日立電鉄などの鉄道事業は、「鉄道事業法」という法律に則って、運営されています。
 その第1章にこの法律の目的が記されています。
第1条 この法律は、鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることにより、鉄道等の利用者の利益を保護するとともに、鉄道事業等の健全な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする。
と書かれています。しかし、目的に利用者保護をうたっていますが、内容は事業者と国土交通省の間だけで進める仕組みになっており、住民・利用者の参加する余地が全くないことに驚かされます。
 第28条の2 鉄道事業者は、鉄道事業の全部又は一部を廃止しようとするとき(当該廃止が貨物運送に係るものである場合を除く。)は、廃止の日の1年前までに、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。
2 国土交通大臣は、鉄道事業者が前項の届出に係る廃止を行つた場合における公衆の利便の確保に関し、国土交通省令で定めるところにより、関係地方公共団体及び利害関係人の意見を聴取するものとする。
3 国土交通大臣は、前項の規定による意見聴取の結果、第1項の届出に係る廃止の日より前に当該廃止を行つたとしても公衆の利便を阻害するおそれがないと認めるときは、その旨を当該鉄道事業者に通知するものとする。

 つまり、廃止届が提出されれば1年後には自動的に鉄道事業者は鉄道を廃止できるという仕組みなのです。そこに、利用者の沿線住民の声を反映させる仕組みは全くありません。そればかりではありません、関係地方公共団体や利害関係者の意見聴取をおこなって、国交省が問題がないと判断すれば、廃止期限を前倒しすることさえ出来るというのです。なんという国民無視の法律なのかと、少々あきれています。
住民や利用者は、意見を述べる機会さえ抹殺された
 さて、これからが本題です。日立電鉄の存続問題に関わって、今日ほど感情的になったことはありませんでした。
 住民や利用者が唯一自らの意見を国に言える機会は、28条の2項の2で規定されている「利害関係人の意見聴取」です。
 毎日新聞の地方版(4月16日付け)で、5月にもこの意見聴取が行われるとの記事を目にしました。
 早速、県と国土交通省関東運輸局に、利害関係者として住民や利用者が意見を述べるにはどうすればよいのか、問い合わせしました。
 その答えは、「住民や利用者は利害関係者に当たります。しかし、廃止届けから10日間の内に、利害関係者として意見を述べるための申請手続きをしていただくことになっています。関東運輸局に公示し、お知らせしました。残念ながらその期限を越えていますので、法の定めるところによりもう申請はできません」とのことでした。(ちなみに公示とは意見聴取を行いますとの書面を掲示板に張り出すことです)
 3月26日廃止届けが提出された日、私は国交省に直接、今後の対応など住民や利用者が何が出来るか問い合わせの電話をしています。その時にも、利害関係者の意見聴取については何の説明もありませんでした。まして、その申請に10日間という期限がついていたことも知らされませんでした。
 確かに法的には国のやり方に瑕疵はないかもしれません。しかし、そこには国民の声を真摯に聴こうとする姿勢も全くありませんでした。
 ただただ残念です。感情の高ぶりを押さえられなかった1日です。
ちなみに広島の中日新聞(2003.1.17) に次のような記事が掲載されていました。ご参考まで、
代替交通確保 意見聴取は「非公開に」
住民から疑問の声

 JR可部線可部(広島市安佐北区)〜三段峡(戸河内町)間廃止後の代替交通確保などについて、中国運輸局は3月20日、鉄道事業法に基づいて住民らから意見を聴く。同法施行規則は意見聴取を「公開」と定めているが、今回は聴取自体は非公開で、終了後に運輸局側が記者会見して内容を説明する。このため、住民の一部から「実質的には非公開だ」と疑問の声が出ている。
 意見聴取には、申請した県や住民団体、高校など六団体の代表らが出席し、個別に陳述する。民間鉄道の廃止に伴う意見聴取はこれまでにもあるが、JRの路線廃止に伴うのは全国初のケース。
 運輸局は「公開とは、聴取の終了後に記者会見などの適切な方法により概要を公表すること」との旧運輸省の通達や、他地区の民間鉄道の先例から、記者会見での概要の公表が「公開に当たる」との認識を示す。
 これに対し、沿線住民でつくる可部線の再生と存続を考える会の伊藤稔会長は「現状を知ってもらうため、生の声を広く聴いてもらう方がいい」と聴取自体を公開しない方法に首をかしげる。
 他の住民団体からも「非公開にする意味が分からない」「他団体の意見も聴きたい」など、運輸局の対応に不満の声が上がっている。運輸局鉄道部の杉谷太久美計画課長は「一般的に不特定への公開を望まない人が出ることも考えられ、現時点で理想的な公開のスタイルは持ち合わせていない」と話し、国交省は「公開について画一的な決まりはない」としている。