急速な繁殖拡大により、放流したアユなどを食べ尽くす漁業被害や糞公害をもたらしているカワウに対して、国が抜本的な対応を行うことになりました。
 環境省は、諮問機関の中央環境審議会野生生物部会の答申を受け、カワウを鳥獣保護法に基づく狩猟対象に指定する方針を固めました。毎年4月のアユ放流時期前の11月から2月を狩猟期間とし、漁業被害の抑制を図ります。
参考写真 カワウは1950年代まで本州以南に広く生息していたが、高度経済成長期に水質汚濁や捕食場所の埋め立てによって大幅に減少。70年代後半には、生息域が全国で5地域程度になっていました。
 しかし、水質の改善などによって80年代以降は急速に繁殖拡大し、2004年には、41都道府県227カ所で生息が確認されるまでに広がっています。
 それとともに、アユやウグイなどの川魚が捕食される被害が拡大。全国内水面漁業協同組合連合会(全内漁連)によると、03年で43億円だった被害推計は、昨年には73億円に増大しています。
 さらに、カワウの糞には強い尿酸が含まれているために、繁殖地周辺の樹木の枯死や悪臭被害の報告も出ている。そのため、各地でカワウ被害対策を求める声が上がっています。
 カワウ被害の防止対策について、公明党の高野ひろし参院議員(参院選予定候補=埼玉選挙区)は、2002年12月から日本釣振興会と環境省、水産庁などとともにカワウ対策の意見交換会を継続的に開催し、両省庁に対して全国的な対応策の実施を求めてきました。
カワウ、狩猟鳥獣指定へ 漁業被害で(和歌山)
紀伊民報(2007年5月4日)
 環境省の中央環境審議会は、河川でアユを食べたり、ふんによって環境被害を与えたりしているカワウを、狩猟期間内なら捕獲申請の必要がない狩猟鳥獣に指定するよう答申した。近く省令を改正して、11月に始まる本年度の狩猟期から実施する。長年、カワウ対策に悩まされている県内各河川の漁協では「いままでより被害が少なくなる」と期待している。
 カワウは主に、アユが天然そ上する春と産卵期の秋に飛来し、アユを食べる。各漁協は、食害があれば市町村に被害届を出して有害駆除許可申請し、許可されればハンターが猟銃で捕獲(駆除)している。和歌山県ではハンター1人につき10羽の捕獲が認められている。
 しかし、申請してから認可、捕獲までに時間がかかることなどから、県内水面漁連はカワウの狩猟鳥獣指定を国に訴えてきた。狩猟鳥獣に指定されれば、11月15日から2月15日の狩猟期間中、ハンターは許可なしでもカワウを狩猟できる。
 アユ釣りが盛んな日置川でも、カワウの被害は深刻。近年はアユの天然そ上が少ない上、食害によって追い打ちをかけられている。日置川漁協によると、8人ほどのハンターが狩猟しており「銃が撃てれば、追い払うだけでなく個体数も減らせるため効果は大きい」という。
 富田川でも河原の幅が広い下流でカワウの食害が目立つが、近くに国道や県道があることなどから銃猟禁止区域が多い。富田川漁協の組合員がロケット花火を打ち上げたり、かかしを立てたりして追い払っている。同漁協は「カワウが狩猟鳥獣に指定されても、食害が目立つ所では銃が撃てないので、当面は効果が期待できない。今後、銃猟禁止区域を少しでも解除してもらえるように働きかけたい」と話している。
 田辺市では本年度、日高川や富田川で14件の捕獲申請があり、373人のハンターが59羽を捕獲した。昨年度は11件の申請で20羽を捕獲。ハンターの数は多いが捕獲数は少なく「捕獲しても補助金が出ないのと、カワウは肉がおいしくないので狩猟の魅力に欠ける」と話す狩猟関係者もいる。
 カワウはかつては全国に広く生息していたが、1960年代以降、河川改修や干潟の埋め立て、有害化学物質の汚染などで生息数が減少。環境省によると71年には3000羽以下まで減って絶滅が心配された。
 しかし、各地での保護策や河川の水質改善などで、2000年には5万〜6万羽に回復したとみられる。近年は、川のアユを食い荒らしたり、大量のふんでコロニー(集団営巣地)の樹木が枯れるなどの被害が出ている。
 田辺市では、田辺湾に浮かぶ国指定天然記念物「神島」の森林が、カワウのふん害で荒廃したことがある。
 カワウの狩猟鳥獣の指定は、漁業関係者などからの要望を受け、環境省が検討してきた。狩猟鳥獣の見直しは、アライグマやミンクなど5種類が加わり、ムササビなど5種類が除外された1994年以来。これで狩猟鳥獣は計49種となる。