7月28日、井手よしひろ県議が所属する県議会保健福祉員会では、少子化対策に関する参考人からの意見聴取を行いました。
 この日の参考人は、東京大学大学院教育学研究科教授の汐見稔幸先生、株式会社資生堂CSR部次長の山極清子さんの二名です。
 汐見先生は、教育学・人間教育学の専門家として、育児や保育のあり方を主な研究対象としています。
 エンゼルプラン、新エンゼルプラン、新新エンゼルプラントと3次にわたる国の子育て支援策の特徴と問題点を指摘したうえで、地域における子育ち環境(子どもは自ら育つという意味で子育てではなく子育ち環境)の整備の必要性を訴えました。
 また、合計特殊出生率が低下している国と回復している国を比較して、子育て支援の二つの方向性を示唆しました。
 その一つは、デンマークや、オランダ、フィンランドなどが行っている男女共同参画社会づくりの推進です。子育てを夫婦が共同して行える環境を整えるために、例えば男女の同一賃金や同一就業条件やフルタイム労働とパートタイム労働の差別撤廃などを徹底したりしています。これによって、子育てを母親だけが行うのではなく、夫婦で就業時間を短縮することによって、夫婦で行えるようになりました。
 もう一つの手法は、幼児教育を社会的責任で行おうとすることです。フランスやイギリス、ドイツでは3歳以上の乳児を朝から夕方まで預かる保育施設を整備しました。対象年齢の幼児全員を無料で預かるシステムです。これによって、安全・安心の子育ち環境が創出されました。
 いずれにせよ、子育てを家庭の責任に任せている国ではなく、社会責任で行おうとする国が、出生率を回復させていると説明しました。
 日本においても、家庭政策を明確にして、財源を明確にした上で少子化対策に全力を上げる必要があると結論づけました。
 一方、資生堂の山極次長は、企業の具体的な現場での子育て支援策を説明しました。
 山極さんは、子育て支援策の充実は、企業にとって結果的に大きな利益をもたらと確信するとしました。
汐見稔幸教授の参考人意見聴取メモ
●エンゼルプラン
1994年、合計特殊出生率1.54ショックを受けて策定。女性労働力の確保が必要であるとの視点。予算の裏付けがない。少子化対策は主に保育対策であった。0才児保育や保育所の時間延長などが実施される。専業主婦家庭への支援がスタート。
エンゼルプランの反省。数字のデータから推定する手法での対策で、女性からの聞き取りなどで、「なぜ産まないのか、産めないのか」の本音を調査することができていなかった。
この時代既に「子どもを生むことは人生のオプション」になっていた。
●新エンゼルプラン
出生率が高かった時代は地域社会が子育てを担っていた。昼間子ども達は、地域に放たれ(放牧)遊んだり、めんどう見てもらったりしていた。夜になると、家庭に戻る仕組みができていた。地域社会が子育ち環境として機能していた。その地域社会が崩壊し、交通事故や犯罪の危険性、そもそも子ども達の減少などが、子育ち環境を壊していった。
新エンゼルプランは、働き方の見直しがトップ課題となった。
●新新エンゼルプラン
子育ち環境の充実。保育所機能充実策から全家庭支援策に移行。
●アジア諸国が低出生率国に
2003年の数値
日本1.29
韓国1.19
香港0.94
タイ1.80
シンガポール1.26
台湾1.24

●欧米諸国の出生率
2002年の数値
アメリカ2.01
アイルランド、アイスランド1.9〜2.0
フランス1.9
ギリシャ、イタリア、スペイン1.2〜1.3
ドイツ1.34

●出生率低下国の共通点
出生率が低い国は、子育てを家族の責任と考える国が多い(道徳的、宗教的な倫理観の影響が強い)
●出生率が改善した国の二つの方向性
一つは、オランダの1.5モデルなどに代表される男女差別の撤廃、フルタイムとパートタイムの就業形態による差別の撤廃などを通して、男女共同参画の社会づくりを目指す方向。
もう一つは、フランスやイギリスなどの行われている幼児教育(保育)を社会的な責任で行おうとする方向性。(例えば三歳以上の幼児保育を希望者全員に提供する)

参考:少子化社会白書(平成16年版)