国民の不安をあおる年金崩壊のデマ
年金制度は揺るがず、現在の財政は想定以上に安定
 2005年の合計特殊出生率が1.26と過去最低となり、日本の年金制度は大丈夫かとの質問をよく受けます。先のブログ(「年金資金の運用益は?12兆円以上の黒字に」2006/2/9付け)では、年金資金の運用益が12兆円に上っている事実を紹介しました。ここでは、2月16日付の公明新聞の記事を参考に、日本の年金の現状についてまとめてみたいと思います。
参考写真 厚生労働省は2月6日、05年の国勢調査結果に基づく新人口推計による、今後50年間、出生率が2005年の1.26から回復せず、ほぼ横ばいであったとしても、近年の景気回復傾向を経済に関する前提に反映させると、55年時点の給付水準は04年改正の見通しである50.2%を上回り、51.6%を確保できるとの試算を発表しました。また、出生率が2055年に1.06まで低下したとしても49.4%を確保できるとしています。(人口の変化等を踏まえた年金財政への影響(暫定試算):2006/2/6厚生労働省年金局:PDF形式
 年金財政に影響を与える主な要素は、(1)出生率、(2)寿命、(3)積立金の実質的な運用利回り、(4)実質賃金上昇率、(5)物価上昇率、(6)厚生年金被保険者数、労働力率――などがあり、年金財政は出生率だけでなく、経済・雇用の動向に左右されます。
 また、女性や高齢者などの社会参加の度合いも重要な変動要因で、女性が出産・育児で仕事を中断してしまうのではなく、働き続けられる社会、つまり男女共同参画社会を実現できれば、年金財政に大きな追い風となります。このように年金財政は総合的な見地から判断が必要であり、一時の出生率だけで一喜一憂するものではありません。
 ちなみに、06年は出生数が前年を上回り、出生率は「1.29前後に回復する見通し」と報道されています。
 足下の財政状況は堅調です。景気回復を背景とした年金積立金の好調な運用などで、05年度の厚生年金と国民年金の収支は04年改正の見通しを大きく上回っています。
 05年度の年金積立金の実質的な運用利回りは、7.01%で04年改正の前提である0.50%を6.51%(厚生年金6.50%、国民年金6.63%)も上回りました。この上回った利率を金額に換算すると、9兆3800億円(厚生年金8兆7600億円、国民年金6200億円)にもなります。
 このように好調な年金積立金の運用や、厚生年金では被保険者数が想定より80万人も増えたことなどで、05年度は04年改正の前提では厚生年金、国民年金ともに収支が赤字で合計で3.8兆円の積立金を取り崩す見通しでしたが、逆に2.1兆円を積み増し、積立金残高は150兆円を突破しました。現状は年金の支給は全く心配ありません。
出生率低下で50%は無理?
出生率の回復は可能、経済や女性の社会参加など 前提満たす対策を着実に
参考写真 出生率の前提は下回っていますが、実際に年金財政に影響が出るのは20年先。その間に出生率を上げればいいのです。それは十分に可能だと思います。
 2004年改正の出生率の前提は、06年に1.31で底を打ち、その後、ゆるやかに回復して50年で1.39になるものでした。現在は1.26(05年)ですが、今後45年間に必要な対策を取ることで1.39まで回復することは十分に可能です。それ以上の出生率の回復も夢ではありません。
 フランスは税制優遇や各種手当など幅広い子育て支援策を実施することで、1994年から06年までの12年間で出生率を0.3以上押し上げ、遂に2.0を超えました。(一部にはこの出生率の改善は、アフリカ系移民の人口構成比の増加によるとの意見もあります)
 日本で今後0.3上がれば、1.56となり、04年改正の前提を優に上回ります。フランスにできて、日本にできないわけがありません。一層の少子化対策の強化が望めれちます。
 社会保障審議会の特別部会は先月、国民の結婚や出生に関する希望が実現した場合の出生率の試算を公表しました。
 それによると、希望がすべてかなった場合、40年時点の出生率は1.75に上昇。希望とのギャップが2分の1解消すれば1.50に、3分の1解消すれば1.40に回復するとの結果が出ました。
 少子化の流れを変えることは可能であるし、それは政治の責任でもあります。そのため公明党は子育て支援を社会保障の柱に据えるよういち早く訴え、児童手当や奨学金の拡充をはじめとする、わが国の少子化対策を切り開いてきました。出生率の改善には経済的支援や働き方の見直しなど幅広いアプローチが必要であり、公明党は2006年4月、具体的な“処方せん”として、「少子社会トータルプラン」を発表しました。
無責任な年金制度見直し案より、少子化対策や経済成長、雇用改革、男女共同参画の着実な前進が必要
 マスコミや野党などからは、現行年金制度の見直しが必要との声も聞こえています。
 しかし、前提をことさらに厳しくして制度を見直すと、保険料をさらに引き上げるか、給付をさらに抑制することになります。大切なのは、前提となる出生率や経済などを良くしていくことです。
 04年改正は、従来の5年ごとの見直しを前提とした改革ではなく、急速な少子高齢化を見据え、2100年までの年金財政の安定を見通した抜本改革です。
 単純に考えれば、少子高齢化で年金の受給者1人を支える現役世代の人数が現在の3人から2人、1人へと減っていくことは、保険料を2倍、3倍に上げるか、給付を2分の1、3分の1に下げないと年金財政のバランスが取れません。
 しかし、これでは生活できません。公明党はいかにして庶民の暮らしを守るかに全力を挙げ、「年金100年安心プラン」を打ち立てました。
 年金100年安心プランの特徴は、現役世代の保険料に上限(17年度以降、厚生年金は18.3%、国民年金は月1万6900円=04年度価格相当)を設けて、負担に歯止めをかけたことが一つです。
 二つ目は、給付水準は現状よりは徐々に低下するものの、モデル世帯で現役世代の手取り収入の50%以上という下限を設け、物価スライド以外では年金額自体は減らないよう設計したこと。(マクロ経済スライドの導入)
 三つ目は保険料負担の上限と給付の下限を維持できるよう、基礎年金の国庫負担を3分の1から、2分の1に引き上げるとともに、積立金を取り崩すという政策転換によって、新たな巨額の給付財源を確保したことです。
 保険料は17年度まで毎年、引き上げられますし、足下の出生率が実際に年金財政に影響が出てくるのは20年先です。百歩譲っても、ここ10年、20年は年金支給は全く心配いりません。
 マスコミや民主党などが「前提が甘い」などと批判しますが、前提をことさらに厳しく見積もると、より一層の保険料の引き上げや給付の削減につながり、国民生活は大きな打撃を受けます。少子化対策や経済成長、雇用改革、男女共同参画を着実に前に進めれば、100年安心プランは盤石です。