します。
厚労省資料:年金基金の今後の運用について

今後の年金の支払い(年金給付)にどう活かすか?
 政府案では年金積立金はまず、団塊の世代が受給者の側に回ることによる給付の増加に対応して取り崩します。そして、その後、積み増し、さらに団塊の世代の子どもや、それに続く今の20代以下の若い世代が受給し始める2050年以降に重点的に取り崩し、給付水準50%以上の「暮らせる年金」を2100年まで保障する財政見通しを立てています。
 厚生年金は現在、約5年分の給付に相当する積立金を保有していますが、2100年の時点で1年分が残るように取り崩します。国民年金は現在、約3年分の給付に相当する積立金を保有していますが、2100年時点で同じく1年分を残して取り崩します。