参考写真 4月13日、自民党・公明党の与党教育基本法改正に関する協議会は、国会内で会合を開き、教育基本法に盛り込むべき項目と内容について、最終報告を取りまとめました。
 教育基本法の改正については、「戦後間もない1947年に制定された現行法は、『個人の尊厳を重んじ』などの表現が多い反面、公共心の育成には一言も触れていない。制定当初から、「社会的配慮を欠いた自分勝手な生き方を奨励する」と指摘する声があった。青少年の心の荒廃や犯罪の低年齢化、ライブドア事件に見られる自己中心の拝金主義的な考え方の蔓延(まんえん)などを見れば、懸念は現実になったとも言える。<中略>日本社会の将来のしっかりとした基盤を作る上で、極めて重要なことだ。教育基本法の改正は時代の要請である」と読売新聞が社説(2006/4/14付け)で主張するように、見直しを求める声が日増しに高まったいます。
 今回まとめられた最終報告は、前文と全18条からなり、「生涯学習の理念」など社会状況の変化に対応した新たな条文が盛り込まれました。また、「個人の尊厳」や「人格の完成」など現行法の骨格となる理念や、前文中の「憲法の精神にのっとり」の文言は残されました。教育の目標では、新たに職業との関連、自然や環境との共生などの考え方が反映されています。
 新たに加わる条文は、「家庭は子育てに第一義的責任を有する」と規定した「家庭教育」のほか、「生涯学習の理念」「大学」「私立学校」「教員」「幼児期の教育」「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力」「教育振興基本計画」の8項目です。
 このほか、将来の社会状況の変化に対応できるよう、義務教育は9年とする年限の規定が削除されました。また、国が「教育振興基本計画」を策定し、教育政策の方針を示す規定も盛り込みました。
 特に、注目を集めている『愛国心』をめぐる表記については、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」とされ、「『国』の概念から統治機構を除く」「他国や国際社会の尊重を反映させる」との与党の共通認識を反映させた結果となりました。
 この愛国心を巡り議論の経緯は、先の読売新聞社説に簡潔にまとめられています。
 愛国心を巡っては、自公両党が自説を譲らず、平行線をたどってきた。
 「国を愛し」を求める自民党に対し、公明党は「戦前の軍国主義、全体主義的な教育に戻る印象を与える」とし、「国を大切にし」を主張した。反対の理由に「『国』だと『統治機構を愛せ』の意味にもなる」「『愛し』は法律になじまない」と指摘することもあった。
 「国」も「愛し」も残った点は、公明党が歩み寄った。自民党は、「伝統と文化をはぐくんできた我が国」と読めるようにして「統治機構」と無関係であることを明確にし、公明党に配慮した。
読売新聞社説(2006/4/14)

 今回の取りまとめ案に対する公明党の主張とその結果には、多くのマスコミから評価が寄せられています。朝日新聞は、4月14日付の社説で、次のように述べています。
 「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」。これが合意した文言である。
 国を愛せということが統治機構を愛せということにならないか。公明党はそう疑問を投げかけ、「大切にする」を主張してきた。自民党の主張通り「愛する」という表現に決まったが、「伝統と文化をはぐくんできた国」というくだりが加わった。統治機構の色合いは薄れたとして、公明党は受け入れた。
 公明党はなぜ、「国を愛する」を避けようとしたのか。支持母体である創価学会は、戦前、国家から弾圧された経験を持つ。初代会長は獄死した。愛国心という言葉に戦前の国家主義のにおいをかぎ取り、最後まで抵抗したのだろう。
 両党の合意では、「他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」という文言が続く。「他国を尊重し」は今回、加えられた言葉だ。
 戦前の「忠君愛国」のスローガンは、自分の国だけを思うゆがんだ愛国心となり、アジアへの侵略をあおった。日本を大切だと思うなら、他国の人が自分の国を大切にする心にも敬意を抱かねばならない。「他国を尊重する」という文言は愛国心の暴走を防ぐうえで、重要な意味がある。
 今回の合意は、戦前への反省も踏まえており、これまでの自民党案に比べて改善されたことは間違いない。
朝日新聞社説(2006/4/14)

 今後は、国会の場に改正案として具体的な案文が提示され、広い国民の議論の中で教育基本法の改正議論が進むことを期待します。