日本原子力研究開発機構の東海4号機(JRR−4)を活用したがん治療が100例を突破しました。
 これは、「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」と呼ばれ、研究炉JRR−2とJRR−3を用いて悪性脳腫瘍の患者に対する臨床研究が実施されてきました。ここでは、速度の遅い中性子が用いられ、その対象は主に脳の表面にあるがんに限られていました。その後、JRR−4の改造に合わせて、より速度の速い中性子を発生できる中性子ビーム設備を開発し、脳表面のみならず脳内深部にあるがんに対する治療を可能にしました。このBNCTが、1969年の開始以来、今年(07年)2月末までに106例に達しました。熱中性子線をがん患部に照射し、がん細胞だけを狙い打ちする治療法です。BNCTは、がん細胞に集まりやすいホウ素化合物を、事前に体内に注入し、原子炉から発生する熱中性子を当てて超微小の“核分裂”を起こし、がん組織を内側から破壊します。
 JRR−4は、プール型の高濃縮燃料を用いた原子炉で、1965(昭和40)年の初臨界以来42年間、各種の実験、RI製造、教育訓練などに利用されてきました。その後、燃料の濃縮度低減化などの改造工事を行い、1998(平成10)年7月に低濃縮燃料炉心としての臨界に達しました。この改造によって、従来の実験利用はもとより、生物・医療照射、短寿命核種放射化分析、大口径シリコン照射などの幅広い用途に利用されています。原子力機構は、JRR−4を医療目的でも開放。40年近くBNCTについて、地道に臨床試験を進めてきました。98年の改造で、熱中性子の強さを2段階に調整できるようにしました。さらに、熱中性子よりエネルギーの強い「熱外中性子」も使えるように改良されました。
 これにより、皮膚がんには弱く、脳腫瘍には強くと、症状に応じて使い分けができるようになりました。特に、脳腫瘍治療は開頭手術をせずに済み、患者の負担が大幅に軽減しています。
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 また、熱外中性子は、それまで深さ4センチまでのがん治療しかできなかったものを、約6センチまで照射ができ、深い場所のがん細胞治療もできるようになりました。
 しかし、JRR−4を医療目的使用できるのは全体の数割に過ぎず、BNCT治療には週1日に2例しか使用できません。さらに、運転は年間40週程度であるため、治療できる患者数には限界があります。
 BNCT治療は、ほかの放射線治療と比べても生存率が高いとのデータもあり、治療希望者が多数存在します。このため、原子力機構も、治療枠を1週間につき3例に拡大する方向で検討中です。
 このJRR−4の医療目的使用は、当初、筑波大と国立療養所香川小児病院(香川県善通寺市)のグループが中心に行ってきました。今では東大や京大、阪大、徳島大などのグループも取り組んでいます。また、昨年(06年)6月には、近接する地域病院である茨城県東海村立東海病院と連携して、BNT研究者の臨床研究への協力を行う協定を締結しました。これは、BNCTの実施直前にがんの位置等を正確に把握することが必要であり、CTやMRI等の最新医療設備が整備され、それらを用いた検査をBNCTのできるだけ直前に行うことが好ましいため、できるだけ近い医療機関と連携することになりました。
 このようにBNCTに関する体制整備は進んでいますが、この治療はあくまでも臨床研究事業であり、治療希望者が自由に治療を受けることはできません。さらに、治療費は医療保険の適用外で、全額が自己負担となるなど、本格的ながん治療法として確立されるまでには、数多くの課題があります。
参考:原子炉を用いたがん治療研究が100例を突破(独立行政法人日本原子力研究開発機構)
(この記事は、財団法人茨城県原子力協議会発行のパネル図版集、独立行政法人日本原子力研究機構のホームページ、読売新聞2007/3/7付け掲載記事などを資料として作成しました)