1月2日に開催された県医師会フォーラム「お産をする場所がない!」の続報です。
 今回のフォーラムでは、日立市で瀬尾産婦人科医院を営む瀬尾文洋医師と日製総合病院の産婦人科主任医長山田学医師より、地域の産婦人科の現状について報告がありました。
 瀬尾医師は、日立市の新生児死亡率は、2005年0.6%と全国トップクラスの低い状況であることを紹介し、新生児搬送体制の充実や日製日立病院との病診連携の取り組みなどを紹介しました。
 日製病院の山田医師は、同病院の産婦人科の変化について具体的に報告しました。それによると、県北三市の出生数は94年の3023人から05年の2240人と減少したにもかかわらず、分娩ができる医療機関の減少が急激に進んだため、日製病院での出産数は915人から1230人へと増加しています。また、出産数だけではなく子宮がんのような婦人科悪性腫瘍や外来救急患者数も急激に増えています。
日製病院産婦人科の最近10年の変化
分娩数の増加:3割増(年間900人から1200人に)
婦人科悪性腫瘍患者の増加:8割増加(年間50人から90人に)
救急患者の増加:4割増(年間550人から750人に)
母胎搬送数の増加:5割増加(年間40人から60人に)

 日製病院では、その増加数に対応するため、常勤の医師を6人から8人に増やすなど体制整備を進めてきましたが、医師の負担は非常に重くなってきています。また、この3月末で常勤医8名の内、5名が退職する予定であり、補充のめどが立った3名を加えても、現状の診療体制を維持することが非常に難しくなっています。さらに、いわき市の磐城共立病院の産婦人科の縮小(閉鎖)も危惧され、県北の産婦人科体制は益々危機的な状況を迎えます。
日製病院産婦人科を取り巻く状況変化
  1. 07年3月で常勤医8名の内、5名が退職。新たに派遣される医師は3名の見込み(未確定)
  2. 県央地区からの救急搬送の増加
  3. 磐城共立病院の産婦人科の縮小(閉鎖?)
  4. 北茨城市立病院で分娩受付再開
  5. 高萩協同病院で産婦人科診療の再開

 こうした地域の現状をしっかりと理解した上での、行政や政治のレベルでの産婦人科対策が必要であることを、このフォーラムで再確認しました。
お産の場所がない!フォーラムで討論
朝日新聞(2007/1/22)
 県北を中心に、お産を扱う医療機関が減っている問題を話し合う県民フォーラム「お産をする場所がない!」(県医師会主催)が21日、日立市内で開かれた。パネリストとして出席した産婦人科医や助産師と県の担当者が、参加した市民らと意見交換。今後は医師確保のほか、助産師の早急な育成策や行政支援の充実などが必要との意見が出された。
 会場には約200人が集まった。愛育病院(東京)の中林正雄院長は基調講演で、今後の対策として、(1)基幹病院に人手や設備を集約化したうえで、リスクに応じて基幹病院、中堅病院、診療所で分担すること(2)産科医の労働条件の改善や助産師の増員(3)産科医療への公的補助の増額などを提案した。
 続いて行われたパネルトークでは、県産婦人科医会の石渡勇会長や瀬尾医院(日立市)の瀬尾文洋院長、日立製作所日立総合病院の山田学医師、県保健福祉部の泉陽子医監らが出席。それぞれが現状を説明するとともに課題を指摘した。
 事前に撮影されたビデオ映像の中で、日立市内の30代の女性は夜間の緊急時の態勢や医師とのコミュニケーションに不安があることなどを訴えた。これに対し、山田氏は「夜間も助産師や医師は呼び出しで仕事をしているため(患者を)待たせてしまっている。(医師1人当たりの)仕事量の増加で以前よりも患者と話をする時間は少なくなる傾向にあるかもしれない」などと回答した。
 さらに、会場からは、日立市の男性が「県レベルで、もっと対策はとれないか」と指摘。これに対し、泉氏は研修医に対する補助制度などのほか、「助産師の育成や、医師が集まるような魅力的な病院作りのバックアップをしていきたい」と答えた。
 中林氏は最後のあいさつで「茨城は東京に近いのに、東北や北海道に近い状況にある。長期的なビジョンを持ちつつ、短期的には助産師の確保に務め、行政は安全確保のためにしかるべき支援を行うべきだ」と提言した。