週刊誌の見出しには、たびたび驚かされます。見出しと内容があまりに違うことも良くあることです。今週発売の週刊現代(2004/7/10号)には、「年金はパーになる!」と見出しが踊っていました。テレビでお馴染みの慶應大教授の金子勝さんと経済評論家の森永卓郎さんの対談記事です。

週刊現代(2004/7/10号P31)
金子 マクロ経済スライド方式の導入ですね。
森永 ええ。簡単に言うと、人口がどんどん減って年金の支え手が少なくなると、自動的に経済調整が強化されて、年金が減るという仕組みです。この仕組みがあれば、確かに年金制度は壊れないですよ。給付がずるずると無限に下がっていくわけですから。壊れるのは、年金制度ではなく、われわれの老後なんです。

 マクロ経済スライド制度の導入で、年金額は限りなく少なくなっていく。こんな乱暴な表現がまかり通っています。確かに所得代替率(現役時代所得と受給している年金額の割合)は、年々下がって行きます。それは、名目の現役時の手取り年収は、物価上昇分で計算されるていきますが、年金受給額は物価上昇分より当分は0.9%減額されるからです。 しかし、マクロ経済スライド制度の導入されても、物価がマイナスに転じない限りは、年金額が減額されることはありません。『給付がずるずると無限に下がっていくわけですから。』との表現は、明らかに間違いです。
週刊現代(2004/7/10号P32)
森永 厚生労働省の試算によれば1960年生まれの人の場合、現役世代の手取り年収の50%を受け取れるのは、「夫が40年勤務、妻が専業主婦」のモデルケースでも、年金受け取りが始まる65歳時点だけ。20年後の85歳になると約40%にまで下がる。独身男性だと、65歳時点でも36%しか受け取れず、20年後にはわずかか29%になるんです。
金子 独身男性サラリーマンが定年まで勤め上げても、最善で29%なんですよね。
森永 そうそう、最善でこの数字です。マクロ経済スライドが強化されると、さらに下がります。50%など、夢のまた夢。こうなると、ほとんど生活できませんよ。
金子 手取り月収(ボーナス込み)が30万円だとして、独身男性の給付額は65歳で月10万円強、85歳時点では9万円弱になる。年に100万円そこそこです。
森永 私は年収300万円の生活を提唱してきたんですが、まだまだ読みが甘かった。これからの週刊現代の読者は、年収100万円でいかに生活していくかを考えなくてはいけません。それくらい今回の年金制度改革は、民間サラリーマンにとって深刻な打撃を与えるんです。

 『独身男性の給付額は65歳で月10万円強、85歳時点では9万円弱になる。年に100万円そこそこです』と言うことになれば、切実な問題です。でも、よく読んでみると『手取り月収(ボーナス込み)が30万円だとして』という前提がめちゃくちゃです。月収30万円、年収360万円のサラリーマンの場合です。厚労省のモデルケースで想定する現役男子の手取り収入は、2025年度の推計で58万1000円、年収ベースで697万2000円です。平均的給与の半分程度のサラリーマンを登場させて、月10万円強では生活できないとするのは、例示としてきわめて非適切です。
 こうした例外的な事例をもとに、「小泉勝利なら、年収100万円時代がやってくる」と見出しを掲げるのは、読者に対する「ウソもいろいろ」に他なりません。
 さらに、『65歳で月10万円強』という数字は正しいですが、『85歳時点では9万円弱』になる。という記載は間違いだと思います。繰り返しになりますが、マクロ経済スライドでは、物価が下降しない限り、年金額がマイナスになることはあり得ないからです。
 マスコミでもてはやされている金子勝さんと森永卓郎さんとの対話です。ご本人が間違ったことを言っているとは思いません。年金の理解に乏しい、編集者の勘違いが生んだ記事なのでしょうか?それとも、私の理解が間違っているのでしょうか、どなたかご教授下さい。