国会が荒れています。5000万件に及ぶ年金記録漏れ問題は、社会保険庁改革問題と相まって相次ぐ強行採決、野党側の暴力による委員会の混乱という醜態をさらしています。テレビやマスコミの報道の多くは、安倍首相の指導性の欠如や内閣支持率の低下といった側面から報道していますが、5月30日付の産経新聞の社説「主張」は、正鵠を得た冷静な分析であると思います。ご批判を覚悟して全文を掲載します。
【主張】社保庁問題 責任は与野党ともにある
産経新聞(2007/5/30 東京朝刊 総合2面)
5095万件の宙に浮いた公的年金(厚生年金と国民年金)記録問題で、野党が「年金の支給漏れだ」「明らかに社会保険庁が悪い」と政府・与党を追及している。
老後の生活に直接結びつく問題だけに、野党側は国民の怒りに火をつけやすい、と7月の参院選をにらんで計算しているのだろう。
社保庁でこうした問題が起きた責任はだれにあるのか。それをもう一度、よく考えてみる必要がある。
民主党はこの問題を安倍政権を攻撃する最大の武器ととらえ、菅直人代表代行は「給付につながらないのは、ねこばばの構造だ」と批判する。
だが、菅代表代行は社保庁を監督する責任のある厚生相を経験した一人である。責任がないとは言い切れない。ひとごとのように批判すること自体、責任逃れではないだろうか。
他の野党も、単に批判するだけでなく、問題解決の最善策を国民のために探るべきだ。責任は与野党ともにある。年金問題は本来、超党派で取り組むべき問題である。
社保庁の不祥事は今回の支給漏れだけではない。不正手続きで保険料を免除して納付率のアップを装う。有名人の年金情報をのぞき見して漏らす。組織ぐるみで裏金をつくる…など、問題が次々と発覚し、社保庁は“不祥事の百貨店”と揶揄(やゆ)されてきた。
この間の代々の社保庁職員はもちろんのこと、彼らを指導する同庁や厚生労働省の幹部、長官、大臣にも責任がある。安倍晋三首相が歴代の社保庁長官の責任を明確にする指示を出したのは当然である。
支給漏れは、社保庁の年金記録管理の杜撰(ずさん)さが最大の原因であろう。
だが、保険料の納付率を上げるためのノルマを課さないよう社保庁に約束させていた労働組合の体質が、一部不祥事の根っこにあることも忘れてはならない。民主党はその労組を支持母体の一つとしている。
与党は支給漏れ救済の特例法案を秋の臨時国会を待たずに、今国会に提出した。しかし、野党議員らの強い抵抗で、社保庁改革関連法案は29日の衆院本会議での採決が見送られた。25日の衆院厚労委員会の採決も混乱した。
国民の年金を支える社保庁の改革を政争の具にしてはならない。
民主党菅直人代表代行は、まず自らの非を国民にわびよ
基礎年金番号が導入されたのは平成9年1月。それまでは、年金番号は厚生年金や国民年金などバラバラで、転職や結婚などにより、一人で何冊もの年金手帳を所有する人も多くいました(つまりいくつもの年金番号をもっていた)。これでは、いざ年金をもらう時に、年金の記録の統合(名寄せ)が大変で、場合によっては複数の年金が同一人物の年金として正確に把握できないこともありました。そこで、年金番号を統一しようと「基礎年金番号」制度が導入されたわけです。基礎年金番号導入時には、約3億件の記録があったそうです。導入から、9年半で約2億5000件の名寄せが完了し、未だに5000万件強の記録の照合が終わっていないということです。
産経新聞は、「民主党はこの問題を安倍政権を攻撃する最大の武器ととらえ、菅直人代表代行は「給付につながらないのは、ねこばばの構造だ」と批判する。だが、菅代表代行は社保庁を監督する責任のある厚生相を経験した一人である。責任がないとは言い切れない。ひとごとのように批判すること自体、責任逃れではないだろうか」と指摘しています。
この点を具体的に検証してみると、基礎年金番号の導入準備を行っていた前年の5月26日、参議院本会議での公明党の山本保議員と当時の菅直人厚生大臣の質疑の記録が残っています。山本議員は、個人のプライバシーの問題と基礎年金番号との関係で質問をしていますが、当時の菅大臣は「基礎年金番号は、現在の年金番号を各制度で共通して使用できるものとすることにより、行政サービスの向上と未加入者の解消を図ろうとするものでありまして、公的年金加入者を対象とするとともに、専ら年金業務において使用されることを目的として実施するものである、このように考えております。基礎年金番号の実施に当たりましては、プライバシー保護の重要性にかんがみ、徹底した対策を講じ、万全を期してまいりたい、このように考えております」と、本会議場で明言しています。結果的に、この発言通り「万全を期して」さえいれば、今のような記録漏れの問題は発生しなかったわけです。政府・与党を口汚く批判する前に、どのような手立てで年金記録の回復を行うか、具体的に提案すべき責任があります。
社会保険庁改革を妨げる黒幕は自治労・国費評議会!?
さらに、今回の問題は社会保険庁の労働組合の問題と密接に関係している事実を忘れてはいけません。
自民党の中川秀直幹事長は、自身のブログで「こういう問題を引き起こしたのは、社会保険庁で様々な不祥事を起こしてきた公務員労働組合である自治労・国費評議会の体質である。そういう官公労、自治労を擁護してきた民主党が、菅直人厚生大臣以来の自治労・国費評議会のそういった公務員組合体質が原因の年金の記録漏れ問題を起こしたのである。政府案を潰すために、そして自治労・国費評議会の組織を守るために、政府与党を攻撃して、この法案を潰そうとすることは、まったく国民から理解を得られる行動とは思えない」(2007/5/27付け「(社保庁法案成立)民主党は今日の採決でも、委員長の口をふさいだり、マイクを飛ばしたりしたが、極めて遺憾である」)と、言い切っています。社会保険庁を分割して、職員の身分を公務員から民間に移行するという改革案に対して、一番反対しているのは、職員の労働組合です。何よりも公務員としての身分を守りたい、自治労という組織を守りたいという一念で、この社会保険庁改革案をつぶすために考えた最後の秘策が、年金の5000万件の記録漏れを今の時期に「政争の具」として国会に持ち出すことだったのではないかと、勘ぐりたくなります。しかし、結果は全く裏目に出て、社会保険庁の解体法案と年金記録漏れの救済法案は同時に成立しようとしているわけです。
国民の財産である年金を受給者に一刻も早く戻すために、国会は与野党を上げて真剣な議論を積み上げるべきです。特に、民主党をはじめとする野党は、この問題を政局として、参院選の票捕りの道具として使う戦術を改めるべきです。
基礎年金番号が導入されたのは平成9年1月。それまでは、年金番号は厚生年金や国民年金などバラバラで、転職や結婚などにより、一人で何冊もの年金手帳を所有する人も多くいました(つまりいくつもの年金番号をもっていた)。これでは、いざ年金をもらう時に、年金の記録の統合(名寄せ)が大変で、場合によっては複数の年金が同一人物の年金として正確に把握できないこともありました。そこで、年金番号を統一しようと「基礎年金番号」制度が導入されたわけです。基礎年金番号導入時には、約3億件の記録があったそうです。導入から、9年半で約2億5000件の名寄せが完了し、未だに5000万件強の記録の照合が終わっていないということです。
産経新聞は、「民主党はこの問題を安倍政権を攻撃する最大の武器ととらえ、菅直人代表代行は「給付につながらないのは、ねこばばの構造だ」と批判する。だが、菅代表代行は社保庁を監督する責任のある厚生相を経験した一人である。責任がないとは言い切れない。ひとごとのように批判すること自体、責任逃れではないだろうか」と指摘しています。
この点を具体的に検証してみると、基礎年金番号の導入準備を行っていた前年の5月26日、参議院本会議での公明党の山本保議員と当時の菅直人厚生大臣の質疑の記録が残っています。山本議員は、個人のプライバシーの問題と基礎年金番号との関係で質問をしていますが、当時の菅大臣は「基礎年金番号は、現在の年金番号を各制度で共通して使用できるものとすることにより、行政サービスの向上と未加入者の解消を図ろうとするものでありまして、公的年金加入者を対象とするとともに、専ら年金業務において使用されることを目的として実施するものである、このように考えております。基礎年金番号の実施に当たりましては、プライバシー保護の重要性にかんがみ、徹底した対策を講じ、万全を期してまいりたい、このように考えております」と、本会議場で明言しています。結果的に、この発言通り「万全を期して」さえいれば、今のような記録漏れの問題は発生しなかったわけです。政府・与党を口汚く批判する前に、どのような手立てで年金記録の回復を行うか、具体的に提案すべき責任があります。
社会保険庁改革を妨げる黒幕は自治労・国費評議会!?
さらに、今回の問題は社会保険庁の労働組合の問題と密接に関係している事実を忘れてはいけません。
自民党の中川秀直幹事長は、自身のブログで「こういう問題を引き起こしたのは、社会保険庁で様々な不祥事を起こしてきた公務員労働組合である自治労・国費評議会の体質である。そういう官公労、自治労を擁護してきた民主党が、菅直人厚生大臣以来の自治労・国費評議会のそういった公務員組合体質が原因の年金の記録漏れ問題を起こしたのである。政府案を潰すために、そして自治労・国費評議会の組織を守るために、政府与党を攻撃して、この法案を潰そうとすることは、まったく国民から理解を得られる行動とは思えない」(2007/5/27付け「(社保庁法案成立)民主党は今日の採決でも、委員長の口をふさいだり、マイクを飛ばしたりしたが、極めて遺憾である」)と、言い切っています。社会保険庁を分割して、職員の身分を公務員から民間に移行するという改革案に対して、一番反対しているのは、職員の労働組合です。何よりも公務員としての身分を守りたい、自治労という組織を守りたいという一念で、この社会保険庁改革案をつぶすために考えた最後の秘策が、年金の5000万件の記録漏れを今の時期に「政争の具」として国会に持ち出すことだったのではないかと、勘ぐりたくなります。しかし、結果は全く裏目に出て、社会保険庁の解体法案と年金記録漏れの救済法案は同時に成立しようとしているわけです。
国民の財産である年金を受給者に一刻も早く戻すために、国会は与野党を上げて真剣な議論を積み上げるべきです。特に、民主党をはじめとする野党は、この問題を政局として、参院選の票捕りの道具として使う戦術を改めるべきです。