国と地方の税、財政の在り方を見直す「三位一体改革」について、政府・与党は11月26日、2006年度までの改革の全体像を決定しました。国から地方自治体に権限や財源を移す「地方分権」は10年越しで取り組まれてきましたが、小泉内閣が進める「三位一体改革」が本格化することで、ようやく具体化することになります。
 地方にとっても厳しい改革ですが、地方分権を進め地方主権を確立するためには、どうしても通らなくてはならない関門の一つです。
●「三位一体改革」の目指すもの
税制、補助金、地方交付税の3つの要素を一体的に改革
 「三位一体」とは、本来キリスト教の教義上の言葉です。その言葉を小泉内閣が、地方の自立のために、国から地方自治体への資金の流れを見直す改革の名称として使うようになりました。この場合の3つとは、1.国から地方へ配る補助金の削減、2.国から地方への税源(税の支払われる源泉となる所得や財産)の移譲、3.国から地方へ渡す地方交付税の見直し、のことです。この3つを総合的に改革し地方分権の推進と行財政改革を進めることを「三位一体改革」と呼んでいます。
 従来の日本では、国が多くの税金を集めて、その税金を使って地方自治体をコントロールしてきました。しかし地方自治体ごとの創意工夫が求められる時代になって、地方が自由に財源を使えるようにすることが必要になり、資金の流れの改革が急務になっています。
●「三位一体改革」で住民サービスはどう変わるか?
国税を減らし地方税を増額 必要額は地方交付税で保障
 国からの補助金が廃止されたり減らされても、地方自治体は住民にとって必要なサービスを中止することは許されません。そのため、削減した補助金に見合う財源を、国から地方に移すことが必要となります。
 「三位一体改革」では、補助金の削減とともに、国が集めている税金を減らし、地方が集める税金を増やす改革が行われます。これが国から地方への「税源移譲」です。
 今回決まった全体像では、約2兆2400億円の補助金削減のうち、地方の側の行財政改革(行政のスリム化・効率化)を図る分を除いて、約1兆7600億円の税源移譲が行われることが決まりました。今年度にとりあえず約6560億円が税源移譲されているので、それに加えて最終的に約2兆4160億円の税源移譲が行われることになります。
 具体的には、国税の所得税を減らし、地方税の個人住民税(市町村民税と都道府県民税)を増やすことで税源移譲を行うことになります。個人にかかる税金の率が見直される訳ではないので、税負担自体の変化はありません。
●05、06年度は地方交付税の総額を確保
 ただ、このように国から地方へ税源が移されても、人口が少なかったり、所得水準が低い地域の自治体では、思うように税収が増えず、自治体によって財政力の格差が出ることが予想されます。その結果、今まで国の補助金を受けて実施していた事業が、今まで通り続けられないといった事態も考えられます。
 そうした事態を避けるために、地域格差を是正するために作られた仕組みが「地方交付税」です。地方交付税は、国が集めた税金の一部を地方自治体に渡すもので、地方自治体ごとの税収の格差を、ある程度平準化する役割があります。
 各自治体に配る地方交付税の額は、毎年、総務省が自治体ごとに必要と思われる費用を見積って、その自治体の税収では不足する額を割り出して決めています。したがって補助金が削減されても、その分が費用の見積もりに加えられれば、必要額は確保されることになります。
 今回の全体像では、「三位一体改革」を進める2005、06年度は、地方自治体の安定的な財政運営に必要な地方交付税や地方税などの総額を確保し、地域における必要な行政課題に対し適切に財源措置を行うことを決めています。一時、財務省から、地方交付税の大幅見直し(削減)が提案されましたが、来年度からの実施など急激な制度変更は見送られました。
●「三位一体改革」で、なぜ補助金を削る必要があるのか?
国の関与を減らすために自治体の自主財源を拡大
 政府・与党が決定した「三位一体改革」の全体像では、国から地方自治体に出している補助金のうち約2兆8380億円について、2005、06年度の2年間で、大幅に削減することになりました。
 削減される補助金は、義務教育のための補助金約8500億円、国民健康保険(国保)のための補助金約7000億円をはじめ、各省庁が所管する幅広い分野の補助金が対象となります。
 最も金額が大きい義務教育のための補助金は、義務教育である小中学校の教員給与に充てるための補助金です。小中学校は市町村が設置していますが、教員の採用人事権は都道府県にあり、教員給与は都道府県が負担しています。その2分の1を国が補助する仕組みになっています。
 今回削減することになった約8500億円は、国が負担する総額の3分の1程度です。2005年度はとりあえず約4250億円を削減し、中央教育審議会の答申を待って最終的な形を決めるとしています。
 義務教育の補助金削減の流れを作ったのは、全国知事会など地方6団体が今年8月に国に提出した「地方向け補助金の改革案」でした。その中に教員給与の補助金約8500億円(中学校分)の削減、さらに将来の制度廃止が含まれていました。
 小中学校の教員の人数や給与については、文部科学省が全国一律に細かい基準を定め、補助金を配っています。それによって例えば、都道府県が、独自に教員の給与を下げて、浮いた予算で採用人数を増やし、受け持ちの児童数を減らそうとしても、増員分に補助金を回せないばかりか、かえって補助金が減らされるような硬直した仕組みでした。
 地方からの批判を受け文部科学省は今年度からこの補助金に関する縛りを大幅に緩和しました。しかし人件費を節約しても、人件費以外の教育予算に回せないなど、多くの課題が残っています。学校と地域が一体になって教育を行えるよう、市町村に教員の採用人事権を移してほしいとの意見もあります。教育分野の地方分権を一層進めることを求める声は続いています。
 一方、地方に教育の権限(特に予算)を委譲すると、地域によって教育に格差が生じるのではないか、教育は国家百年の大系といわれるように国が一体的に責任を持つべきであるなどとの指摘も多く、拙速を避け中央教育審議会の議論を待って最終的な結論を導くことになりました。
 義務教育の補助金に限らず、国の補助金を受け取るにはさまざまな条件があり、現場の実情に合わなくても、その条件に合わせなければならない場合があります。国が補助金を出す事業より必要な事業があっても、地方の持ち出しが少ない補助金事業を優先するといった弊害もありました。補助金を配る、受け取るという事務自体にも、大変な労力、人員、費用がかかります。
 こうしたことから、補助金の制度は、地方自治体の自主的な活動を阻害し、無駄遣いを生んでいるとといっても過言ではありません。そこから国の補助金を減らし、地方が自由に使える財源を増やす改革が求められているわけです。